第183話 力の階層
おいしいケーキを食べすすめて行った。味が変わろうと変わらず最高に美味しい。歴代で食べたケーキのランキングをつけたとしたら上位は確実に独占できる。
そんな幸せな食事をしていると俺にも限界が来た。ホールの残り3分の1のところでお腹が悲鳴を上げてきた。
「すいません限界っす」
美味しいから体は動こうとするが脳がそれを拒否している。
「じゃもらうね」
なんの躊躇もなく俺の食べていたホールを自分の方によせる薫さん。薫さんが食べていたケーキはすでにあと一切れというところまで進めていた。
「ほんとに食べれるんですね」
「あたりまえ」
ほんとすげーよ。
「ところでさ美咲ちゃんの命令権の階層の話ってしたっけ?」
突然美咲の話を振ってきた。それも命令権の階層というものだ。おそらく、美咲の命令云々の話だろう。前に聞いたの俺は薫さんの命令を上書きできるというものだった。
「同等とまでは」
「一応いいタイミングだし気分いいから教えておいてあげもいいよ。君がこれが契約に反してると言わないなら」
確かに、違反なのかもしれない。この話は聞いといても損はないだろう。それに気分が良くなければ話さなそうな話題だし今このタイミングで聞くしかない。
「話してください」
「OK。前はさ君と私は同じみたいなこと言った気がするけど実際は違うの。私より君がまだ下。だけど上書く内容は確かにある」
薫さんの発言は理解できる。いろいろ試したが効果のないものばかりだった。それは俺に書き込むことができない領域であったということか。
「そもそもその、上書きとかの基準ってなんなんですか?俺がその資格得た意味もわからないですし」
このシステムについてもよくわかっていない。いつから美咲が俺の命令に従うようになったかは知らないし、もちろんきっかけも何も思い当たら出来事はない。
「美咲ちゃんからの信頼。この要素はこの人に託しても良いと思わせること。もちろん親の言うことが絶対だから、あの人たちが動けば私ですら太刀打ちは不可能。だけど私と君は違う。権利を持つということはその要素においては君の方が信頼できるという証」
そうなると記憶については薫さんに託した方がいいと判断したってことか。俺があいつに信頼されたものっていったいなんだ。
「普通。わからないよね。私も色々探ってはみたけど確定できなかった」
確定でないということは薫さんの中で有力なものがあるということか。
「一応聞いてもいいですか?」
「自由。私が制限して、特定の場所以外に行くの禁じてたからね。だけど、君に連れまわされて知らない世界に触れてそれがいいと思ったんじゃないの?」
それが遊園地ってことか。それと木佐山のいってたいつもの店というのか。初めて遊園地に行った時に言ってた自分の居場所というのはこのことだったんだな。それから俺といろんな店で飯食って絶対繋がらないアスレチックにも行った。どれも最初の方は断っていたが最後に折れていた。だんだんと制限が外れていったわけか。
この程度で俺を信じることができるのなら一つ疑問が残る。
「だとしたら四六時中見張ってないのになんで美咲は自分のことを信じないんですか?」
信頼をするのは他人の必要はない。自分を信頼すれば自分の考えで行動できなくなる。
「だから記憶を戻してるわけ。自分に自信を持つと判断した時に。自信のない自分に戻せばまた0からになるその代償で一部の記憶も思い出せなくなるんだけどね」
記憶がなくなるのは副産物で本当は自信をなくさせていたってわけか。
「そこまで話していいんですか?それなら俺が封じればいい話でしょ」
自由のルールを書きかければ記憶は残せるかもしれない。自信も無理やり持たせるように命令すれば。
「そんな簡単じゃないから君はまだほとんど何もできないんだよ。そこは複雑にしてる決まってるじゃん。それにそれを達成するってことは君の否定している美咲ちゃんを縛ることになるんだよ」
薫さんのいうことも間違っていない。美咲を守るために命令するということは単に薫さんが俺に変わっただけだ。それで信頼を得てたとしてもそれは俺を信頼しているからこそ成り立っている。
「わかったところで無意味ってことですね」
「そゆこと。たんなるパズルの一個がわかっても他全ては何もわからない。それで本題って言いたいけどこれ以上言ったら違反になりそうだからやめておこうかな」
フォークをおいた。薫さんと話しているのに夢中で全然気づかなかったがすでに俺の渡したケーキも終わりを迎えようとしている。俺は話に集中したが薫さんからしたら定型分を話しているだけ。だから食事を挟む余裕もあるのか。
本題は違反だと思った時点で理解できる。ロジックを教えるためには美咲と付き合い俺が美咲を動かす約束をすること。俺が否定してきた部分なのだろう。
「少し理解しました。とりあえず美咲に自信を持たせるようにします」
「期待しないで姉になる日を待ってるから。ってことで食べたし次の場所いこうか」
「あ、まだ行くんですか?」
「当たり前」
さらにどこかに連れ回されるようだ。
お会計の額を見たがほのすごかった。薫さんはカード一つで速攻で終わらせてお店を出て行った
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