第49話 無防備少女

 はじめての椎崎の部屋。いや、初めて女子の部屋に入る。緊張してくるぜ。

 鍵穴に入れてひねる。鍵のあく音が聞こえる。ここまでみみが繊細になったのも久しぶりだ。

 扉をゆっくりと開ける。空気の音も聞こえている。悪いことしてないのになんか空き巣に入ったかのように音を立てないようにゆっくりと歩いている。

 さらにリビングへの扉をあける。

 そこには氷枕で寝ている椎崎がいた。顔を真っ赤にして息も少し荒い。だが、水分補給用にテーブルに飲み物や薬などを置ている。着替えも近くにきれいに並んでいる。椎崎姉は口ではひどいいいようだったが最低限の用意だけはしたようだな。お礼らなくないか。

 それにしても椎崎らしいかわいらしい部屋だ。ぬいぐるみの数もすごい。学校で仲良く連中には見せられない部屋ではあるがな。

「誰?」

 ベットからかすれた声が聞こえる。

「起こしたか。悪いな」

「りん、たろうくん?」

 表情からもつらさを感じてくる。相当無理していたようだな。

「調子はどうだ?」

「ごめん」

 いきなり謝ってくる。

「最初にそれをいうかよ。無理はよくないがあれだ。無事なら問題ない」

 学校に戻ったら噂で苦労するのは椎崎だし。自業自得だ。

「運んでくれたの?」

「いや誰か迎えにきたらしいぞ。俺はさっききた」

 椎崎姉のことを話したら確実に混乱をうむ。当本人に口封じされてるからともあるがめんどうなことにはしたくない。

「誰だかわかる!」

 起き上がる。そのまま頭を抱え枕に顔を落とす。

「無理するなって。誰なのかはわからない。そもそも俺はかかわってないから噂が広がるまで熱があったことも知らなかった」

「そうですか。うつすとわるいので帰っていいですよ。鍵も持って帰ってしめてほしいです。何かあったら連絡します」

「いや、連絡先知らないんだけど」

 いままで出かけたりしていたが椎崎の連絡先を聞くタイミングがいちどもなかった。

「携帯に登録しててください。今の私でもわかるようにお願いします」

 さすがに無防備すぎだろ。鍵は持って帰ってよく、携帯も見ても大丈夫なんて。

 椎崎の携帯を見る。連絡先には誰も登録されていない。あくまでスペアの携帯にって感じか。

「登録した」

「ありがとうございます」

 こんな状況で椎崎と連絡先を交換できるとは。これで今後の連絡は楽になりそうだ。

「明日はちゃんと休めよ」

「…わかりました」

 これは明日ちゃんと休むことを約束してから学校に向かった方がよさそうだな。今のこいつは無理をして明日も登校しそうだ。

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