第91話 説得など無理だろう

 俺はどうどうと舞台裏に戻る。思ったより雰囲気が悪くない。というより、俺が空気のようにむしられてるだけか。無理して楽しもうとしている感じがする。

「倫太郎」

 大和はすべて結びつけたようだな。普通なら裏で怒りをぶつけてもいい。だが。軽く肩をたたくだけでそれ以降何も言わなかった。

「りんたろうっちさ。俺は友でいるからさ。そう、自分を犠牲にするなよ。りんたろうっちも大事だし魅力あっから」 

 上野はやっぱり優しいな。こいつらがいればいいか。椎崎はさすがに帰ってこないか。

「カス」

 木佐山はきっついな。仕方ないか。それそうおうのことをしたのだから。

「よく戻ってきたな」

「仕事あるんで。二人分の」

「…」

 先輩にはそこまで怒られなかった。誰かが何かを話したのかもな。普通なら追放されてもおかしくないことだし。

「みんな。はりきっていこうね!!」 

 気合をいれる委員長。

「よーしやるか!」

 周りもそれに合わせて気合を入れなおす。

「では俺は持ち場につきます」

 これで俺は1人になれる。

「私も行きます」

 そう思ったが本来同じ仕事をする予定だった木佐山がついてくることになった。

「別にいらないぞ」

「委員長の命令なので仕方ないです」

 信頼はもうなさそうだな。一番怒っているのは木佐山だろうし誰もいないところで二人きりは何かをされる可能性が高い。

「一つだけいいですか?」

「カスの発言でよければ」

「嫌われるように話した理由はなんですか」

「いつも通りだ。お前も騙されてたな」

 悪役になった以上。このまま貫かないと意味がない。

「ヤッパリあなたは嫌いです」

 言葉だけで特に手を出すことはなかった。


 仕事は順調。椎崎の仕事は大和たちが完璧にこなした。俺らの方は木佐山が優秀すぎた。ステージが終わり交代のタイミングで俺が片付ける手伝いをしているときに裏で道具を受け取っていた。すごくスムーズに交代ができたのは影のサポーターのおかげといえる。 

 どんな人が何の歌やダンスを披露したかは正直わからない。作業はいそがしいしそもそも裏で音がしっかり聞こえないし。ステージがお終わり上がりしてたのだけはなんとなくわかった。とりあえず成功したといってもよいのだろう。

 無事にすべてのプログラムが終わった椎崎は結局戻ってくることはなかったな。


「みんなお疲れ!!さいっこうだったよ。片づけは後にして残り少ないけど文化祭を楽しんでね。あ、草加君だけは残ってね」

 すべて終わったあとに説教だろうな。これが最後になるだろうしちゃんと聞いて教訓にするか。

 

 みんなは体育館をでていった。

「今日打ち上げするから」

「まさか俺に参加しろと?」

 直接止めようとしてくれた。俺がいるだけで空気が悪くなるのはわかりきっているだろう。

「もちろん強制。あんなことしたんだから最後くらい従ってもらう。それとあなたには仕事残ってる」

 さすがに迷惑かけすぎたし最後くらいいい人でいるか。

「なんですか?」

「椎崎さんを打ち上げに参加させること」

「無理です」

 つい即答してしまった。今の椎崎を説得。高難易度すぎる。そもそも傷づけた俺が説得するってどういう状況だよ。

「無理でもやるの。あんなひどいこといったんだからちゃんと謝って仲直りするの。もし仲直りしたのなら今回のことは全部許す。誰が何と言おうと委員長権限でなかったこととします」

 俺と椎崎はすでに終わったのだ。今また声を掛けたらあいつを傷つけた意味がない。

「わかりましたできる限りやってみます。期待はしないでください」

 永島先輩は折れることはないだろうし従うそぶりだけは見せておこう。このまま無理だったで終わった打ち上げに参加しなければいい。

「よろしく」

 さてと椎崎を探す。いや探さないで残りの時間は1人ですごすか。

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