第140話 双葉の過去はいったい

 学校についてから双葉は誰もいないほうに向かっていった。きっとさっきの相手と再度電話をしに行ったのだろう。 

 戻ってきたのは朝礼の直前だった。先ほどよりは落ち着けたように思えた。

「大丈夫だったか」

「もう大丈夫。ごめんね心配かけて」

 しかし声からはいつもの元気がない。

「誰からの電話だったかって教えてくれるか?」

 さすがにこのままで一日過ごされるとしんどい。少しでも今の状態になっている原因をしりたい。

「…前の高校の元友達」

「元とはいえ友達との会話で見せる顔じゃないだろ。何があった」

「ほんとに大丈夫だから。気にしないで」

 多分どんなにしつこくきいたところで彼女を追い詰めるだけだしもう追及はやめることにした。

「わかった」


 しかし授業中彼女の変化は大きかった。授業に集中できておらず先生にあてられても一度目に返事をすることがなかった。

 休み時間になるとずっと何かにとらわれているようで常にスマホの画面をチェックしていた。

 そして何か気づいた様子を見せると教室からいなくなった。

「あれ、双葉は?」

 大和たちが顔をだしてきた。

「お手洗いにいってる」

「そっか」

 双葉の様子がおかしいことがばれるのは時間の問題だろうが俺の口から話すことはない。

 そのまま双葉は授業のチャイムが鳴る直前まで戻ってくることはなく大和たちは教室に戻っていった。


 そこから双葉は俺を避けるようにしている。話さないわけでないが休み時間は基本的にどこかに姿を消してチャイムの直前に戻ってくるようになった。授業中も何か別の作業をしているようだしますます心配になってくる。

「あのさ」

「おいしいカフェ見つけたんだ今度一緒に行かない」

「いいけど」

 だが、気にかけようとするとそれを遮断するかのように別の話題をふってくる。さっきまでの会話の内容はすべてむにして全く違う話に無理やり切り替える。そうやって俺から何があっても電話についての会話をさせないようにしていた。

 こんなことを繰り返し何も回復をしないまま放課後まですすんでいた。

「りんくんじゃーね」

 いつもなら「帰ろ!」とテンション高く言われるがそれすらもない。今日は美咲との約束があるからどちらにしても帰れないけど。だけど。

「双葉。今日は忙しいのか?」

「ごめん。今日予定があるんだ。いくとこあって」

 きっと電話の相手に会う約束なのだろう。あんな顔をされてそう簡単に一人で行かせたくもない。

「どの辺?近くまで一緒にどうだ」

「絶対ダメ!」

 急に大きな声を発した。

「ごめんりんくん。その怒ってるわけじゃないの。それで、その。うまく言葉にできないんだけど今日は1人で帰らせてほしい。心配しないでまっすぐお家に帰るから」

 精神力の化け物だと思っていた彼女がここまで不安定になることがあることに驚いてしまう。いままでずっと無理していたのかもしれない。だって俺は双葉が転校してきた理由を知らない。別に聞く必要もないと思うから気いことがないだけだが、前の高校と絡んでいるのは確実であり、いい話でないのも理解できる。

「わかった」

 俺にはこの一言しかいうことができない。だんだんと離れていく彼女の背中。双葉がこの学校に来て初めてだろう。双葉も遠い存在になったと思ったのは。

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