第38話 楽しかった日
ようやく琴音のハイスピードアスレチックが終了した。体は限界を迎え妹の肩を借りるというだいぶ兄として恥ずかしい状態になってしまった。
「お疲れ様です」
「ほらお兄ちゃん美咲さんのところついたよ」
椎崎のもとまでこれたようだ。視認もできているがはっきりとは見えていない。
「とりあえず座らせるね」
琴音から降ろされベンチに座る。
「ふぅ」
座れるとだいぶ楽になれる。
「ほんとうお前あそこで帰って正解だった」
「見ればわかります。お水いりますか?」
「わるい」
椎崎の持ってるペットボトルをを取りキャップ開ける。
「あ、っちょ」
そして水を口の中にいれる。
「いやー生き返る!ありがとうしいざ…どうした?」
椎崎の方を向くと顔を赤くし、そっぽを向いていた。
「あのさりん兄さ。なんかおかしいと思うところない」
妹にはドン引きされる。何か悪いことしただろうか。
とくに水に違和感は。あれ。軽く一口いれたくらいのはずだったけど残りの量が半分くらいになっている。
椎崎のもっていたペットボトル。水が思ったより減っている。そこに結び付く答えはたった一つ。
「すいませんでした!」
思いっきり頭を下げる。この二つが結びつく答え。それは一つしかない。これは椎崎のものである。彼女はおそらく動けない俺を見て水を買ってこようとし俺に聞いてきた。てっきりもう水を用意してると思った俺は椎崎の持っている水を手に取る。そして気づかず口に含む。椎崎が飲んでいた水を」
「気にしないでください。なんていえないですからね!」
思ったより動揺されている。
「りん兄。さすがにきもい」
妹からは擁護でなく追い打ち攻撃がとんでくる。返す言葉もない。心も体もづたぼろだ。
「本当に申し訳ない」
「…また今度、付き合ってください。それでちゃらにします」
「もちろんだ。また必要であれば行く」
「なら許します」
思ったより簡単な条件で許しを得ることができた。
「あー。わからない。美咲さんみたいな美人さんはこんな余裕なのか」
琴音はこの切り替えの早さについていけていない。
「それよりどうでした?」
「お兄ちゃんが遅すぎた。まぁ遅いなりに最後まで全力だったのは評価に値するけど」
お前についていくみにもなってくれ。
「でもまぁ久しぶりに楽しかった。ありがとう。りんにい。美咲さん」
「また誘ってください。普段こういうところいかないので楽しかったです」
椎崎も半分だけとはいえ十分楽しんだようだ。少しずつ彼女の化けの皮もはがれ本来の彼女のクオリティがわかってきた。苦手なものを見せないことで完璧に見せる戦術。頭はいいんだよな。
「ぜひ!また遊びましょう。じゃぁ帰りますか」
「そうですね」
二人はさっそうといなくなっていく。俺を置いて。
「じゃねーよ!まてって!」
疲れ切った足を引き釣り跡をおいかけるのであった。
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