『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

４の３１「偽メイルブーケとブラッドロード」

　ヨークは氷狼に乗って移動していた。

　彼の背には、クリーンがしがみついていた。

　その隣ではミツキが併走していた。

　木鼠を使って、順路は調べてある。

　彼らの足取りに、迷いは無かった。

　ヨークたちはユリリカから離れ、最短ルートを進んでいた。

「良かったのですか？　逃げてしまって」

　クリーンがヨークに尋ねた。

　彼女はユリリカの素性を知らない。

　ヨークとの関係も、はっきりとは分からなかった。

　だが、因縁浅からぬようには見えた。

　そんな彼女を放置して、果たして良かったのだろうか。

　クリーンはそう考えていた。

　そんなクリーンの疑問に対し、ヨークはこう答えた。

「腕輪の魔石を割って良いなら、

　気が済むまで相手してやったがな」

「……そうですか。

　ありがとです」

「ん」

　ヨークは短く答えた。

　そんなヨークの左手首が、クリーンの視界に入った。

「って、ちょっと魔石にヒビ入ってないですか！？」

「光の加減だろ」

「いやいや完全に入ってますけど！？」

「オシャレの範疇だ」

「んも～。ホントにだいじょうぶなのですか？」

「モフミちゃんを信じろ」

「人任せ？」

　ヨークたちはじゃれ合いながら、迷宮を進んでいった。

　とくに強敵と出会うことも無く、順調な道のりだった。

　やがて前方に、いくつもの人影が見えた。

　良く見ると、それはイーバたちだと分かった。

　イーバたちのさらに奥には、曲がり角が見えた。

　彼女たちは、曲がり角の向こうを、うかがっている様子だった。

「何をしているのですか？」

　クリーンが、イーバに声をかけた。

　するとイーバは慌てた様子を見せた。

「しっ！　気付かれるでしょ！？」

「何に？」

「向こうを覗いてみなさい。ゆっくりね」

　イーバはクリーンに、小型の魔導望遠鏡を手渡した。

　クリーンは、なるべく体を出さないように、ひっそりとカドの先をうかがった。

　曲がり角の先には、長い通路が有った。

　クリーンは、望遠鏡を使い、通路の奥を探った。

　すると、通路の奥の広間に、アシュトーの姿が見えた。

　アシュトーの近くには、彼女の守護騎士の姿も有った。

　さらにその奥には、上への階段が見えた。

　クリーンたちは、既に９層に居る。

　クリーンの瞳に映った階段は、第２の試練のゴールだと言えた。

「あの子……」

　クリーンは呟いた。

　するとヨークが彼女に尋ねた。

「何が見える？」

「アシュトー。

　サレンたちと戦った子ですね。

　じっと立ち止まっているようです。

　何をしているのでしょうか？」

「待ち伏せよ」

　イーバがクリーンの疑問に答えた。

「１０層に行くには、

　あの階段を通る必要が有る。

　どうしてもあの子の前に、

　姿を現さないといけないってわけ」

「三人にビビってるのか？　九人も居て」

　ヨークが言った。

「……うるさいわね。魔族のくせに」

（ハーフだが）

「あの子がハイレベルだってことは、分かってるでしょ？」

「そりゃな。

　それで？

　あいつが諦めるまで、隠れてるつもりか？」

「…………。

　譲ってあげても良いわよ？

　あなた、メイルブーケなんでしょう？」

「いや、ブラッドロードだが」

「ッ！？？」

　ヨークの言葉を聞き、イーバたちは、瞬時に散会した。

　そして武器を構え、ヨークを睨みつけた。

「…………？」

　ヨークには、イーバたちが豹変した理由は分からない。

　だが、一つだけ分かっていることが有った。

「なあ、おまえ」

　ヨークがイーバに言った。

「何よ……！？」

「はみ出てるぞ。カド」

「あっ……！」

　通路の奥、アシュトーがにやりと笑った。

　イーバの姿が、アシュトーに捕捉されていた。

「やっと来たか」

「よくも……！」

　イーバはヨークを睨みつけた。

「いや。おまえが勝手に飛びのいたんだろうが。

　……まあ良いか。

　どうせ、決着つけなきゃ

　先に進めないんだからな」

　ヨークはカドを曲がった。

　そしてアシュトーが居る広間へと、歩いていった。

「どうするつもり……！？」

　ヨークの後ろから、イーバがそう尋ねた。

「相手次第だな。それは」

　ヨークたちは、階段の有る広間で、アシュトーのチームと向き合った。

「よっ」

　ヨークは左手を上げ、アシュトーに挨拶をした。

　軽い調子の挨拶だったが、油断できる状況では無い。

　右手には、魔剣の柄が握られていた。

　声をかけられ、アシュトーはヨークを見た。

「メイルブーケ。

　だが、その顔……」

「顔？」

「……いや。テメェが俺の相手か？」

「まあ落ち着け。

　俺とゲームをしようぜ？」

「ふざけてんのか？」

「おまえは戦闘狂じゃない」

「…………」

「ただのバトル好きなら、

　ニトロさん……大神官との決着を、

　避けたりはしなかったはずだ。

　おまえは冷静に

　敵との戦力差を測る、

　利口な戦士だ。

　俺たちの後ろに、

　大勢居るのが見えるだろう？

　俺が合図をしたら、

　即座に１２対３を始める手はずになってる。

　それはおまえも望んじゃいないだろう？

　けど、このまま引き下がるってのも、難しいはずだ。

　男のメンツが有るからな」

「女だが」

「えっ？　あっうん。

　……言葉の綾だ」

「…………」

「とにかくだ。

　俺と１対１のゲームで

　ケリをつけようぜ。

　俺が勝てば、

　無傷で全員を通してもらう」

「嫌だと言ったら？」

「あちらのイーバ＝マーガリートさんが、おまえを倒す」

「えっ？」

「ゲームのルールは？」

「簡単だ。

　俺の腕輪の石を割ったら、

　そっちの勝ち。

　腕輪を割られずに、階段まで辿り着いたら、

　俺の勝ちだ」

「分かりやすいな。良いぜ」

「装備を整えたい。

　開始は３分後で良いか？」

「ああ」

「ミツキ」

　ヨークはミツキに歩み寄った。

　そして準備を済ませた。

　……。

　３分が経過した。

　ヨークは魔剣を手にしたまま、アシュトーと向かい合った。

「それじゃ、俺から仕掛けて良いか？」

　ヨークがアシュトーに尋ねた。

「来やがれ」

　望むところだといった感じで、アシュトーは大剣を構えた。

　その剣は、ヨークの魔剣よりも遥かに分厚い。

　比較すると、ヨークの魔剣は頼りなくも見えた。

「お言葉に甘えて」

　ヨークは自然体だった。

　喧嘩慣れしている。

　巨大なドラゴンに、殺されかけたことも有る。

　いまさら武器の見た目などに、気圧されたりはしない。

「氷狼、１０連」

　ヨークは剣先を地面に向け、呪文を唱えた。

　氷狼が、１０体出現した。

　ヨークは次に、アシュトーに魔剣を向けた。

「樹殺界、２連」

　ヨークの剣先の辺りに、魔法陣が出現した。

　そこから樹木が出現し、うねりながらアシュトーに殺到した。

「くっ……！？」

　アシュトーが呻いた。

　レベルが抑えられても、ヨークは一流の魔術師だ。

　彼の呪文は強力だった。

　ハイレベルの戦士であっても、たやすくは対処できない。

　アシュトーは、物量に苦しみながらも、迫る樹木をなんとか処理していった。

　大剣の攻撃に、蹴りなども挟んで、木々を粉砕していった。

「おらあっ！」

　全ての樹木が消滅した。

　だが、続けて氷狼の群れが、アシュトーに襲いかかった。

「ウラァ！」

　アシュトーの大剣が、氷狼を打った。

　氷狼は、粉々に砕かれた。

　木々の物量に比べれば、氷狼の対処はたやすかった。

　すぐに全ての氷狼が、アシュトーに粉砕された。

「この程度じゃ俺様は……！」

　アシュトーはヨークに、勝ち誇った笑みを向けようとした。

　だが……。

「……あれ？」

　アシュトーの視界に、ヨークの姿は無かった。

　ヨークは忽然と、その姿を消していた。

「どこ行きやがった！？」

　アシュトーはヨークを探し、素早く視線を走らせた。

　そのとき……。

「俺の勝ちだ！」

　階段の方から、声が聞こえてきた。

　ヨークの声だった。

「えっ……！？」

　アシュトーが、戸惑いの声を漏らした。

「それじゃ！　先に行かせてもらうぜ！」

　階段から聞こえる声は、小さくなっていった。

　階段を上り、１０層へと向かったのだろうか。

「負け……た……？」

　いったいいつの間に、ヨークを通過させてしまったのか。

　アシュトーは混乱を隠せなかった。

「どうして……？

　何も見えなかった……。

　あいつが通り抜けるところなんか……」

　そのときミツキが口を開いた。

「スキルですよ」

「えっ？」

「魔導抜刀を修めるには、

　高速の歩法は必須。

　メイルブーケなら、

　あれくらいは出来るということです」

　ミツキは堂々とそう言い張った。

「っ……」

　アシュトーは、腰を地面におろした。

「クソッ！」

　そして地面を思い切り殴りつけた。

　重い拳を受け、床が木片を飛び散らせた。

「……行けよ。約束だ」

　アシュトーは、がっくりとした様子でそう言った。

　それに対し、ミツキがこう言った。

「先に行っていただけますか？

　背中を見せられるほど、

　あなたを信用していませんので」

「……分かった。行くぞ」

　アシュトーは立ち上がった。

　そして守護騎士を連れて、階段を上っていった。

　ミツキやイーバたちも、その後に続いた。

　階段の先は、広間になっていた。

　そこは、転移陣の広間よりも、さらに広々としていた。

　広間には、神官たちの姿が見えた。

「おめでとうございます」

　神官のコーゼンが、アシュトーに声をかけた。

「あなたが１着ですよ」

「え……？」

　アシュトーは、広間を見回した。

　ヨークの姿を探したが、見つけることはできなかった。

「メイルブーケは……？」