第277話 美咲の恩返しディナー
家に帰ると、美咲はすでにキッチンで料理の準備を進めていた。普段は簡単な食事で済ませることが多いが、今日はどうやら本気らしい。
「何作ってんだ?」
「豪華にすると言ったので、ちゃんとしたものを用意しています」
コンロの上では煮込み料理がぐつぐつと煮え、フライパンからは香ばしい音が響いている。テーブルにはすでに副菜が並べられており、普段では考えられないほどの品数が揃っていた。
「すげぇな……これ全部お前が作ったのか?」
「ええ。当然です。恩返しですから」
美咲は淡々と答えるが、その手際の良さには目を見張るものがある。料理が得意なのは知っていたが、ここまでの腕前だったとは思わなかった。
「普段よりレベル高いな」
「今日は特別ですから当然です」
そう言うと、美咲は鍋の蓋を開け、中のスープを一口味見する。満足そうにうなずくと、すぐに火を止めた。
「そろそろできるので、座っていてください」
言われるがままに席につくと、次々と料理が運ばれてくる。肉料理に魚料理、サラダにスープ……本当に豪華な食卓だ。
「いただきます」
「いただきます」
一口食べてみると、文句なしにうまい。美咲の料理はいつも美味しいが、今日は特に気合が入っているのが伝わってくる。
「……マジでうまいな」
「いつもより高い食材を使用していますから当然です」
そんな高級な食材、いつ用意したんだ? 俺の知る限り、美咲が買い出しに行く姿は見ていない。
「にしても、恩返しでここまでやるか?」
普段からかなりいいものを食べさせてもらっている。それを考えると、特別感を出すためには相応のクオリティが求められるのかもしれない。しかし、今日はそこまで大きな恩を作ったとは思えない。
「やりますよ。それくらい」
「助けたってほどのことはしてないけどな」
むしろ、俺のせいで美咲が保健室に閉じ込められる羽目になったとも言える。
「あなたのせいで保健室に閉じ込められましたし」
「それはお前が勝手にやったことだろ」
そう返すと、美咲はわずかに口元を緩め、珍しく小さく笑った。
「まぁ、結果的に助けられましたので、今日は特別に感謝しています」
「そりゃどうも」
普段は感情をあまり表に出さない美咲が、こうして直接恩返しをしてくれるのは珍しい。たまにはこういう日があっても悪くないかもしれない。
食事を終え、片付けを済ませると、美咲はソファに腰を下ろし、少し疲れたように息をついた。
「ごめんなさい。今日は疲れてしまったので、片付けの方は任せてもいいでしょうか?」
「それくらいはやらせてくれ」
「ありがとうございます」
いつもは何でもそつなくこなす美咲が、素直に頼ってくるのは少し新鮮だ。黙って皿を片付けながら、たまにはこういうのも悪くないなと思った。
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