『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

４の１９の２「ヨークとクリーンと『聖域』スキル」

　ヨークとクリーンは、迷宮へと足を踏み入れていた。

　ヨークは１層の通路を歩いていた。

　クリーンは、大きく距離を取って、ヨークの後ろについてきていた。

「あまり離れすぎるな」

　ヨークは、上半身だけで振り向いて言った。

「命令しないで欲しいのです」

　ヨークに思う所の有るクリーンは、不機嫌さを隠さなかった。

「別に、俺が嫌いなのは構わねえよ。

　迷宮の中でくらい、

　マジメにやってくれ」

　そう言ったヨークに、クリーンは冷めた視線を向けた。

「…………。

　そもそも、あなたって必要なのですか？」

「は？」

「モフミちゃんを奴隷にして、戦わせて……」

　夜の世話までさせている男だ。

　恩が有るということは、理解している。

　だが、立場を笠に着て、ミツキの肢体を貪っていると考えると……。

　クリーンはどうしても、もやもやを抑えることは出来なかった。

　眼前に立つ男のことが、気に食わなかった。

「私に命令できるような、

　大層な人間なのですか？

　あなたは」

「ああ……。なるほど……」

　ヨークはクリーンに向き直った。

「喧嘩売ってんだな？　お前」

「分かりますか？」

　にらみ合いになった。

　クリーンには、苛立ちを抑えることは、不可能になっていた。

「それで？　どうする？」

「私が負けたら、

　何でもあなたの言うことを聞く。

　私が勝ったら、

　モフミちゃんの所有権を私に譲る。

　どうですか？」

「ミツキを……？」

　ヨークの顔色が変わった。

　向かいに立つクリーンにも分かる、明確な変化だった。

「どうしたのですか？

　怖気づいたのですか？」

　ヨークの変化を、クリーンは怯えだと解釈した。

　……違う。

「…………」

　ヨークは魔剣を抜いた。

　そして、唱えた。

「氷狼、１０００連」

　凄まじい物量の狼が、クリーンの周囲に出現した。

　通路の先、二人には見えないカドの向こう側までが、狼に埋め尽くされた。

「えっ！？」

　クリーンは、狼に包囲されていた。

　目に見える窮地だった。

　そんなとき、クリーンがすることは決まっていた。

「が、がんばれ私！」

　クリーンは、自身を『鼓舞』した。

　クリーンの全身に、力がみなぎっていった。

　そこへ、狼のうちの１体が、襲いかかってきた。

　クリーンはそれを、杖で迎え撃った。

　クリーンの杖が、狼を叩いた。

　鋭い１撃によって、狼は砕けた。

　クリーンは、氷狼の撃退に成功した。

　だがそれは、１０００体居る狼のうちの、たった１体だ。

「潰せ」

　ヨークは狼に、そう命令した。

「あっ……」

　氷狼が、クリーンに殺到した。

　自らを『鼓舞』したクリーンは、強い。

　だがそれでも、本気のヨークには及ばなかった。

「ああああああああああああぁぁぁっ！？」

　クリーンの視界が、氷狼の群れに埋め尽くされた。

　……。

「あ……うぁ……」

　五分後。

　クリーンは、迷宮の地面に、仰向けで倒れていた。

「生きてるか？」

　ヨークは彼女に歩み寄り、そう尋ねた。

「ぁ……」

　クリーンは傷を負っていたが、致命傷では無かった。

　ヨークは、キレていたように見えて、手加減をする余裕は有ったらしい。

「悪いな。やりすぎた」

　ヨークはポケットから、薬瓶を取り出した。

　そして、瓶を開けると、中身をクリーンに飲ませた。

　瓶の中身は、最高級の回復ポーションだった。

　クリーンの傷が、癒えていった。

「頭に血が上った」

　自らの行いを恥じているのか、ヨークは気まずそうな表情を見せた。

「…………」

　回復ポーションを飲んでも、クリーンは立ち上がれなかった。

　放心状態で、ぼんやりと天井を見ていた。

　『鼓舞』の力が有っても負けた。

　万全な状態で敗れたのは、ヨークが二人目だった。

　ヨーク＝ブラッドロードは強い。

　ただのゴロツキでは無い。

　その事実を飲み込むのに、少しの時間が必要だった。

　……傷が重いのだろうか。

　心配したヨークは、クリーンにこう尋ねた。

「治癒術は使えるか？

　無理そうなら、病院に連れていく」

「……風癒」

　クリーンは呪文を唱え、自身を治療した。

　彼女は寝転がったまま、ヨークに声をかけた。

「……あなた、強かったのですね」

「深層に潜ってんだ。弱いわけねえだろ。

　とにかく、俺の勝ちだ。

　言う事は聞いてもらうぞ」

「……そうですね。

　あなたが最低男でも、

　約束は守らないといけないのです。

　さあ、何でも命令するのです」

「それじゃあ命令させてもらうぞ」

「ど、どうぞなのです」

　酷い命令が来る。

　そう考えたのか、クリーンの体は強張っていた。

「迷宮に居る間は、俺の指示に従え」

「……………………えっ？」

　まっとうすぎる命令に、クリーンは戸惑いの声を上げた。

「何だよ？」

「それだけなのですか？」

「他に何が有るんだよ？」

「…………。

　別に、無いのですけど」

　クリーンは起き上がると、軽く身だしなみを整えた。

　そして、ヨークへと向き直った。

　するとヨークが、クリーンにこう尋ねた。

「さて……。おまえ今、レベルいくつだ？」

「４ですけど？」

「……４？」

「はい。それがどうしたのですか？」

　ヨークの見立てでは、クリーンのレベルは２００を超えていた。

　氷狼を砕いたからだ。

　ヨークの氷狼の強さは、レベル２００の戦士を上回る。

　その１体を、たやすく倒した。

　それがレベル４というのは嘘だろう。

　そう思えたが、いまさらレベルを偽る理由が、考えつかなかった。

　クリーンの表情も、嘘をついているようには見えなかった。

「いや……」

　ヨークは、内心に困惑を残しつつ、先へ進むことに決めた。

「それじゃ、まずは６層まで行くか」

「……分かったのです」

　……。

　二人は６層へ移動した。

　勝負に負けたクリーンは、ヨークの指示に従い、彼の傍を離れなかった。

　ヨークは、緑狼などの魔獣を倒していった。

　１０体ほど魔獣を倒したところで、ヨークは口を開いた。

「なあ」

「……何なのです？」

　クリーンは、そっぽを向きながら尋ねた。

「せめてこっち向いて喋れや」

「つ～ん」

「デレッ」

「何の擬音なのです！？」

「それで、レベルはどうだ？」

「えっと……」

　クリーンは目を閉じ、自身のレベルを確認した。

　そして目を開いた。

「４のままですけど」

「は……？」

「どうしたのですか？」

「本当に、４のままなのか？」

「そうですけど……？」

（どうなってる……？）

　ヨークは混乱した。

　１対１であれば、レベル６の魔獣を１体倒せば、レベルは上がるはずだ。

　ヨークがＥＸＰを吸っている事を考えても、３体も倒せば十分なはず。

　レベルが４のままというのは、あり得ないことのように思えた。

「おまえ……。

　ひょっとして、レベルが上がりにくい体質だったりするのか？」

　ヨークは自身の推論を口にした。

「知らないのです。そんな体質有るのですか？」

「……俺も知らん」

「何なのですか？

　ハッキリしないのです」

（今回は、使う気は無かったが……。

　俺のスキルで、経験値を盛ってみるか）

「もう少し、がんばってみよう」

「ええ。がんばりなさい」

　ヨークは再び、６層を歩き回った。

　すると、すぐに緑狼を発見した。

（居た……）

　緑狼も、ヨークに気付いた。

　ヨークを食い殺そうと、駆け寄ってきた。

　ヨークは、狼に指輪を向け、魔力をこめた。

　ヨークとクリーン、狼を囲む結界が、展開された。

　ＥＸＰを逃がさないための結界だった。

「これは何なのですか……！？」

　クリーンは結界を見て、驚いた様子を見せた。

　初めて見るらしい。

　ヨークは、クリーンの疑問には答えなかった。

「…………」

　ヨークは手のひらを、緑狼に向けた。

　そして心中で、スキル名を唱えた。

（『敵強化』、『戦力評価』）

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緑狼　レベル１

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「……………………。

　は……？」

　ヨークは、向かってきた緑狼を斬り倒した。

　そうして落ちた魔石を、呆然と見つめた。

（どうなってる？　俺のスキルが……。

　『敵強化』が効いてない……？

　そもそも６層に、

　レベル１の魔獣が出るってのがおかしい。

　緑狼の平均レベルは、６のはずだろ？

　どういうことだ？

　何が起きてる？）

「ちょっと！　無視しないで答えるのです！」

「あ？　何が？」

「聞いていなかったのですか？

　戦っていたから仕方ないですけど……」

「悪い。何が聞きたいんだ？」

「さっきの壁みたいなのって、何なのですか？」

「ああ。あれはこの指輪の力だ。

　結界の中から、

　ＥＸＰを逃がさないようにしてくれる」

「そうなのですね？」

「そんなことより……」

「えっ？　どうかしたのですか？」

「それは……」

（こいつに言っても、

　仕方がない気もするが……）

「黙らないで欲しいのです。不安になるのです」

「そのだな……。

　弱いんだ。敵が。いつもより」

「……えっ？　そんなことですか？」

「そんなことって……」

「まったく。守護騎士のくせに、

　そんな調子でだいじょうぶなのでしょうか？」

「……何なんだよ？」

「あのですね、『聖域』スキルというのは、

　魔獣を無力化するスキルなのですよ」