7の37「みんなとパーティ」


「神って、どういうこと?」



 あまりにも唐突な言葉を受けて、ヨークは素直に疑問をはなった。



「世界樹を加護に頼らず踏破したことで、


 私の魂の力が上昇しているらしいのですわ」



 デレーナはレディスの報せを受け、世界樹の頂上へとヨークの救援に向かった。



 そのときのデレーナは、力を抑える手枷を装着した状態だった。



 レディスたちが同行したとはいえ、クラスの力には頼らず世界樹を突破したということだ。



 その偉業がデレーナが持つ力を高めた……らしい。



「らしいって、誰が言ってるんだよ」



「大賢者さまが」



「ふーん? それで?」



「魂力値というのが100万を超えると、


 肉体の寿命が無くなって神化するらしいのです。


 それが今90万なので、あと10万ほどで神の端くれになるそうです」



「ふ~ん……?」



(いきなり神とか言われてもピンとこねえ……)



「それでですね、ヨークさま。


 私と世界を創りませんか?」



「どういうこと?」



「ヨークさまも神様なのですよね?」



「前世はそうだとか言われてるけど」



 自分の中には、かつて神だったモノの魂が有る。



 トルソーラとの闘いを経て、ヨークはそれを自覚していた。



 その気になれば、魂から神の力を引き出すこともできる。



 だがヨークには、ヨーグラウとしての記憶はほとんど無い。



 自分はヨーク=ブラッドロードだ。



 ヨーグラウでは無い。



 そう思っているので、あまり自分を神だと言い張りたくも無いのだった。



「神になると、世界樹から創造の力を借りて、


 自分の世界を創れるそうなのです。


 それで、力の弱い神が世界を創る時は、


 男女二人で創ると上手く行きやすいというのですね。


 なので、ヨークさまと一緒に世界を創れないかと思いまして」



「そんなスケールでかいこと、いきなり言われてもな」



「……そうですね。


 私もまだ未熟な身。


 剣すら極められぬ身で世界を創ろうなどとは、


 驕った行為なのかもしれません。


 もっと修練を重ね、強くなり……。


 ヨークさま。あなたに勝ちたいと思います」



「おう」



「もしこの剣があなたに届いたその時は……。


 私と……世界を創ってもらえませんか?」



「負けねーよ。俺は」



 神の話をされても困るが、ケンカの話なら望むところだ。



 そう思った村の悪ガキは、楽しそうに微笑んで見せた。



「絶対に負かせてみせますの」



「やってみろ」



「はい」



 デレーナは幸せそうに笑った。




 ……。




 ヨークはメイルブーケ邸を後にした。



 一方ニトロとセイレムは、バウツマー邸に帰宅した。



「ただいまー」



 玄関を抜けたニトロたちを、サレンが出迎えた。



「お帰りなさいませ。お父様」



「サレン。実はさ」



「はい?」



「セイレムと結婚することになった」



「あがっ!?」



 奇声と共に、サレンは倒れた。



「サレン!?」



 なぜか急に意識を失った娘に、ニトロは慌てて駆け寄った。




 ……。




 ヨークは宿の自室に戻った。



「お帰りなさいませ」



 ベッドに腰かけていたミツキが、ヨークを出迎えた。



「ああ」



 ヨークはミツキに短く答え、もう片方のベッドを見た。



「すぅ……」



 そこではクリーンが、すやすやと寝息を立てていた。



「こいつはなんで寝てるんだ?」



「ヨークがなかなか帰って来ないので、つい眠ってしまったようです」



「俺? 起きろー」



 ヨークはベッドに歩み寄り、クリーンを揺り起こした。



「んぅ……」



 少し揺さぶられると、クリーンは目蓋を上げた。



 彼女の瞳がヨークへと向けられた。



「ヨーク」



「おはよう」



「おはようなのです」



「良いのか? 神様がこんな所で居眠りしてて」



「……神様じゃないのです。


 お母さんが勝手に言っているだけなのですよ」



「そうか。


 ……それで、何してるんだ?」



「おまえを待っていたのです」



「そうか。カードでもやるか?」



「今度こそ負かしてやるのです」



「来やがれ」



「それでですね、あの話はどうなったのですか?」



「どの話だよ?」



「ケンカの話です」



「ケンカ?」



「聖女の試練が終わった時に、


 言っていたではないですか。


 いつやるのですか? 応援に行くのですよ」



「ああ~~~~。


 もう終わったし、勝ったぞ」



「えええええええええええええええぇぇぇぇっ!?」



「近所迷惑だぞ。神様」




 ……。




「なるほど。話は分かった」



 ラビュリントスの最深層。



 そこでガイザークは、ヨークの言葉に頷いた。



 彼女は巨人の姿を解除し、少女の姿になっていた。



 ヨークとミツキがこの階層に姿を見せたとき、さいしょ彼女は、問答無用で襲い掛かってきた。



 だが、何度か殴り飛ばすと素直になった。



 話の分かる神のようだった。



「我が地上の人々に危害を加えることは無い。


 安心するが良い。


 我が好むのは闘争であって、蹂躙では無いしのう」



「助かる。


 それで、これからどうするんだ?」



「……この世界を離れるのも良いかもしれんな」



「そんなことが出来るのか?」



「忘れたのか?


 我は元々、別の世界からやって来たのじゃ。


 神であれば皆、世界を渡る力を身に付けておる。


 おぬしもな。ヨーグラウ」



「そうなのか。


 それじゃ、会ったばっかりだけど、元気でな」



「うむ。その前に一つ頼みが有るのじゃが」



「ん?」



「カナタ……その魔剣を、我に譲ってはもらえぬかな」



「良いぜ」



「良いのか?」



「二人旅は楽しい。そう思うぜ」



「……うむ」



 ヨークは腰に装着していた魔剣を、鞘ごとガイザークに手渡した。



 ガイザークは受け取った剣を、ぎゅっと胸に抱きしめた。



「久しい。久しいのう。カナタ……」



 ヨークはそれを少し見守った後、彼女にこう尋ねた。



「そうだ。旅に出る前に、俺たちのパーティに参加しないか?」



「パーティ? 徒党を組んで魔獣と戦うというアレか?」



「ちげーよ。


 いろいろ区切りがついたんでな、


 仲間全員呼んで、パーッとやることにしたのさ」



「ふむ。


 それで良いかの? カナタ」



 ガイザークは腕の中の魔剣に声をかけた。



 魔剣は何も答えない。



 だが……。



「うむ」



 ガイザークは頷いた。




 ……。




 パーティが開かれた。



 それは世にも珍しい、迷宮のパーティだった。



 迷宮内にある開けた草原に、ヨークの友人たちが集まっていた。



 ヨークはいったんミツキと別行動になり、一人で会場を歩いていた。



 すると。



「お招きありがとう。ヨーク」



 ユーリアが親しげに声をかけてきた。



 それに対し、ヨークはそっけない感じで返した。



「ああ。来たんだな」



「そっちから招いておいて、何だい? その言い草は」



「忙しいって聞いてたからさ」



「まあね。貴族というのは一度スキを見せると大変さ。


 けど、ようやく落ち着いてきたよ。


 聖女の試練に協力したおかげで、


 ブラッドロード商会の後ろ盾も得られた。


 こうして社交に務める余裕も出てきたというわけさ」



「社交て。身内のパーティだが」



「身内……ねぇ。


 迷宮伯にドミニ工房の社長、大神官や聖女まで居る。


 キミの身内というのは、ずいぶん豪勢だね」



「公爵サマも居るしな。


 まあ、思う存分コネを作っていってくれ」



「そうさせてもらうよ」



 そう言っておきながら、ユーリアは誰かに声をかけようとはしなかった。



「……行かねえの?」



「キミとのコネを作ってるのさ」



「そいつはどうも」



 特に追い払う理由も無い。



 ヨークはしばらくの間、彼女の相手をしようかと思った。



 だが……。



「姉さん。行くぞ」



 弟のユーリが、ユーリアの腕を引いた。



「あっ、ちょっと……」



 ユーリアは、ずるずると引きずられていった。



 一人になったヨークは、会場内を見回した。



 するとミツキが目にとまった。



 弟のユウヅキと会話をしているようだった。



 教えが改められ、ユウヅキは開放された。



 今の彼は、誰の奴隷でも無い。



 自由に行動することができた。



「ユウヅキ。あなたはこれからどうするのですか?」



「そうだね……。


 強くなりたいかもしれない。


 強くなって、一回兄上を殴りに行くよ」



「王になるということですか?」



「別に、あんな国に未練は無いけどね。


 それでもケジメはつけたいと思う」



「がんばって下さい」



「うん」



 そこから少し離れた所で、クリーンが甘味を満喫していた。



 そんな彼女に、ガイザークが声をかけた。



「トルソーラ」



「私はクリーンなのです」



「そうか。


 魂が同じでも、同じにはならない。


 そういうことじゃな」



「何が言いたいのですか?」



「…………そなたと友誼を結びたい」



「友誼……。お友だちということですね?」



「うむ」



「よろしくなのです」



 クリーンが、ガイザークに手を伸ばした。



 ガイザークはクリーンの手を握った。



 二人の手が、強く結ばれることになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る