『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

５の１の１「赤肌の剣士と魔剣」

　それは戦いの時代。

　神がつわものを欲していた時代。

「おまえたちに、余の神血を与えよう」

　トルソーラは世界樹の頂上で、身寄りを失った若者たちを集めてそう言った。

「血に適合した者は、神に準ずる力を得る。

　出来なければ、死ぬ。

　自らの運命を選ぶが良い」

　１００人ほどの若者たちが、神の血を受け入れることを選んだ。

　そのほとんどが死んだ。

　だが、生き残った者たちも居た。

　四人。

　神の血を受け入れた四人は、肌が赤く変色した。

　そして最も強い、神の尖兵となった。

　四人の名は、アルゼ、ミーナ、リーン。

　そして、カナタ。

　……。

「行け！　カナタ！」

　逆さ世界樹の最下層。

　赤い肌の戦士たちが、ガイザークと戦闘していた。

　この世界に、神は二柱といらない。

　トルソーラがそう決めた。

　故に戦いは避けられなかった。

（紫電）

　カナタが鞘の中に、魔術の力をこめた。

　彼はそのまま居合抜きをはなった。

　ただの居合抜きでは無い。

　カナタ＝メイルブーケが編み出した、魔導抜刀。

　魔術の力を用い、斬撃の速度を高める秘技だ。

　雷の魔力と共に、カナタの聖剣が走った。

「…………！」

　その技のキレは、神であるガイザークですら瞠目させた。

　トルソーラが創った聖剣は、ガイザークの障壁を無力化する。

　カナタの剣が、ガイザークの巨大な足首を切断した。

「ぐうっ！」

　片足を失い、ガイザークの巨体が倒れた。

　土埃を上げるその体の上に、カナタが飛び乗った。

　カナタはガイザークの幻体の、その心臓の上で、剣を構えた。

　身長１８メートルを誇る幻体は、ガイザークの本体では無い。

　神力で創造した、かりそめの体だ。

　だが、幻体が死ねば本体も死ぬ。

　カナタが剣を突きおろせば、全てが決着するはずだった。

「やった……！」

　勝利の確信に、ミーナの表情がゆるんだ。

「我の……負けか……」

　ガイザークは諦観の表情を浮かべた。

　命というものは、いつかは失われる。

　今日は自分の日だった。

　ガイザークはその現実を受け入れているようだった。

「どうした？　はようやらんか」

　来るべきものが来ない。

　ガイザークは疑問に思い、カナタに問いかけた。

「…………」

　カナタはガイザークの上で、その体を硬直させていた。

「トルソーラ様は……

　魔族が居ない未来を……望んでいる……。

　魔族と第三種族を滅ぼし、

　人族だけの世界を創ることを、望んでいる。

　だが……俺は……」

　カナタは手に持っていた聖剣を、宙へと放り投げた。

　真上へ。

　そして、腰にかけていた予備の剣に、手をかけた。

　その剣は、トルソーラから授かった魔剣だった。

「何を……！？」

　天井へと向かった聖剣が、重力に負け、落下してきた。

（紫電）

　カナタは魔導抜刀をはなった。

　カナタの剣が聖剣を砕いた。

　その反動で、カナタの予備の剣も砕け散った。

　神殺しの剣は、ただの金属の破片となって、地に降り注いだ。

　カナタはガイザークの体から飛び降り、仲間たちに体を向けた。

「カナタ……！　テメェ……！

　自分が何したのか、

　分かってんのかよ！？」

　仲間の一人、アルゼがカナタを怒鳴りつけた。

「…………」

　少しの沈黙を挟んで、カナタは口を開いた。

「何をしたんだろうな。俺は」

「ふざけてんじゃねえぞ！」

「俺自身、意外だった。

　ガイザークを、殺せると思っていた。

　……彼女に剣を、振り上げるまでは」

「色香に惑わされたとでも言うのですか？」

　ミーナがカナタを責めた。

「ん……。

　そうだな。

　どうやら俺は、そうらしい。

　俺の未来は、彼女と一緒が良い。

　そう思った」

「裏切り者に、未来なんて有ると思うの？」

　リーンが口を開いた。

「無いかな？」

「無いわよ」

「そうか」

「死になさい」

　リーンはガイザークに向けていた手の平を、カナタへと向けた。

　裏切り者は殺す。

　そのときのリーンの思考は、ただそれだけだった。

「…………」

　リーンは強い。

　たとえカナタであっても、丸腰では戦えない。

　カナタは黙り、死の時を待った。

　そのとき。

「グオオオオッ！」

　ガイザークが上体を起こし、リーンたちへと炎弾を放った。

「くっ！？」

　炎弾は、リーンの攻撃を中断させた。

「こいつ……！」

　アルゼはガイザークを睨んだ。

「退くわよ！

　聖剣の力無しでは、神を倒すことは出来ない！」

　素手のカナタは殺せても、ガイザークが相手では話は別だ。

　リーンは即座に撤退を決断した。

「けどよぉ！」

　せっかく、あと一歩まで追い詰めたのに。

　アルゼの表情には、悔しさがにじんでいた。

「無駄死にしたいの！？　さっさと来なさい！」

　リーンは合理的な判断から、アルゼを叱りつけた。

「ちくしょう！」

「無念です」

　ミーナが撤退を始めた。

　リーンたちは、ラビュリントスの最下層から逃げ去っていった。

　後にはカナタとガイザークが残された。

「…………」

　ガイザークは、幻体を解除した。

　本体である少女の姿が、カナタの瞳に映された。

「それがおまえの本体か」

　はじめてその姿を見たカナタが、ガイザークに向かって言った。

「ガッカリしたか？　このようなちんちくりんで」

「いや。綺麗だな」

「…………」

　ガイザークは、カナタから視線を逸らした。

　そしてこう言った。

「何を血迷うた」

「聞いていなかったのか？

　俺はどうやら、おまえのことが好きだ」

「愚かな」

「少し前、

　リーンが第三種族の女を、嬲って殺した。

　名はカゲツ。

　ヨーグラウを殺したという女だ。

　腕の立つ女だったが、神殺しの咎で、

　仲間には忌み嫌われていたらしい。

　孤立して弱っていた所を、リーンが捕らえた。

　かわいがって、いたぶって、

　地獄を味わわせて死なせた。

　リーンは泣いていた。

　好きだったんだそうだ。

　どうやら色恋とは、理不尽なもののようだ」

「つまり、愚かじゃ」

「そうだな」

「……これからどうするつもりじゃ？」

「おまえと共に生きたい。

　だが、それは叶わんだろうな」

「共に居たいなら、そうすれば良い。

　聖剣が失われた今、

　連中もそう簡単には、

　我を討てんじゃろう」

「自分がやったことは、償わねばならん。

　……もう行くよ。元気で」

　カナタはガイザークに背を向け、階段に足をかけた。

　長い階段を、カナタは上っていった。

　……。

「……困るな」

　階段を上った先には、大きな扉が有った。

　行き道には無かった扉だ。

　それがカナタの帰り道を塞いでいた。

　扉は頑丈そうで、丸腰のカナタには、とても通れそうもなかった。

「戻って何になる。犬死するだけじゃ」

　階段の下から、ガイザークの声が聞こえてきた。

「ここに残れ。カナタ」

「それは出来ない。

　俺がここに残れば、

　弟が代わりに咎を受けるだろう。

　俺と違い、出来た弟だ。

　身代わりにするわけにはいかない。

　……頼む。ガイザーク」

「…………」

　少しの間、ガイザークは沈黙した。

　そしてこう言った。

「一つ、条件が有る」

「何だ？」

「かならずもう１度、ここに帰って来い。

　そう約束するのなら、ここから出してやる」

「……約束しよう」

「本当じゃからな？

　嘘ついたら、針千本飲ますからな？」

「ああ」

「……これを」

　ガイザークは神力を用い、首飾りを創造した。

　そしてそれを、カナタの首に転移させた。

「これは？」

「この扉を開く鍵じゃ。

　お主にだけ託す、大切な鍵じゃ。

　失くすで無いぞ」

「分かった」

　扉が開いた。

　カナタは迷宮を、１層ずつ上っていった。

　……。

　地上へ上がったカナタは、トルソーラの手先に捕らえられた。

　カナタは抵抗しなかった。

　けじめをつけるためには、逃げるわけにはいかなかった。

　カナタは世界樹の頂上、トルソーラの元へと連行された。

　神と対面するカナタを、兵士たちが睨んでいた。

　アルゼは悔しそうな顔で、じっとカナタを見ていた。

　それを見て、カナタは少し申し訳無く思った。

　カナタはトルソーラを見た。

　トルソーラの巨大な幻体が、カナタを見下ろしていた。

「カナタ。残念だ」

　トルソーラが口を開いた。

「おまえほどの男が、

　まさか色恋に目が眩むとはな」

「弁解はしません。

　ただ、罰を受けるとします」

「罰か。

　おまえは大きな罪を犯した。

　ただ殺すというわけにもいかん。

　聖剣を砕いたおまえは、

　人の身を捨て剣となれ。

　そうして永遠に、罪を贖うと良い」

「分かりました」

「……本当に、残念だ」

「申し訳有りません」

　トルソーラは、カナタへと手を向けた。

　カナタの足元に、魔法陣が出現した。

　そしてカナタの体は、指先から徐々に、魔石へと変わっていった。

「兄さん！」

　事態を見守っていたカナタの弟が、思わずカナタに駆け寄った。

「よせ。いま近付けば、術の影響を受けるぞ」

　トルソーラがトーノに警告した。

「ですが……！」

「トーノ」

　カナタは生身で無くなった手で、ガイザークから貰った首飾りを外した。

「これを預かっていて欲しい。

　大事な物だから、

　失くさないように頼む」

「はい……！」

　トーノはカナタから、首飾りを受け取った。

　魔法陣は、トーノの体にも影響を与えていた。

　トーノの爪が、魔石へと変化していた。

「本当に……すまなかった。

　どうか……幸せに……」

　カナタは物言わぬ魔剣となり、地面に転がった。

「兄さんっ！」

　トーノの叫びだけが、世界樹の頂上に響いた。