第239話 友達でいる理由
今日の双葉は、終始疲れた様子を見せていたものの、普通に会話はできていた。昨日のようなトイレでの行動も見受けられない。少なくとも表面的には落ち着きを取り戻したように見える。だが、俺としては双葉とまだ本心から向き合ったとは言えない。
「双葉、その、だな……」
少し踏み込んだ話を切り出そうとすると、双葉は突然「大和君のとこ!」と言って、周囲の人を巻き込もうとする。まるで二人きりになるのを避けるようだ。こうして人がいる状況を作られては、真面目な話などとてもできそうにない。
昼休みになった。二人きりになれるチャンスかもしれない。
「双葉、昼食べに行こうぜ」
俺はいつも教室で食べている双葉に、今日は違う場所で食べることを提案した。
「え、ここでいいじゃん。今日はあまり移動したくないかも……疲れてるし」
双葉は疲労を理由に誘いを拒む。だが、その本心は、移動すれば俺が何を話すのか分かっているからだろう。警戒されている以上、こういった安易な誘いには乗らないのかもしれない。
「それもそうだな。食べるとするか」
「うん。大和君たちも呼ぶね」
さらに双葉は大和たちを呼ぼうとする。二人きりになるのを避けるため、自然な形で話をさせないようにしているのだ。これではいつまでたっても真剣な話に進めない。
だが、俺には分かる。双葉は悩んでいる。俺と話している以上、離れたくない気持ちも強いのだろう。けれど、俺に迷惑をかけることも避けたい。その狭間で揺れているからこそ、曖昧なまま時間が過ぎてしまうのだ。
「今日も二人で食べないか?別にあの件について話すつもりはないから安心しろ。ただ、今は二人で食べたいだけだ」
少しずつでいいから、双葉との時間を作ろう。そう思い、もう一度誘ってみた。
「い、いいけど……」
双葉は戸惑いを見せながらも、大和たちを呼ぶのをやめてくれた。
「そういえば、狐川の家に泊まったんだろ?どうだった?」
俺が話題を変えると、双葉はため息をつきながら答える。
「美紀からしつこくいろいろ聞かれて大変だった。私がこう落ち込んでたのにさ、お構いなしだよ」
そう言いながらも、少し愚痴を漏らす双葉。その様子は、朝よりも少し元気が戻ったように見えた。
「あいつなりの気遣いってやつか?」
「本人はそうだろうけどね。私からしたら、ほんと迷惑だったよ。他人の気持ちなんて気にしないで連れ回すし……でも、そのおかげで楽しかったんだけどね」
双葉の言葉から、狐川がどんな存在なのかが分かる。遠慮なく双葉に踏み込むその姿勢が、双葉にとって安心できる相手になっているのだろう。悔しいが、俺よりも何倍も双葉の支えになれる存在だと痛感した。
だが、だからと言って俺にできることが何もないわけではない。少しずつでも、双葉にとって必要な存在になりたい――その思いは変わらない。
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