第210話 目覚ます少女と雑煮を食す

出来上がった雑煮をテーブルに並べ、俺と琴音はふたりで美咲が起きるのを待っていた。キッチンにはほんのりと出汁の香りが漂い、まだ寒い朝の空気に温かみを添えている。


「美咲、まだ寝てるかな?」

琴音が囁くように言い、俺も時計をちらりと確認する。まだ早い時間だし、美咲が寝続けていてもおかしくはない。あいつも疲れ切っていたから、少しでも長く寝かせてあげたい気もする。


「そうだな。無理に起こさず、少し待ってみよう。あいつ、昨日まで忙しかったしな」

俺がそう言うと、琴音は少し頷いて椅子に座りなおした。しばらく静かな時間が流れる。


「でも、待ってる間に雑煮が冷めちゃうかもね」

琴音が少し不安そうに鍋を見やる。雑煮が冷めるのも確かにもったいないが、温め直せば問題ないだろう。


「大丈夫だって。冷めてもまた温めればいいし、それに…ほら、あったかい料理って、作った瞬間から待ってる間もなんか心地いい感じがするだろ?」

俺は笑って琴音をなだめた。


「うん、そうだね」

琴音も微笑んで、なんとなく安心したようだ。二人でぼんやりと会話をしながら、美咲の目覚めを待つ。朝の静かな時間が、少しずつ新年の訪れを実感させる。


やがて、廊下から軽い足音が聞こえてきた。振り向くと、眠たそうに目をこすりながら美咲がキッチンに現れた。


「あれ?どうしたんですか、もう起きて…」

まだ半分寝ぼけた様子の美咲が、俺と琴音を見て少し驚いた表情を浮かべる。


「おはよう、美咲!雑煮作ってみたんだ。一緒に食べよう」

琴音が嬉しそうに声をかけると、美咲は一瞬ぽかんとした後、微かに微笑んで「おはようございます」と静かに応えた。


「そうか、雑煮を…ありがとうございます」

少し恥ずかしそうにしながらも、美咲は座り、器の中を見つめている。俺と琴音が作った雑煮を見て、美咲の表情が少し和らぐのがわかる。


「俺たちなりに頑張ってみたけど…あんまり期待はするなよ」

照れ隠しにそう言うと、琴音が「でも、一応いい匂いでしょ?」と自信ありげに続けた。


「ええ、とてもいい匂いです。きっとおいしいですね」

美咲が静かに微笑む。その笑顔を見た瞬間、なんだか少しほっとした気持ちになった。


「じゃあ、三人でいただきますか。新年最初のご飯だからな!」

みんなで「いただきます」と声を合わせ、いよいよお雑煮に箸をつける。出汁の優しい香りがふんわりと口の中に広がり、ほっと温まる感覚が全身を包む。


「うん、やっぱりおいしい!」

琴音が嬉しそうに感想を口にする。美咲も黙って頷き、口に運ぶたびに穏やかな表情を見せる。少しだけ照れながらも、俺もその味をしっかりと楽しんだ。


こうして、俺たちは新年の静かな朝を、ゆっくりとした時間の中で迎えたのだった。

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