第86話 無駄な時間

 文化祭のリハーサル。失敗しないために行うこと。俺も人生のリハーサルを行えればよかったと思う。そうすれば変わっていたかもしれない。

 もともとステージの仕事がメインだった俺と椎崎、それに木佐山はステージ当日はそれぞれで忙しくなる。

「椎崎様つぎこっちです」

 木佐山が椎崎に指示をだす。なんやかんやこの仕事を一番真面目に取り組んだの木佐山。そのぶん俺らより詳しい。俺らに指示をだすには適している。

「椎崎さま!」

「あ、ごめんなんでしたっけ」

 今日の椎崎は上の空でまったく集中できていない。ここ最近一緒にいることが少なかったから初めて見る光景だ。

「だからこっちの仕事を」

「うんわかった」

 椎崎をしたう木佐山でさえお手上げ状態であきれを見せている。

「あのこっちまかせていいですか?心配なので」

「わかったいってこい」

「ありがとうございます」

 そんな椎崎が心配になり木佐山が付き添いにいった。俺の方は各グループの撤収の手伝いで道具移動だけで作業としては単純だし一人でもどおってことない。

「椎崎様!」

 ある程度離れたはずだが椎崎を呼ぶ声は健在。木佐山も大変だな。

「倫太郎手伝いに来たけど当日どうだ?」

 一足先に仕事を終えて合流してきた大和と上野。

「めちゃくちゃ楽。そうだな。椎崎のほう行ってくれ」

「そうかわかった」

 人員を増やしたところで改善させるとは思わないが少なくとも椎崎の仕事を減らせてミスは軽減できるだろう。


 そして順調に進んでいくリハーサル。各グループのリハが終わるごとにおれは撤収作業を手伝う。黒子のように何もなかったかのように溶け込む。


「お疲れ!いろいろドタバタしてるけど明日の本番頑張ろう!」

 流れとしてはとりあえず終えることができた。

「明日は俺らも手伝うから」

「助かります」

 椎崎たちの方はだいぶ苦労したらしい。優等生が何をやってるんだか。

「ごめんねみんな。迷惑かけて…」

「気にするなって。こういう時は助け合いだろ。椎崎さんはいろんなところの手伝いしてすごく貢献してるんだし」

 大和のかっこよさが際立つ。かっこよすぎるんだよ。

「椎崎様当日は無理してこちら来なくても大丈夫ですので。私たちにまかせてゆっくりしててください」

 気を使っているのならいいが多分違うだろうな。誰よりも椎崎を見ているこそ今の椎崎がうむ可能性があることを。そんな椎崎を見たくない。その気持ちが今の木佐山の発言を生んだ気がする。

「みんなにまかせっきりにもできないし頑張るよ」

「そうですか」

 このままで文化祭は大丈夫なのだろうか。


「おい草加明日は頼むぞ!」

 このステージのリーダーである荒巻先輩が声をかけてきた。

「俺がいなくてもなんとかなりますよ」

「いや。お前はそうやって謙遜するタイプだが周りを見れるやつだ。どこに何が必要かが見れる。すごく頼りにしてるぞ」

 荒巻先輩の過剰評価な気がするがちゃんとした評価だと受け止めておこう。

「わかりました。期待に応えれるよう頑張ります」

「その意気だ!」

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