第90話 何もかもを無にする

 あと一時間で本番。状況を壊さず椎崎も救う。加えてすべてを終わらせる。一般客が入る前に片付けないと問題が大きくなる。だからすぐさま行動するべきだろう。

「大和」

「なんだよ」

「今から何が起こっても俺を支えてくれるか?」

「安心しろそのつもりだ」

「俺もいっからな。大船に乗った気持ちでいろよりんたろっち」

「ありがとう」

 普通ならうざく感じる上野の言葉も今の俺にとっては勇気をくれる。

「え、純粋に感謝されたんだけど。めっちゃうれしい」

 やはりそこまで大きい感じでなく微力なものとしておこう。

 あとはこいつにも断っておかないとだな。あとから文句言われるのあ変わらないが。

「木佐山」

「いやです」

「即答だな」

 やはりこいつには隠すのは無理だろうな。

「あなたも変です。そうやって。何をするかはわかりませんが、あなたは思った以上に真面目なので信じます」

 一番欲しかった信頼を得ることができたようだ。これだけでも今回の実行委員としても最大の成果だろう。

 大きく息をすってはく。

「椎崎」

 あいかわらずずっとそわそわしていた。昨日火傷したところには絆創膏をはっている。体育館を見る限り椎崎を見に来た奴もいた。都合がいい。状況は完璧。

「お前やっぱり今日降りろ」

 場がどよめいた。当然だ。もう45分程度で始まろうとしている。中心の一人をはずそうといったのだから。

「おい草加失礼だろ」

 荒巻先輩がはいってくる。

「先輩だって昨日の見てわかるでしょ。こいつの調子が悪い。失敗は許されない。だったらどんなにできる奴でも外すのが得策でしょう」

「んだと」

 めちゃくちゃ怖いだがここでひくわけにはいかない。

「もう二人とも落ち着いて。それで椎崎さんどうなの?」

 永島先輩が仲裁に入ってくる。思ったより大事になるかもな。

「やります。昨日みたいなミスはしません」

 手は震え何かにおびえているように感じる。それでよくまぁ大丈夫といえたものだ。

「みんな思ってるぞ。お前がいなければ変な心配をする必要がないって」

「だから草加言い方!椎崎さんだって頑張っているんだから。本番に疲れ見せてもしょうがないだろ」

 荒巻先輩は熱い人だし人間関係を大切にすることは理解できる。

 そして伝わるぜ大和。必死に止めようとする自分を抑え上野を抑えてくれることを。感じるぜ木佐山。今にでも俺を殴りかかりたいのに静止してくれてることを。

「草加君にそれを言う権利はありません」

 完全に追い込むことができた。第一フェーズはクリアだ。そしてここが突破できれば90%俺のムーブは成功する。

「そうやってプライドが高いんだよお前は。一緒に仕事して気づいた。お前は周りから期待されてるだけでなく心配もされている。だからそうやって無理をしても大丈夫なんだろ。できなければみんなに支えられたと感謝をするだけでいい。誰からも何もいわれないのは楽でいいな」

 だんだんと椎崎も怒りを見せてくる。悔しそうにしている。もちろん俺だってわかっているこいつがそんな卑怯なやつでないことを。無理に仕事したときと同じ。だが、あの時と違うのはあきらかに椎崎が不安定あること。そして俺が椎崎をさらに怖そうとしていること。

「俺はそいつらとは違う。だからはっきいうぜ。お前は」

「もういいから」

 永島委員長が止めようとした。

「いい加減にしろ!」

 そこに大和が俺に突っかかってくる。それに合わせて上野は俺を止めに入ってくる。我慢の限界がきたのだろう。フェーズ2。大和の介入成功。先輩がわってはいってくるのは予想できなかったがいい感じの雰囲気にはなったな。

 椎崎はその場で固まってしまう。

「椎崎さん大丈夫」

 委員長がなぐさめようとする。

「ごめんなさい」

 その手を払い外に走りだした。

「椎崎さん!」

「結局できないからそうするんだろ」

「倫太郎!もういいだろ」

 これですべてが終わった。あいつの心は完全に壊れた俺に完全に失望しただろう。あとは椎崎姉の修復ですべてが終わる。

「草加君いくらなんでもいいすぎ」

 怒っているのだろがなるべく温厚を保ってくれている。さすが委員長を任された人だ。俺がいうのなんだがリーダーにむいている。

 俺の印象は最悪だろうな。この日まで積んできたものは一発で崩れるレベルで。

「お前一回外出て少し考え直してこい。このまま仕事できると思うな」

 荒巻先輩はさすがに怒っている。俺に期待していた分悔しいのだろうな。

「そうさせていただきます。本番には間に合わせます。」

 自然と外に出れる。誰にも気づかれていないよな。これで終わってしまえば椎崎が心配されるだけだ。仕事を投げ出したと思うやつもいるだろう。だから誰も俺を止めるなよ。これが最後の布石だ。

 俺はどうどうと裏から体育館にでた。それもものすごく嫌な顔をして。

「あいつって。草加だろ」

「あいつ椎崎さんに何かしたんだ」

「最低。本番で椎崎さんを傷つけるためにわざとやったっていうの?」

「あんなやつに期待もって失敗だった」

 すべてが結びついた。椎崎ブランドは落ちない。なぜなら。俺が椎崎に何かをした最低やろう。優しい草加倫太郎と誰もが思ったおかげで悪い自分を目の当たりしたインパクトが高い。それにいままで噂の一人歩きだったものが現実になった。

 そして椎崎はかわいそうな存在となる。だが俺をもともとの状態に戻しただけで誰も不幸になっていない。あ、でも退学の可能性はあるのか。別いいか。いい感じにやめることができる。仕事はちゃんとする。椎崎の抜けた穴も含めてうめないとだしな。

 草加倫太郎の椎崎との関係を終わらせる舞台ここに閉幕。

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