第3話 料理の帝王

 美咲と遭遇した俺は荷物を運ぶ手伝いをしたお礼に料理をふるまわれることとなった。助けたといっても階段から家までの距離だけだからかりをつくるって程でもないはずなのだが彼女的には解決をさせておきたいらしい。

「何か苦手ものとかありますか?」

 美咲が質問をしてくる。

「ない」

 とくに苦手ものはないためないと返答をした。

「そうですか」

 それを聞くとそのまま料理を開始した。

 美咲の料理姿とは新鮮だ。普段かかわりをもっていないこともあるが。手際がいい。料理スキルも高いようだ。だが、それを目の前にしても彼女に魅力は特に感じなかった。

「完璧なんだな」

 軽く褒めてみる。

「そうしつけられたので」

 美咲は料理の手をとめず返答を返す。先ほどまでの優し派消えて少しくらい様子を見せてくる。俺が見るに彼女以上に完璧って言葉が似あう人はいないと思える。完璧すぎるんだ。とくに楽しくするわけでもなく作業をこなしている。これをすることは当然のことであるといっているようだ。まるで彼女は家事をするロボットのように思えてきてしまう。

「言っておきますがこちらが素なので。あなたを嫌っているからこうしているわけではありません」

 そこまで気になっていないが、美咲が今見せている顔は真顔、態度も自分をいいように意識することもなくどちからという冷めた様子だ。俺をクズだと思わせるような立ち振る舞い。だが今の姿こそ本来の美咲だという。いつもの彼女を知るものとしては性格が真反対なことに驚きを隠せない。

「俺にはいいのか?」

 理想の椎崎美咲とは真反対の自分を見せるということはリスクがある。このことがばれてしまえば男からも女子からもひかれてしまうだろう。それでもついてくる奴はいると思うが今のような一強にとどまることが難しいだろう。

「私ならあなたをさらに追い詰めることができる。だから無理する必要はありません」

 美咲が脅しをいれてきた。すぐに美咲の怖さを知ってしまった。俺が彼女について広めようとすれば逆に俺を終わらせに来る。俺の言葉よりも周りは美咲の言葉を信じる。当然のことだ。

「お前の悪行だけ広めて学校をやめるか。馬鹿どもがあれるだろうから面白そうだな」

 俺は無理して学校にとどまる気はない。実際悪い噂広がったのならやめてもかまわない。美咲の脅しは多少響くが大きなダメージではないのだ。


!!


 一瞬、美咲が反応した。感情を表に出していない状態だからこそそのことにすぐに気づいた。やはり、俺がどうにかして学校にとどまろうとしていると勘違いしていたようだな。

「そんなことしないから安心しろ」

 こいつを貶めたところで俺に得することは何もない。余計な敵を作るのはごめんだ。

「わかっていますよ」

 すぐに表情が元に戻る。だが、料理をするスピードが上がっている。動揺は収まっていないようだ。かわいいところもあるようだ。


 しばらく沈黙が続いた。特に気にせずスマホを触っている。

「できましたよ」

 するとご飯が完成したようだ。美咲が運んできたのは卵の中華スープとチャーハンだった。

「すごいクオリティだな」

 普通に店で出てきてもいいレベルの鮮やかさ。香ばしいにおい。やはり彼女の家事スキルが高いことがわかる。

 チャーハンを口に入れる。

「うま」

 味は普通のチャーハン。だが、そのチャーハンを最大限に生かしている。シンプルなのにこれほどおいしくできるのかと強く関心をしてしまう。

「そんなですか?普通のチャーハンですよ。そんなお世辞を言わなくても大丈夫です」

 もくもくと食べ進める俺を見て若干引き気味になる。この程度のクオリティならいつも通りだと思っているようだ。思ったより彼女のスキルの当たり前が一般人より高いようだ。

「久しぶりにちゃんとした飯食ったてのもあるけどここまでおいしいとは。お前、勉強もできて人づきあいもできる。それに加えて家事もこなせるとかほんとに完璧な人間なんだな」

 褒めないわけにはいかなかった。それほど美咲のスキルの高さを感心してしまう。

「ありがとうございます。お片付けのほうは自分でやってください。私は帰るので」

 そのままバッグをもち外に出ようとする。

「おう。ありがとうな」

「では、また来ます」

 彼女は家をでていった。

 いま、「またきます」と聞こえガキがした。聞き間違いだろうが本当にいっていたとしたらどういう意図なのだろうか。。



 今のは、嘘でも演技でもなかった。彼は私に近づこうとして褒めたわけではなく自然と口をしたように思えた。私みたいな存在をあそこまで褒める人がいるなんて。彼はいったいなんなのだろうか。

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