第218話 スーパーで買い物

放課後、俺は美咲との約束の目的地であるスーパーを目指して歩いていた。学校の一日は特に変わり映えもなく過ぎ去り、大和たちと少しだけ会話を交わした以外、特に特筆すべきことはなかった。本音を言えば、冬休みの方がもっと自由で楽しかったと感じるが、今日はもともと美咲との予定があったので仕方ない。


いつものスーパーに到着すると、すでに美咲が待っていた。店を背にしてしゃがんでいる彼女の姿を見つけて、俺は少し足を速めた。

「悪い、遅くなった」

俺が声をかけると、美咲は顔を上げて微笑む。

「気にしないでください。私もさっき来たばかりなので」

そう言って美咲は立ち上がり、スーパーの入り口へ向かう。こうしたやり取りをするたびに、彼女が以前のように戻りつつあるのを実感する。俺の役割は荷物運びにすぎないが、こうして彼女と共に行動する意味があるのかと時折考えてしまう。とはいえ、今は一種の同盟関係のようなものだ。


買い物が始まると、美咲は特に質問することもなく、黙々と商品を選び続ける。俺は後ろを歩くだけで、何となく退屈に感じた。

「俺、レジの近くで待ってていいか?」

そう提案したのも、特に自分が必要な場面ではないと気づいたからだ。荷物を運ぶのは支払いを済ませてからで十分だろう。

「ダメです。ちゃんとついてきてください」

美咲の返事は即座に、しかもきっぱりとしたものだった。

「俺がここにいる意味、ないだろ?」

「ナンパよけになっている時点で十分です」

俺を抑止力として利用するつもりらしい。確かに美咲は目を引く存在だが、ナンパよけとは…。


「ナンパよけか。リスクを考えたらどうなんだ?」

俺と美咲が一緒に行動していることが同級生にバレれば、大騒ぎになる危険性がある。正直、知らない男に声を掛けられる可能性よりも、知り合いに見つかるリスクの方が高いのではと思った。

「確率でいえば、知り合いに会うよりも高いです。それに、あなたと話していなければ言い訳が通じます」

美咲はそう淡々と説明し、買い物を続けた。彼女には何かしらの考えがあるようだが、今の彼女の無表情からは何も読み取れない。


「わかった」

美咲の言葉を受け入れ、俺は彼女についていくことにした。買い物をする彼女の後ろを黙って歩きながら、ふと美咲がどこまで考えて行動しているのかを思い巡らせた。


スーパーでの買い物が一通り終わり、袋を手に持つ俺たちは再び外へ出た。夕方の空はオレンジ色に染まり、少し肌寒い風が吹き抜ける。

「今日はありがとうございました」

帰り道、美咲がぽつりとつぶやいた。普段はあまり感情を表に出さない彼女が、わずかに柔らかい表情を見せる。

「気にするな。荷物持ちとして当然だろ」

俺は軽い調子で返したが、彼女が真剣な表情を見せた。

「そうですよね。夕食はまかせてください。」

 貴重なかすかな笑みを見せる美咲。これだけ見れただけでも今日はよしとするか。

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