第80話 変化しすぎる椎崎。

「椎崎さん」

「ごめんなさい。今忙しいです」

「椎崎さーん」

「あ、ごめんなさい。今手空いてないです」

 今日の椎崎はやはり変化が激しい。昨日は話聞きすべてを了承していた。だが今日は全くの逆。話すら聞かずに拒否の意思を表明している。

「椎崎様少し休んだ方が」

「今は仕事中だから…」

 休憩すらも追加のお願いかのように拒否をする。それも木佐山の言葉なのがさらに気になっている。

「あの椎崎さまを止めてください」

 木佐山も今日の椎崎にはお手上げのようだ。心配しているのは間違いないが。

「ちょっと話してくる」

 さすがにここまで極端になると思わなかった。ここまで俺の命令にしたがうとは。これは俺にも責任があるかもしれないし。

「椎崎。ちょっといいか?」

「今作業中ですので」

「いいから」

 無理やり手を引き人目のつかないところにむかった。

「あの。早く作業しないと。帰れなくなるかもです」

 俺と二人だけの状態でも態度がまったくかわらない。

「昨日のこと気にしてるなら謝る。悪かった」

「?なんのことでしょうか」

 不思議そうにしてくる。あたかも昨日俺が何も言ってなかったかのように。

「今日のお前おかしいだろ」

「私はおかしくないですよ」

「昨日と全く違うだろ」

「私は私ですよ。しっかりするのが私です」

 言葉はいつも通りだと思われるが自信を感じない。定型文を話しているようだ。

「別に手伝うなとはいってない。負担になることをするなそれだけだ」

「さっきから何言ってるんですか?私普通にお断りしてるだけですけど」

「あれが普通っていえるのか?誰の話も聞いてないだろ」

「聞く必要ないでしょ。どうせくだらないことだけですし。その人の話を聞く価値はないです」

 おかしいと思われる態度。今の一言が全てを物語。普段の椎崎は人にいいように見られるようにする。だが、今は相手の価値で判断をしている。これは嫌われる好意だろ。

「お前本気でいってるのか?」

「だってあなたがいったんでしょ。私はそれを守ってるだけです否定されるようなことはしてまん」

 だんだんと分からなくなってくる。ほんとの椎崎っていったいどれなんだ。今目の前にいるのは俺の知る椎崎なのか。

「あなたも今日は帰っていいですよ。必要ないので」

「わかった。帰る」

 今日のこいつとは話が合わない。むかついてくる。帰れって言葉はいい口実になる。

「もうこなくていいですよ。あなたいると時間が」

「黙れ」

 自然と椎崎に詰め寄っていた。

「夕飯はしっかり作るので家で待っててくださいね」

 今のこの状況でもしっかりと役目は果たすってことか。さらにむかついてくる。まるでいわれたことだけを完ぺきにこなすロボットかよ。


「すいませんちょっと体調悪いんで帰ります」

 椎崎をつれだしたやつが1人で戻ってきて急に体調不良という。明らかにやばいやつと思われるだろう。だが、すぐにでもここを出たい。

「あの。椎崎様は」

「知らん」

 木佐山をはねのけ教室からでていく。

 廊下では不敵な笑顔を見せる椎崎が手を振ってくる。

 

 今日はこれで終わりだ胸糞悪い。さっさと帰ろ。

 駐車場を通るとき赤い高級車が見えた。またあの人が来てるのか。いやないな。人違いだろう。

 

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