第160話 かつ丼の意欲

 美咲がおぼんに三つのどんぶりを用意してくる。今日はかつ丼だ。かつの上にのった卵がさらに引き立てる。

「おい琴音。できたぞ」

 膝の上で眠っている琴音の頭を軽くたたき起こす。

「うーん。もうちょっと」

 しかし、起きようとしない。

「飯できたぞ」

「ごはん!!」

 飯と聞きつけいっきに頭を上げて起きてくる。

「かつ丼だ!!!」

 すごくうれしい笑顔を見せる。

「いただきます」

 そして俺の膝の上に座りそっさく食べようとする。

「とりあえず降りてくれ」

「あ、ごめん」

 どいて隣に座った。

 

 箸を手に取り、そっとカツの一切れを掴んだ。卵がとろりと流れるその一瞬に、思わず息を呑む。口に運ぶと、カツのサクサクした衣と柔らかい肉が一体となって、口の中で広がる。


「うまい…」思わず独り言がこぼれる。甘辛いタレがご飯と絡み、噛むたびに旨味が押し寄せてくる。次から次へと箸が進み、気づけば丼の底が見え始めていた。最後の一口を頬張りながら、満足げに微笑んだ。

「美咲さん今日も最高においしいです」

「ありがとうございます」

「これで明日もジャンジャン進めることできますよ」

 寝て起きてすぐとは思えないほど元気が戻っている。

「無理だけはしないでくださいよ」

「わかってますって。程よく進めるですよね」

 そういっても一度走りだしたら琴音はきっと止まらないだろうな。

「ところで今日の私はどうでした?」

「そうですね。予想以上に飲み込みが早かったです。正直入りたての時はあなたのメンタルが持つのか心配でしたが問題なさそうです」

 美咲にも高評価をもらえている。俺も琴音については驚いている。陸上から勉強にシフトチェンジしただけで彼女の才能は変わらず開花する。妹の才能に関心してしまうわ。

「正直、倫太郎君と勉強したときより力抜けました。あれ、でもあなたと勉強したことないですよね?」

「あるわけないだろ。何夢を見てるんだ」

 即刻否定をした。今の美咲には俺に勉強を教えた記憶なんてない。奥底に眠っている封印された記憶が何かをきっかけに脳に残ったにすぎない。今は琴音もいるし彼女の記憶について触れさないためにもすぐに否定をする。

「そうですよね」

「美咲さんに教えられたらお兄ちゃんはもっといい点数取ってますよ」

 点数を上がったには変わりないが周りからしたらそれあ正論だろうな。

「明日数学を仕上げてほかの教科も進めますか」

「そうですね!」

 琴音が勉強に意欲を生んだのは美咲の才能だ。そのおかげで琴音の実力が発揮された。まじで俺らと同じ高校に行くのが現実になってきたのかもな。


 

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