第209話 眠れる少女と雑煮
ひとまずすでに切られた具材を買って帰る俺と琴音。具材を切らないだけでも少しは美咲の負担を軽減できると考えて判断した。
「美咲さんの寝顔かわいい」
琴音が部屋でぐっすり眠っている美咲の顔を眺めながら言った。部屋のソファーでしっかりと毛布を掛け丸くなって眠っている美咲。その姿は本当にかわいくみとれてしまう。
「邪魔になるから離れよ」
琴音に注意をする。せっかくゆっくり寝ている中で俺たちがうるさくして起こしてしまうのは申し訳ない。
「静かにしてるからもう少し」
しかし琴音は離れようとしない。どさくさにスマホを取り出しカメラを向けだす。
「お前」
琴音を重ねて再度注意をする。しかしいつもみたいに大きな声で起こることができず怒っている感じがしない。
琴音は俺の注意に気づかないまま数枚写真を取り出す。
「よしこれでいいかな」
たちあがりキッチンの方にいく琴音。近くにいる間、美咲が起きるそぶりを見せなかったため少し安心している。
「雑煮つくろっか」
琴音がやる気を見せてくる。
「そうだな」
今の美咲の光景を見ていると起きた後に頼むも申し訳なくなってきた。多少おいしくなかったとしても頑張ることに決めた。
キッチンに立った俺と琴音。とはいえ、二人とも料理はほぼ初心者で、どう作るかなんてイメージも曖昧だ。
「とりあえず、切られてる具材買ってきてるしこれなら簡単にできるはず!」
琴音は張り切っているが、その言葉に少し不安を覚える。
「まあ、そうだな…まずは出汁をとるとか、じゃないか?」
俺はあいまいな記憶を頼りに鍋を探し、キッチン台に置いた。
「うんうん、出汁ってお湯に入れるやつでしょ?袋にあるし簡単だよ!」
琴音は自信満々に、棚から出汁のパックを取り出し、鍋にお湯を注いで火をつけた。
「お湯、こんなもんでいいのかな?多すぎると味が薄くなる気がするんだけど…」
俺が鍋の中を覗き込むと、琴音も一緒に顔を近づける。
「確かに。少し少なめにして、足りなかったらあとで調整すればいいんじゃない?」
二人で頷き合い、慎重にお湯の量を調整し、出汁パックを入れる。
「そしたら、具材を入れてみる?」
琴音が袋を覗き込み、もうすでに切られた大根やにんじん、里芋を取り出した。
「お、いいね。それぞれ入れてみるか。でも、火の通りが違うだろうから、硬そうなやつから順番に入れるべき…なのかな?」
俺がなんとなく呟くと、琴音は「うん、わかる!」と、まずは硬そうな大根とにんじんを慎重に鍋に入れた。
「こういうの、全部一気に入れたほうがラクなんだけど…たぶんそれだと煮え方が均等にならないんだよね」
琴音が少し不満そうにしながらも、具材を一つ一つ丁寧に鍋に投入していく。
「次は里芋だな。それで、最後に餅を入れるって感じか?」
鍋を見守りながら、少しずつ煮えてくる具材の様子を確かめる。
「でも、餅って煮すぎると溶けちゃうんじゃない?」と琴音が不安そうに聞く。
「確かに。最後の最後でいいと思う。でも、あんまり遅すぎると固いままだし、タイミングが難しいよな…」
二人で悩みながら、ようやく餅を鍋に入れるタイミングを決め、慎重に沈める。そして、煮立った雑煮ができあがりつつあることを確認すると、琴音は小さな声で「わぁ…おいしそうな匂い!」と感嘆した。
「よし、これで完成だな。俺たちにしては上出来かもな」
初めての料理。ある程度いいできになったと信じたい。
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