『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

その１の１「レアスキルと笑いの渦」

　聞き慣れたはずの優しい声が、その日は魔女の嘲りのように聞こえた。

「ヨーク＝ブラッドロードさん。

　あなたが授かったスキルは、

　『敵強化』です」

　長い茶髪の、年の割には大人びた女性が、そう言った。

　ハインス村の小さな神殿。

　その礼拝堂に、村人たちが集まっていた。

　今日は成人の日だった。

　１６歳になる少年少女が、洗礼の儀式を受ける。

　洗礼とは、神から『クラス』と『スキル』の加護を授かる儀式だ。

　儀式はシンプルだ。

　神の力が宿った聖水を、口にするだけ。

　用意された聖水は、１人につき２瓶。

　それぞれの瓶に、クラスとスキルの力が、別々に宿っていた。

　ハーフの少年、ヨーク＝ブラッドロードも、聖水を飲んだ。

　そして祭壇の、水晶球に触れた。

　水晶球は、授かったスキルを、判別するための道具だった。

　そして、告げられた。

　ヨークが授かった加護が、村の若い女神官であるアネスから。

　彼のスキルは、『敵強化』スキルであると。

「え……？」

　ヨークは、何を告げられたのか理解出来ず、放心した。

　『敵強化』など、聞いたことも無い。

　動けないヨークよりも先に、他の村人たちが、口を開いた。

「アネスちゃん、何て？」

「『敵強化』っつったよな？」

「どういうこと？」

「敵を……強くすんだろ？」

「それって……」

「何か意味あんの？」

「ぷっ」

「あはははははははっ！」

　ヨークは笑いの渦に包まれた。

　彼は頬が、熱くなるのを感じた。

　ヨークは強く美しく、村ではいちもく置かれる存在だった。

　このように、不遠慮に笑われたことは無かった。

　彼の体と共に、美しい銀の長髪が、かすかに揺れた。

　ハーフの特徴である薄青い肌が、少し赤みを帯びた。

（何だ……これ……。

　皆……。

　俺のことを笑ってるのか……？）

　ヨークは逃げ去ることもできず、その場で恥に震えた。

「こら！　静かに！」

　大きく笑った者には、子供が多かった。

　場を取り仕切るアネスが、子供たちを叱りつけた。

「けどさぁ」

　子供の１人が、にやけるのを止められないまま、アネスに言い返そうとした。

「静かに……！」

　アネスはぴしゃりと言った。

「…………」

　冗談が通じない雰囲気を感じ、子どもたちは黙った。

「だいじょうぶだからね？」

　くだけた口調で、アネスがそう言った。

　儀式用では無い、普段の口調だった。

　その言葉は、ヨークへと向けられていた。

　孤児のヨークにとって、アネスは姉代わりだった。

「…………」

　アネスは、ヨークの肩に手を乗せると、長椅子の端にまで導いた。

　ヨークは逆らわず、椅子に座った。

　アネスは儀式を続けるために、祭壇に戻った。

　儀式は続いた。

　そう長くは無かった。

　地方の村で、１つの年に成人する子どもは、そう多くは無い。

　成人の儀式は、すぐに終わりを告げた。

　……。

　その後、ヨークは幼馴染たちと集まった。

　式が始まる前に、そういう約束をしていた。

　彼らが集まったのは、立派な木が、１本生えた丘だ。

　木には、薄桃色の花が咲いていた。

　散りやすい、儚い花だ。

「ヨーク」

　丘の上には、ヨークを含め、５人の少年少女の姿が有った。

　最初に口を開いたのは、バジルという名の少年だった。

「お前ンこと、置いてくから」

　開口一番、少年はそう言った。

　バジルは金髪を短く刈っており、眉が薄い。

　瞳の色は薄緑。

　背は低めだが、見た目に似合わない腕力を持っている。

　その身体能力は、背が高いヨークにも負けてはいない。

　彼の目つきは、生まれつき鋭い。

　迫力が有った。

　普段はそれを気にするヨークでは無い。

　だがこの日は、目を合わせづらいような気がした。

「…………」

　バニという少女が、不安そうに２人を見守っていた。

　彼女は赤い髪を、頭の左右で束ねている。

　すらりとした体に、動きやすさ重視の衣服を身につけていた。

　バニは、神殿のそばの家に住んでいる。

　ヨークは神殿に住んでいるので、家が隣ということなる。

　そのおかげもあり、ヨークと最も親しい少女だった。

　ヨークは、バニの心配そうな様子には、気付いていなかった。

　今のヨークには、余裕が無かった。

　バジルはヨークのことを、置いていくと言った。

　このままでは良くない。

　口を開かなくてはならない。

　ヨークはそう考えた。

「それは……。

　俺が……皆に笑われたからか？」

　間抜けな言葉を口にした。

　ヨークはそう感じたが、１度出した言葉は、戻らない。

　バジルの反応を待つしか無くなった。

「つーかよ」

　バジルが言った。

「笑われるようなスキルで、

　やっていけるンかって話だろ？

　……『敵強化』？

　それで、どうやって敵を倒すンだよ」

「スキルが無くても、クラスのレベルを上げさえすれば……」

　儀式によって授かるスキルは、生まれつき決まっている。

　そのおかげで、欲しくもない『ハズレスキル』を授かってしまうことも有る。

　だが、スキルと違い、クラスの力には外れが存在しない。

　誰でも望んだクラスの加護を、得ることが出来る。

　そして、クラスの力は、鍛えることが可能だ。

　戦えるはずだ。

　たとえ強力なスキルが無くとも。

　最低限の戦力にはなる。

　そのはずだ。

　そんなヨークの言葉が、バジルに断ち切られた。

「そういうの、良くねえらしいぜ？」

「えっ？」

「『寄生』っつーらしいんだよ。

　役に立つスキルも無いのに、

　仲間におんぶだっこ？

　大した活躍も無しに、

　レベルだけ上げてもらうとかよォ。

　……図々しい。厚かましい。不遠慮。

　……恥ずべきことなんだってよ。

　俺はそう聞いたぜ。

　お前も、恥知らずにはなりたかねえだろ？」

（俺が……恥知らず……？）

　ヨークは呆然とした。

　そこまで言われることなのか。

「俺は……。

　俺たちは……同じ村で育った……」

　仲間では無いのか。

　これまで、何をするにも一緒だった。

　絆が有ったのでは……無かったのか。

「そういうの」

　バジルはぴしゃりと言った。

「力はねーのに、情に訴えかけるとかゆーヤツ。

　『寄生』の……常套手段ってヤツらしいからよ？

　止めとけよ。

　あんまり見え透いてて、哀れンなるぜ」

「……っ」

「バジルくん、ちょっと言い過ぎ」

　バジルの隣の家に住む少女、キュレーが口を開いた。

　ふわふわとした緑髪を持つ、バニの親友だ。

　スポーティなバニに比べ、ふくよかな体つきをしている。

　温厚な性格で、皆のなだめ役のようなところが有った。

「はっきり言ってやった方が本人のためだ。そうだろ？」

「それにしたって、言葉がきつすぎるよ」

　バジルとキュレーで、言い合いが始まった。

　この２人がケンカをすることは、あまり無い。

　それだけヨークへの態度を、ひどいと思っているのだろうか。

「けど、事実だろうがよ。こいつのスキルが役立たずってのは。

　敵を強くして、いったい何の役に立つンだ？」

「それは……まだ分からないけど……」

　キュレーはバジルの態度を咎めたが、スキルに詳しいわけでは無い。

　実利に関してバジルに言い返すのは、難しい様子だった。

「遊びに行くんじゃないンだぜ？

　俺たちは、ラビュリントスに戦いに行くンだ」

　……ハインス村の北東に、国王が治める首都、王都が有る。

　王都には、ラビュリントスと呼ばれる、大きな迷宮が有る。

　そこで活躍した者は、富と名誉を得られると言われている。

　皆で王都に行こうと、約束をしていた。

　迷宮を攻略する、冒険者になろうと。

　そのはずだった。

「ひょっとしたら役に立つかもしれない、

　なんて曖昧なンで、

　やっていけるかよ」

「…………」

　それ以上、キュレーからの反論は無かった。

　優しいキュレーですら、バジルに言い返すことは出来ないのか。

　外れスキルというのは、それほどのことなのか。

　ヨークは悲しくなって俯いた。

「……分かったよ。

　お前たち４人で……行けば良いだろ……！」

　拗ねるような声を出して、ヨークは丘から立ち去った。