5の2「クラスチェンジと再レベリング」
ヨークはしぶしぶと、ミツキのあるじになることに決めた。
「それで、どうやれば良いんだ?」
「まず親指の腹に、刃物で傷をつけて下さい」
「えっ? 痛いじゃん?」
「やりなさい」
「ちぇっ……」
ヨークは剣で親指の腹を切った。
そして血に濡れた親指を、ミツキの首輪へと伸ばした。
ヨークの指が、ミツキの首輪に触れた。
首輪が輝いた。
「んっ……」
ミツキは軽く呻いた。
ヨークはミツキの主人として、首輪に登録された。
「ふふふ。これでヨークは私のご主人様ですね」
ミツキはニコニコとしてそう言った。
「なんで嬉しそうなん? マゾなの?」
「月狼族とか、全員マゾですよ」
「おまえの性癖に、一族を巻き込むな」
「お断りします」
一族に汚名を着せたまま、ミツキはヨークの手に視線をやった。
その親指からは、血がぽたぽたと垂れ落ちていた。
「……指を治した方が良いでしょう。
こちらに寄越して下さい」
「ああ」
「ちゅっ……」
「えっ?」
ミツキはヨークの親指を口に含んだ。
彼女は自身の舌を、ぐいぐいと傷口に押し当てた。
やがて、指の傷は癒えた。
それでもしばらくの間、ミツキは指をくわえていた。
「……いつまでやってるんだ?」
「ん……」
ヨークに言われ、ミツキは指を開放した。
ヨークは自由になった親指を見た。
(ふさがってる……)
ヨークは内心で驚いた。
呪文を使った様子が無いのに、傷が消えていた。
ヨークの指は、綺麗に完治していた。
「ありがと」
「どういたしまして」
「行くか」
「はい」
二人は王都への道を歩いた。
やがて、最寄の町へとたどりついた。
その町は、ヨークの故郷の村と比べると、遥かに大きい。
「ヨークヨーク」
町に入ってすぐの所で、ミツキがヨークに声をかけた。
「うん?」
「提案が有るのですが」
「何だ?」
「暗黒騎士になりませんか?」
「なれよ。良いぞ。そういうお年頃なんだよな?」
「私の話じゃないです!?」
「俺が? どうして?」
「私が知る未来の話ですが、
ヨークは敵と、斬り合いをすることが多いです。
ですが、クラスが魔術師なおかげで、
レベルが下の相手にも、苦戦してしまいます。
それに、接近戦が弱い魔術師だと、
レベリングの時もリスクが有ります。
おかげでスライム以外の敵には、
なかなか『敵強化』を、限界まで使えないというのが現状です。
これらの問題を解決するには、
暗黒騎士になるのが一番だと考えます」
「そうは言うがな……」
ミツキの提案に対し、ヨークは気乗りがしない様子だった。
「せっかくレベルを100以上にまで上げたんだ。
クラスチェンジで、これを半分以下にするのは……」
ヨークなりにがんばって上げたレベルだ。
最初のころは死にかけた時も有った。
苦労して得たレベルに、ヨークは思い入れが有る様子だった。
「それに関しては、解決策が有ります」
「お?」
「まず、ヨークの『敵強化』で、
私のレベルをヨークと同じにします。
クラスチェンジをしたヨークを、
私がパワーレベリングします。
これで低下したレベルを、
一瞬で元に戻すことが可能です」
「ん……。やってみるか」
「はい。やりましょう。
あと、その剣もうすぐ折れますよ」
「えっ?」
___________________________
ヨーク=ブラッドロード
クラス 暗黒騎士 レベル128
___________________________
___________________________
ミツキ=タカマガハラ
クラス 聖騎士 レベル128
___________________________
「ヨシ!」
二人は町の外の平野に居た。
クラスチェンジとパワーレベリングは、無事に完了した。
クラスチェンジには苦痛が伴ったが、耐えられないほどでは無かった。
下がったレベルも、ミツキが敵を倒すことで、すぐに元通りにできた。
二人の手には、新しく買った剣が見えた。
ミツキの資金で購入したものだ。
レベル上げに区切りがついたので、ミツキは剣を、スキルで『収納』した。
「しかし、あれですね」
「ん~?」
「聖騎士と暗黒騎士というと、
なんだかお揃い感が有りますね」
「どっちかと言うと反発しそう」
ヨークは素直な感想を述べた。
「しません。光と闇が両方そなわり最強に見えますよ」
「見えるだけかよ」
「それと、ヨーク」
「ん?」
「これから先の戦い、
なるべく『敵強化』スキルを使って、
レベルを上げて下さい」
「そんなに強いのか? これから俺たちが戦う敵は」
「なにせ、相手は神様ですからね。
たとえレベルが10000有っても、
勝ち目は薄いかと思われます」
「いちまんってマジか」
ヨークは今の時点で、かなり強くなった気でいた。
前に会ったとき、バジルのレベルは2桁前半だった。
そこから倍に上げても、3桁にはならないだろう。
今の自分のレベルは、バジルよりも高い。
そう予想していた。
ヨークはバジルに対し、いちもく置いている。
バジルより強い自分は、かなり強い。
そういう認識が有った。
だが、ミツキが言うには、まるで通用しないらしい。
ヨークは驚きを隠せなかった。
「はい。
私がスキルで知った神の力は、
それほど圧倒的なものでした。
そして、私が知る運命では、
神と戦ったのは、今から半年ほど後のことです。
つまり……1日に50レベルを上げても、
神には敵わないということです」
「えっ……」
「事態の深刻さを、理解していただけましたか?」
「ああ……」
「魔獣を1体見つけるたびに、レベルを10上げる。
それくらいの覚悟が無ければ、私たちは生き残れません」
「分かった。覚悟してやるよ」
「はい。頑張りましょう」
それから二人は王都への道を進んだ。
「あっ。スライム様」
やがて、ヨークたちの前方に、グリーンスライムが出没した。
「『敵強……』」
「待って下さい」
スキルを発動しようとしたヨークを、ミツキが留めた。
「どうした?」
「前から思っていたのですが……。
どれくらいのレベル差までならスライムに勝てるのか、
調べてみませんか?」
「危険な気もするが」
(前に赤狼を舐めて、痛い目に遭ったんだよな……)
「普通のやり方では、神には勝てません。
少しでも、効率的にレベルを上げられる方法を、
模索すべきです」
「分かった。
……どれくらいから試す?」
「私たちのレベルの1、5倍くらいから行きましょう」
「攻めるねぇ。
んじゃ、行くぞ」
「ちょっと待って下さい」
ミツキは右手の指輪を、スライムへと向けた。
二人を包む結界が、展開された。
「それは?」
ヨークが尋ねた。
「EXPを閉じ込める結界です。
これが有れば、通りすがりの人に、
EXPを吸われずに済みます」
「良い物持ってるな」
「通りすがりの奴隷商人から、奪いました」
「奴隷商人って、通りすがるんだな」
「それと念のために、氷狼を出しておいて下さい。
いざという時の、盾代わりにします」
「氷狼、二連」
ヨークは杖を構え、呪文を唱えた。
氷狼が2体出現した。
ヨークは創造した氷狼を、ぐるぐると走らせてみせた。
「ん……。魔術師だった頃より動きが悪いな」
暗黒騎士になってから、初めての氷狼だ。
ヨークはその性能に、物足りなさを感じたようだった。
「それは仕方ないです。
レベルが上がれば、すぐに元の性能に戻ると思いますよ」
「そうだな。
……行くぞ?」
ヨークはミツキに対し、覚悟を促した。
「はい」
ミツキは迷いなく答えた。
「『敵強化』!」
ヨークはスキル名を唱えた。
スライムの体が、光に包まれた。
「『戦力評価』」
______________________
グリーンスライム レベル190
______________________
今、眼前のスライムは、大幅に強化されていた。
スライムは地を這って、ヨークに向かってきた。
「おお、すばやい」
「スライムにしてはですけどね」
スライムの動きは、レベル1の時と比べ、遥かに速かった。
だが、元の動きが遅い。
たとえ強化されても、対処不能というほどでは無かった。
ヨークとミツキは、スライムから一定の距離を保った。
「倒すぞ」
「はい」
「炎嵐」
ヨークは炎の呪文を唱えた。
グリーンスライムにとっては、弱点属性となる呪文だ。
ヨークの呪文が、スライムに直撃した。
いつものレベル上げであれば、この一撃で終わりになる。
だが、スライムは倒されることなく、ヨークに向かってきていた。
「残るか。1、5倍だと」
スライムとの距離を保ちながら、ヨークが言った。
「クラスチェンジの影響で、
呪文の威力も落ちてますしね」
「もう一発。
……炎嵐」
スライムは、これにも耐えてみせた。
「炎嵐、炎嵐、炎嵐」
ヨークは呪文を連発した。
炎の呪文を5発受け、ようやくスライムは焼失した。
「5発か……。結構かかったな」
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