第43話 明日に向けて

 目が覚める。日差しをさえぎっていたはずのカーテンがなぜか開いている。

「やっと起きましたか」

 体を起こすと二人テーブルで座っている姿が見える。

「カギをかけないとか防犯どうなってるんですか」

 この攻撃的な口調。

「なんでいる」

「私もいるよ!」

 手を上げている。こっちは琴音か。

「お前ら何でいるんだよ」

 そういえば琴音が出て行ったあとカギしめったけな。そういうことか。

「帰ろうと思ったけど挨拶だけはしておこうかなって」

「付き添いです」

 帰りの挨拶の付き添いってなんだよ。こいつも暇なんだろうな。

「とかいってほんとは・・・」

 あおりだす琴音。

「ほとは?」

「いえなんでもないです」

 それを笑顔という圧力で黙らせる椎崎。こいつらこの一夜でだいぶ仲良くなったな。どっちのがなのかわからないがコミュ力はんぱないな。

「今日も走って帰るんか?」

「電車で帰る」

「そっか。なら駅まで送るか。椎崎はどうする?」

「暇ってわけではないですが同行します」

 暇なんだろうな。

「その前に朝ごはん食べていってください」

 キッチンからサンドイッチを持ってくる。お店にならんでもおかしくないハイクオリティだ。

「わーいサンドイッチだ!」

 とびつく琴音は一番がっつりカツサンドを手に取る。

「何食べます?」

「卵で」

 椎崎から受け取る。ものすごくおいしい。朝からこんないいものを食べていいものなのか。コンビニとかの卵サンド食べれなくなるぞ。

「おいしい。さすが美咲さん」

「ありがとうございます」

 美咲はハムとチーズのサンドを食べ進める。自画自賛といっていいもなのかわからないが自分で作ったものでこんな幸せな顔を作ることができるんだな。

 三人で食べ進めて幸せなひとときとなった。


 サンドイッチを食べ終わった俺たちは駅に向かっていた。

「もうすこしいたかったな」

「またくればいいだろ」

 なげきとともに足を止めしゃがみだす。

「またぜひきてください。この人が何かしない限りは引っ越すことはないので」

 同じ高さまで腰を下ろす椎崎。頭をなでるその姿は姉だろ。

「りん兄と喧嘩しても私とは仲良くしてよ?」

「当たり前です」

 簡単な理由で喧嘩して仲悪くなったら琴音に怒られそうだ。そうなれば本当に兄という特権をうしなうかもしれん。気をつけねば。

「約束もできたし帰ろう」

 右足で踏み入れ立ち上がる。足首を回し少しとぶ。この流れ、こいつ椎崎置いて走る気か?

「いこっか」

 そのまま歩き進めた。俺の考えすぎだったようだな。

 俺を仲に入れないような女子トークをし始める。俺の存在はだんだんと空気になっている。

 椎崎が学校で見せない姿。一つは俺に見せる抜けた感情の姿。最近は俺の前でも見せなくなった包み隠さない自分。そして琴音に見せる今の姿。姉のようで、友達と接する姿。学校で見るものとも違っている。

「お兄ちゃんきもいんだけど」

 感心していたら顔がくずれていた。

「なんでもねーよ」

 時間はあっとういまにだった駅についた。琴音はさっきみたいに止まることなくむしろ早く帰ろうとする光景に感じるスピードで改札をでていった。

「風のような人ですね」

「だな」

「帰りますか」

「おう」


 ベンチ座る少女は足を強く抑えていた。顔からは汗が流れ目からは涙を浮かべていた。

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