第64話 椎崎さん
「椎崎美咲です。よろしくお願いします」
俺の目を堂々と見て挨拶をしてくる。見せる笑顔は学校のほかの男子と全く同じ。俺と普段会話しているときの力を抜いた表情ではない。これがベテランの演技力ってやつか。
「草加倫太郎。よろしく」
そっけない雰囲気であいさつを返す。
「草加君。なるほどわかりました」
さらに椎崎はテクニックを見せてくる。こいつは普段俺のことを下の名前で呼んでいる。そして今は苗字読み。普段と名前の呼び方を変えるだけで切り替えができている。それに対して俺は椎崎。から椎崎さんっとさん付けをするだけだ。正直呼び捨てにしそうで大変だ。
「草加くんと大和くんって面白い構成ですね」
お前はずっと知っていただろ。状況も俺は話している。
「倫太郎は面白いやつなんだよ。椎崎さんとも仲良くなってもらいたい」
余計なことをいってくる大和。これを俺との距離をつめるきっかけにしてくるだろう。
「そうですね。ここでならだれにもガードされませんし。仲良くしましょうね」
いわれてみれば椎崎の目的はほとんど達成されているのか。いつも俺との視界を遮ったりしている人は誰もいない。現に椎崎は今一人でいるし。廊下にはいるだろうけど窓から中が見えないしこの光景は隠せる。
「勝手にしてくれ」
目をそらす。
「あの、警戒してます」
そらした方向に椎崎が顔をだす。上目づかいで。
「…なんでもね、ないですよ」
なるべく敬語で話そう。普段と違う状態にするために。作り笑顔を見せる。
「警戒されるほど私は怖くないですよ」
椎崎姉と似た発言だな。学校で接触するとこいつも相当怖いな。
「そういう発言が怖いんですよ」
すごくぎこちない。普段通り話したい。それほど俺にはやりずらい空間だ。
「へぇ。面白いこと言いますね」
「だろ。椎崎さんの前でもぶれないのやっぱすげーわ」
「また話しましょうね」
椎崎が別の生徒の方に向かう。やっと解放された。
「あれ、俺挨拶してないんだけど」
空気のように忘れられた陽太であった。
「入ってくればいいだろ」
「いやいやいや。椎崎さんだぞ。あんな女神さまを前に初対面でどうどうと話せないだろ。やっぱ倫太郎ッちすげーわ」
こいつでも話せないってことあるんだな。
「椎崎様お久しぶりです」
木佐山と会話をしている。様づけか。
「様付けはやめてもらえますか?」
椎崎が困った顔を見せている。
「ごめんなさい。その。またこうやって一緒に活動出来事感激です!私なんでもお申しつけください。あなたのために動きますんで」
普段の姿からは想像できない光景が目の前に広がる。木佐山が椎崎と話しているときはものすごくうるさい。それに目を光らせすごくうれしそうだ。
「みんなでやるんですよ」
椎崎がひけめをとるほどの実力者。いや椎崎ガチ勢とでも呼ぶべきだろうか。
「椎崎さんは彼氏さんできました?」
「できてませんよ」
「そうなんですね。仲よさそうにしてる方がいたのでてっきり付き合ってるかと」
大和のことだろうな。噂もたっていたし告白するくらいガチ勢の彼女からしたらきになるわな。
「とはいえ、あなたとも付き合うつもりはないので控えてくださいね」
「了解です。またお話ししましょうね」
「もちろんです」
大人の対応をしている。さすがの椎崎もぐいぐいくるタイプは苦手のようだな。
「じゃあ。なんで草加との会話の時楽しそうにしてたんだろう」
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