第226話 朝の誘い

 美咲に全てを打ち明けたことで、少し気が楽になった気がする。今まで一人で抱えていた重荷から、ようやく解放されたのかもしれない。

 いつも通りの登校だが、どこか警戒心が抜けない。昨日の襲撃を考えれば、敵は俺のことをある程度把握しているはずだ。今、油断しているタイミングを狙われてもおかしくない。ただの復讐が目的ならまだしも、他に何か狙いがあるのだとしたら、それが何なのか見当がつかない。


 そんな警戒心を抱えながら向かった朝の通学路。しかし、特に何事もなく学校に到着した。とりあえず無事で何よりだ。校内を見回しても、昨日のことに関する噂話は聞こえない。美咲の方も何事もなかったようで安心する。


「倫太郎っち、おはよ!」

 朝だというのに、いつも通りのハイテンションで挨拶してくる上野。

「朝からうるせーな。……その、昨日はありがとな。助かったよ」

 昨日の出来事を思い出し、感謝の言葉を伝える。もし上野が来てくれなければ、美咲が怪我をしていたかもしれない。


「気にすんなって。友達だからな!」

「ほんと、頼もしいわ」

 照れ隠しのように軽口を叩いたが、心の底から感謝している。ただ、あの場に偶然居合わせたにしてはタイミングが良すぎる。それについて聞いてみたい気もするが、上野は俺たちの関係を表沙汰にしないと言ってくれた。その意図があるなら、深く詮索するのは無粋かもしれない。


「二人ともおはよー!」

 そこへ、双葉が勢いよく飛び込んでくる。

「おはよ」

 軽く挨拶を返すと、双葉は不思議そうに顔を覗き込んできた。

「え、何そのテンション低いの?なんかあった?」

「いや、別に何もないよ」

「そっか!ならよかった!」


双葉はすぐに表情を明るくすると、話題を切り替える。

「ところでさ、今日暇?」

「ごめん、俺は予定あるから無理だわー」

上野がすぐに返す。どうやら今日は何か用事があるらしい。

「俺は暇だけど?」

そう答えると、双葉は満面の笑みを浮かべた。


「よかった!今日ね、友達とスイーツ食べに行くから、暇なら付き合ってよ!」

「いいけど……」

双葉の「友達」と言える人物は少ない。俺たち以外となると、きっと彼女が以前助けられた相手だろう。


「ありがとう!その友達、みんなに会いたがってたからさ!放課後ね!」

そう言い残すと、双葉は駆け足で教室へと向かって行った。俺たちも同じ教室なんだから、一緒に行けばいいのに、と心の中で突っ込みつつ、上野と顔を見合わせる。


「……元気だよな、あいつ」

「ま、あれが双葉だろ」

上野が肩をすくめる。そんな会話を交わしながら、俺たちも教室に向かうのだった。

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