第223話 平和な日常はいっぺんする


そして1日が経った。いつも通りくつろいでいた。琴音が少し回復できたからあとは時間の問題だと思った。もう少ししたらアパートに帰ろうと考えている。

リビングに降りてきた琴音が突然俺に声をかけてきた。

「りんにい、今日出かけない?」


昨日までの様子が嘘のように、琴音の顔には明るさが戻っている。俺は少し戸惑いながらも、「いいけど、どこに行きたいんだ?」

と返すと、彼女は

「特に決めてないけど、散歩とかでもいいかな」

と微笑んだ。1日でもう外に出れるところまで回復できたのだと思えたら安心した。まだ目にはおばあを感じ取れるが全身し始めたのだろう。


支度を終え、二人で家を出た。目的地が決まっているわけではなかったが、のんびりと町を歩くだけで十分だった。琴音は道端の花や店のウィンドウに飾られた商品に目を輝かせながら、「これかわいいね」

琴音もわりと女なのがわかった。陸上だけにしか目がいかなかった中学生活を送っていたし心配していたが大丈夫そうだ。

「こんな店、前はなかったよね」

といった何気ない会話を楽しんでいた。まだはしゃぐまでは行かなくても歩き進めるために次第に元気をより取り戻していた。



自然と笑顔になり、こうして琴音と仲良く歩ける時間。当たり前であったのだろうがすごく新鮮だ。こうやってゆっくりする時間も大切なのだと気づいた。昨日の夕食時の雰囲気といい、彼女は少しずつ前に進んでいる。そんな気がして、胸の中に温かいものが広がった。


途中のベンチに腰を下ろし、買ったジュースを飲みながら一息つく。琴音は手にした缶を振りながら、ふとつぶやいた。

「りん兄とこうして歩くの、なんだか懐かしいね。小さい頃もよく一緒に出かけたよね」

 ここ最近出かけるとなるとランニングだった。常にヘトヘトで公園のベンチで休むなんてことはなかったな。

「ああ、そうだったな。お前が公園の池で転びそうになって、俺が全力で引っ張ったの覚えてるよ」

 そして過去を振り返っていた。だが、その思いでも普通に琴音らしい出来事だった。

「覚えてる!でも、あの時お兄ちゃんも一緒に池に落ちたよね」

二人で笑い合う。そんな何気ない時間が本当に幸せだった。


そして事件に巻き込まれることになる。

夕方になり、そろそろ帰ろうかと歩き始めた頃だった。

「やめて!!」

突如、遠くから女性の悲鳴が聞こえた。琴音が立ち止まり、俺の袖を掴む。

「りん兄…」

すごく震えていた。人間関係の修復はやはり難しいようだ。

「帰るぞ」

正直巻き込まれるのはごめんだった。知り合いの可能性もないし他人のために変に巻き込まれたら琴音も傷つくだろうし。

「今の…助けに行こうよ」

だが、離れようとする俺を止めてくる。

一瞬迷ったが、琴音の言葉に背中を押されるように、俺は仕方なく頷いた。

「わかった。でも、念のため琴音は警察を呼んでくれ。その間に俺が様子を見てくる」


彼女にスマホを持たせ、近くの安全な場所に留まるよう伝えた後、悲鳴の方へと向かって走り出した。心臓が高鳴る。何が待ち受けているのかはわからないが、ただ黙って見過ごすわけにはいかなかった。


木々が生い茂る細い路地に差しかかると、そこで見たのは、何十名かの男女でたむろしている様子だった。みんなお面やマスクなどをつけて顔をしっかり見えなようにしている。おそらく悲鳴を上げた女子は腕を引っ張られていた。

「おい!何やってる!」

その声に気づいた男がこちらを振り返り、鋭い視線を向けてくる。緊張が走る中、俺は一歩を踏み出した。

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