第213話 琴音の才能

「おいしい!」

 また声が聞こえてくる。今度はどれくらい寝たのだろうか。

「上手くできてますね!」

 琴音も美咲もなんかすごく楽しそうだ。おいしい?その一言が引っかかっている。さっき2人は料理をしていた。そしておいしい。

「うーん」

 大きく背筋を伸ばしながらからだをあげた。目の前ですでに2人がしょくじをしている。

「やっと起きた」

「ずいぶん長く寝ておりましたね」

 二人の言葉に一瞬戸惑う。時計を見るとすでに18時。つまり約7時間の睡眠をしていたことになる。

「ご飯できてるから早く食べてみて!」

 目を光らせる琴音。彼女からしたら自分が作ったことを俺が知らないと思っている。あえて自分が作ったことを伝えずに驚かせる予定なのだろう。

「いただきます」

 見た目は美味しそうな煮物と焼き魚だ。味噌汁もある。おそらく本来雑煮で使う予定だった食材を使って作ったのだろう。それとお節料理か。こっちは確実に美咲が作っているだろう。

「うまいな。やはり美咲の作る料理は」

 あえて、琴音が作ったことを知らないかのように発言をした。

 とはいえ、本当に彼女作ったのかと思えないおいしさだ。とくに煮物のクオリティが明らかに違う。俺と琴音が作った雑煮と比べても一つ一つの味がしっかりとついている。パートナーが変わるだけでこれほど変わるのか。野菜の切り方はだいぶバラバラだからその部分については琴音だなと感じる。

「ほんと!」

 すごく嬉しそうな表現をみせる琴音。

「それわたし作ったの!99%美咲さんの助言でだけど」

「まじかすごいな」

「知識の問題で苦労はしましたが、器用なのでちゃんとできてましたよ」

 美咲もいい評価をしている。ほんとにすごいことだな。体を動かすこと以外でもしっかりと才能を持っていたようだな。

「おせちは後回しでお願い!流石に美咲さんの作ったの食べられたらわたしの味の悪さに気づいちゃうと思うから…」

 だがまだ自分の味には自信がないようだ。たしかに美咲の料理だとこれを遥かに超えるものになると思う。

「だが、全然うまいからそんな気にすんなよ」

 ここで上手く琴音に自信をつけさせれば今後も料理を継続するかもしれないし。いずれ一人暮らしをすることになった時に家事ができなのも大事だからな。

「で、でもなー」

 それでも抵抗がある琴音。そのため、なにもいわずおせちに箸を持っていく。まずは好物の伊達巻きにしよう。

「あ、っちょ」

 琴音が止めようとしたがすぐさま口の中に入れた。すると口の中の世界が変わる。一気に口の中が伊達巻きにみたされた。今までで食べた伊達巻と比べ物にならないくらいうまい。つい口角が上がってしまう。

「だから言ったじゃん。こうなるのわかってたから嫌だったのにー」

 申し訳なく感じてくる。さっきまでの煮物のおいしさが消えるインパクトがこの伊達巻にはある。琴音は食べていたからこうなることを予測できたのだろう。

 つかさずもう一度煮物を口にする。

「うんやっぱり美味しい」

 そのインパクトがあってもやはり煮物が美味しいのには変わらない。

「口角さっきより上がってないけど」

 にらみつける琴音。

「美味しいというのもいろいろありますからね。伊達巻は好物だからって感じな気がします。煮物はそうですね。落ち着く味って感じでしょうか」

 慰める美咲。俺の考えていることを簡単に当ててきた。美咲の言うことは正しい。

「ナーンか不服」

 少しひどいことをきてしまったようだ。

「美咲は経験値がある。お前は1日でこのクオリティまで上げた。それは自慢していいだろ。美咲に追いつきたいな日頃から努力だな」

 普通の人ならさらにへこむかもしれないかもしれないが琴音は違う。上があるなら追い越すのが琴音である。負けず嫌いであってもそれは変わらない。

「それもそうか。じゃあ今度絶対満足させる」

 闘志を燃やす琴音。これで単発ではなく継続することができそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る