『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

６の８「サザーランド一家と食事」

　バニとの話を済ませたヨークは、自室へと戻った。

　しばらくの間ダラダラと、ミツキと遊ぶことにした。

　リホはまっさらな魔石を、じっと睨みつけていた。

　やがて部屋の扉がノックされた。

「どうぞ」

　ミツキがノックに答えた。

　すると扉が開き、クリスティーナが部屋へと入ってきた。

「迎えに来たよ」

「ん。リホは？」

　ヨークがそう尋ねると、リホは作業台から腰を上げた。

「だいじょうぶっス」

「ん？　作業の途中じゃあ無かったのかな？」

　クリスティーナがそう尋ねた。

「さっさと行くっス」

　四人は宿を出た。

　そして徒歩で住宅街へと向かった。

　とある民家の前で、クリスティーナは立ち止まった。

　彼女は民家を背にして、ヨークたちに向き直った。

「ここがボクたちの家だよ」

　クリスティーナの家は、庭付きの小綺麗な一戸建てだった。

　豪邸というほどでも無いが、それなりの佇まいをしている。

　王都の平均を上回る裕福さが感じられた。

　クリスティーナは、早足で玄関へと近付いていった。

　そしてポケットから出した鍵を、玄関の鍵穴に差し込んだ。

「さ、入って入って」

　扉を大きく開けると、クリスティーナはヨークたちを招いた。

「お邪魔しまーす」

　ヨークたちは、玄関を通り抜けた。

　すると……。

「ようこそであります」

　サザーランド邸に入ったヨークたちを、青肌のメイドが出迎えた。

　メイドは玄関奥の廊下に、姿勢を正して立っていた。

　年は若く見える。

　ヨークやクリスティーナと同年代のようだった。

　メイドの青肌は、純血の魔族よりも少しだけ薄かった。

　その肌色は、ヨークとほとんど同じだった。

　銀髪のヨークに対し、メイドの髪は黒かった。

　手には黒い手袋をはめているようだ。

　メイドの頭の両側面から、赤いツノが生えているのが見えた。

（ツノ？　第三種族か）

　ヨークはツノが生えた人間を初めて見た。

　ヨークの視線が、赤いツノに引き寄せられた。

　次にヨークは、メイドの首周りを見た。

　そこには奴隷の首輪が有った。

（奴隷……？

　奴隷っていうのは、値が張るんじゃないのか？）

　クリスティーナたちは、とても大富豪には見えなかった。

　そんな彼女たちが奴隷を所有していることに、ヨークは違和感を覚えた。

「ただいま。ネフィリム」

　クリスティーナがメイドに声をかけた。

「はい。お帰りなさいであります。

　お客さま。こちらへどうぞであります」

「……どうも」

　ヨークたちは、ネフィリムと呼ばれた少女の後に続いた。

　廊下を少し歩くと、すぐに食堂にたどり着いた。

　食堂のテーブルのすぐ隣には、マリーの姿が有った。

「あっ。いらっしゃい」

　いつもの車椅子に腰かけたまま、マリーが挨拶をしてきた。

　ミツキが挨拶を返した。

「お邪魔しています」

　次にクリスティーナが口を開いた。

「適当に座ってよ。

　あっ、マリーの両隣は、ボクたち姉妹の席だから、空けておいてね」

「ボクたち？」

　ヨークが疑問をはなった。

　すぐにクリスティーナがその疑問に答えた。

「ウチは三人姉妹なんだ。

　ボクが長女で、マリーが末っ子。

　今居ないのが、真ん中のユリリカだけど、すぐに帰ってくるよ。

　それと、先に言っておくけど、両親は居ない。

　少し前、事故でね」

「…………」

　リホが無言のまま、少し驚いた様子を見せた。

　ヨークはリホの様子には気付かずに、クリスティーナにこう尋ねた。

「妹は学校か？　それとも仕事？」

「いや。今日は大神殿に……」

「ただいま～！」

　元気な挨拶と共に、桃髪の少女が、食堂へと入ってきた。

　少女は神官服を身にまとっていた。

　その少女は、ヨークにぎょっとした視線を向けた。

「えっ！？　家にイケメンが居る！？」

「どうも。イケメンです」

「こら。お客さんに失礼だよ」

　クリスティーナが少女を咎めた。

「……ごめんなさい」

「彼はブラッドロードさんだ。昨日話しただろう？

　それに、ミツキさんに、ミラストックだ」

「ミラストックってあのリホ＝ミラストックちゃん？」

　少女は興味深そうにリホを見た。

「どのっスか？」

　リホがきょとんとして尋ねた。

　するとクリスティーナが遮るようにこう言った。

「何でもないよ」

「えっと……」

　少女は姉をちらりと見て、再びリホに視線を戻した。

　そしてこう言った。

「私はユリリカ＝サザーランド。聖女候補なの。よろしくね」

　ユリリカはにこにこと微笑んだ。

　社交性を感じさせる、明るい笑顔だった。

（聖女？）

　この時のヨークは、聖女というものに関して詳しくはなかった。

　ヨークの心中に、疑問符が浮かんだ。

　だが、すぐに気を取り直して、ユリリカに挨拶をした。

「よろしく」

「……よろしくお願いします」

「どもっス」

　ミツキとリホもユリリカに挨拶をした。

　するとクリスティーナがこう言った。

「それじゃ、料理の仕上げをしてくるよ。

　おしゃべりでもして、少し待っていて欲しい」

「メイドが料理するんじゃ無いんだな」

　メイドとは、家事をするのが仕事だ。

　ヨークの中には、そういうイメージが有った。

　だが、これから料理をするのは、ネフィリムでは無くクリスティーナらしい。

　そのことに、ヨークは意外そうな顔を見せた。

「ネフィリムは、料理は苦手なんだ」

「ふ～ん？」

「……申し訳ないのであります」

　ネフィリムが、心苦しそうに言った。

「仕方ないよ」

　クリスティーナはそう言うと、キッチンへと歩いていった。

　余計なことを言ってしまっただろうか。

　ヨークは内心でそう反省した。

　わざわざ謝るのも大げさに思えたので、黙って料理を待つことにした。

「ちょっと着替えてくるね」

　ユリリカも食堂から去っていった。

　食堂に残った姉妹は、マリー一人になった。

　少しすると、マリーが言いづらそうに、ネフィリムに話しかけた。

「あの……ネフィリム……」

「了解であります」

　ちょっと名前を呼ばれただけで、ネフィリムはマリーの意図を察したらしい。

　ネフィリムは、マリーの車椅子の後ろに立った。

　マリーは気まずそうに、ヨークをちらりと見た。

　そして、ネフィリムに車椅子を押されて、食堂を出て行った。

「…………」

（便所か）

（お手洗いっスね）

（お化粧直しですね）

　来客の三人ともが、マリーの事情を察していた。

　マリーが去って少しすると、ユリリカが食堂に戻ってきた。

　彼女の服装は、神官服からラフな私服に変わっていた。

　ユリリカは、リホへと歩み寄っていった。

「ねえ、リホちゃん。握手してもらって良い？」

「え？　ウチっスか？　どうして？」

「どうしてって……。

　ファンだから？」

　ユリリカは小首をかしげてみせた。

「まあ、ウチほどの天才なら、ファンが出来てもおかしくは無いっスか。

　握手してやるっス」

　リホはユリリカに手を差し出した。

「ありがと」

　ユリリカはリホとの握手を終えると、自分の席に座った。

　そして今度は、ミツキに向かって話しかけた。

「ミツキさんは、どうしてフードを被ってるんですか？」

「…………」

　ミツキはフードを外した。

　狼の耳と、奴隷の首輪があらわになった。

「えっ？　第三種族？」

　ユリリカは驚きを漏らした。

「あまり言いふらさないようにお願いします」

「はい。わかりました。けど……。

　ヨークさんって冒険者ですよね？」

「ああ」

「どうやって奴隷が買えるくらいのお金を儲けたんですか？」

「買ったんじゃない。拾ったんだ」

「へぇ。ウチと一緒ですね。

　ネフィリムも、お姉ちゃんが外で拾ってきたんですよ。

　家に来た時は酷い怪我してて、大変だったんですけどね」

「ふ～ん」

　雑談をしていると、マリーたちが戻ってきた。

　それから少しして、クリスティーナが料理を運んできた。

「さあ、召し上がれ」

　テーブルに料理を並べ、クリスティーナがそう言った。

「おっ、美味そうだ。

　意外と家庭的なんだな？」

「万能の秀才なのさ。ボクは」

　クリスティーナは胸を張ってそう言った。

「相変わらず、傲慢なのか謙虚なのかわかんねーな」

「自己評価が正確なだけだよ」

「そんなこと言って、料理を覚えたてのころは酷かったんですよ？」

　横からユリリカが茶々を入れた。

「今はマトモなんだから良いだろう！？」

「ふふっ。そうね」

「いただきまーす」

　ヨークはフォークを手に取り、食事を始めた。

　準備を終えたクリスティーナは、マリーの隣に座った。

「はい。あ～ん」

「…………」

　クリスティーナは、スプーンで料理をすくって、マリーの口へと運んだ。

（手足が動かないと、食事も自分じゃ出来ないのか……）

「大変だな」

　ヨークはそう漏らしてしまった。

「っ……」

　マリーの表情が曇った。

「ブラッドロードさん」

　クリスティーナがヨークに厳しい視線を向けた。

「ボクはこれを大変だなんて思ったことは、一度も無い。

　勝手に決め付けないでもらえるかな？」

「姉さん……。お客さんを睨まないで」

「あっ……。すまない」

「いや。俺が無神経だった。

　……姉妹仲が良いんだな」

「もちろんさ。

　こんなに可愛い妹を、好きにならない姉が居るかい？」

「恥ずかしいから止めて」

「反抗期！？」

　それからは、楽しい雰囲気で食事は進んだ。

　ヨークは出された料理を、全てたいらげてみせた。

「うまかった。ごちそうさま」