3の10「新型とレベル上げ」



 3日後。


 リホは調整版の魔石を完成させた。


 魔石の組み換えはエボンに任せ、新たな魔弾銃が完成した。


 3人は、新型のテストのため、迷宮に向かった。



「新型っス」



 リホは魔弾銃を上に向けて構えた。


 ただ格好つけるだけの、実のない構えだった。



「おう」



「ニュータイプっス」



「見せてもらおうか。


 魔弾銃の新型の


 性能とやらを」



「それじゃ、その辺のスライムを……」



「駄目だ」



 リホの提案を、ヨークはノータイムで止めにかかった。



「えっ」



 諭すように、リホの肩に手が置かれた。



「スライムは。


 駄目だ」



「……目がマジっス」



 ヨークの目は、くわっと見開かれていた。



 強い目力を前に、リホはスライム狩りを断念した。



「大鼠ではいかがですか?」



 ミツキが口を開いた。



「魔弾銃を造ることになったのも、


 アレがきっかけのようなモノですし」



「ん……。


 どうする? リホ」



「やるっス!」



 リホは気合と共に答えた。



「今のウチには新型が有るっス!


 ネズミ何するものぞっス!」



「ナイスガッツだ」



 ヨークがそう言うと、ミツキも真顔でそれに同調した。



「ナ~イスガッツ」



「えへへっス」



「それじゃ、行くか。


 広大なる迷宮を、


 ネズミを求めて」



「えっ、ちょっと心の準備が……」



「とっとと行くぞ。


 ナイスガッツリホ」



「二つ名!? って……引きずらないで~!」



「往生際が悪いですよ。


 ナイスガッツニュータイプリホ」



「増えた!?」




 ……。




 ナイスガッツ一行は、迷宮の第1層を探索した。



 通路をうろうろしていると、すぐに大鼠は見つかった。



 大鼠は、リホたちに背中を向けていた。



「居たぞ」



 ヨークはそう言うと、リホの後ろに下がった。



 ミツキも後退し、リホが一番前になった。



「うぅ……」



 リホは心細くなったが、いまさら逃げは許されない。



 銃の照準を、大鼠へと合わせた。



「さ、撃って下さい」



 そのミツキの声に反応したのだろうか。



 ネズミは振り返り、リホたちの方を見た。



「気付かれたぞ。撃て」



「っ……!」



 リホは引き金を引いた。



 火の玉が発射された。



 その弾道は速く鋭い。



 火の玉は、ネズミの手前に着弾した。



 そして、爆発を起こした。



 その爆発は、前の魔弾銃によるものより、遥かに小規模だった。



 ネズミを巻き込むほどの攻撃範囲は無い。



 故に、ネズミは無傷。



 健在だった。



「外したなぁ」



 ヨークはのんびりとした口調で呟いた。



「キィ!」



 ネズミは短く鳴き、駆け出した。



 最前のリホに近付いてくる。



「う……」



 リホは一瞬、気弱な様子を見せた。



 だがすぐに、己を奮い立たせた。



「まだまだっス……!」



 鼠がリホに食らいつくには、少しの距離が有った。



 リホは再び、魔弾銃の引き金を引いた。



 引き金を戻さず、押しっぱなしにする。



 連射。



 無数の火の玉が、ネズミへと放たれた。



 外れ、外れ、外れ、着弾。



 ついに魔弾がネズミを捉えた。



 直撃した火の玉は爆発を起こし、ネズミの体を飲み込んだ。



 爆風は、ネズミの肉体を引き裂き、絶命させた。



 第1層の魔獣に対しては、十分過ぎる威力が有ったようだ。



 後には、小さな魔石だけが残されていた。



 リホはヨークたちに振り返った。



 そして、勝利の歓声を上げた。



「やったっス!」



「凄い連射ですね」



「一発の威力を落とす代わりに、


 連発出来るようにしたっス」



「なるほど。リホ向けかもな。


 ……俺も撃ってみたい」



「どうぞっス。


 人に向けちゃダメっスよ」



 リホは、ヨークに銃を差し出した。



「そういや、この魔弾銃って名前は有るのか?」



 銃を受け取ると、ヨークはそう尋ねた。



「リホガンっス」



「えっ?」



「ダサッ」



 ミツキが辛辣に言った。



「ダサくないっス!?」



「まあ良いや。


 見た目はカッコイイし。リホガン」



「頑張って下さいね。


 さすらいのリホガンナー、ヨーク」



 ミツキにそう言われると、ヨークは微妙な顔になった。




 ……。




 ヨークはリホガンの試し撃ちをした。



 そして、飽きるとリホに返した。



 それからは、リホのレベル上げを見守ることになった。



 上層の敵は、リホガンの敵では無かった。



 リホはどんどんと下の階へと下りていった。



 そして、第6層。



 魔弾銃の連射が、緑狼の群れを全滅させた。



 リホは何かに気付いたような顔をして、目を閉じた。



「あっ、レベル7になったっス」



「順調だな」



 ヨークがそう言い、次にミツキが口を開いた。



「リホさんは、


 魔導器の技師になるために、


 レベルを上げているのですよね?」



「そうっスけど?」



「具体的な目標レベルは有るのですか?」



「えっと……。


 世間に出回っている魔導器は、


 レベル20くらいの石を


 使った物が多いっス。


 だから、レベル20の魔獣を、


 安定して狩れるようになりたいっス」



「すると……レベル30くらいは


 有った方が良いですね」



「そうみたいっスね。頑張るっス」



 リホはレベル上げを再開した。




 ……。




 それから一週間後。



 リホの快進撃は続いていた。



 彼女の魔弾銃には、中層でも十分に通用する性能が有った。



 経験を積んだことで、リホ自身の技量も上昇していた。



 第29層。



 荒野の地層。



 リホの魔弾が、雷鳥を撃ち落した。



 周囲の魔獣を全滅させ、リホは目を閉じた。



「あっ……。


 レベル30になったっス」



「目標達成か」



「はいっス」



「……………………」



「……………………」



「……………………」



 妙な沈黙が訪れた。



 ヨークは何もしていない。



 ただ、リホの戦いを見守っていただけだった。



 1つの目的が終わりを告げたことに対し、どう反応するべきか分からなかった。



「おめでとう?」



「……ありがとっス」



 リホはそう言うと、魔石をショルダーバッグに詰めた。



 バッグは、中層の魔石でいっぱいになっていた。



 これを売れば、それなりの利益が見込めるはずだった。



「…………どうしよっか?」



 ヨークが二人に尋ねた。



 それにミツキが答えた。



「いったん太陽の下に出ましょう」



「分かった」



 3人は、今まで歩んできた道を引き返した。



 大階段を上り、広場へと出た。



 強い陽光が、3人の肌を刺した。



 数時間ぶりの日光だった。



「……終わりか」



 ヨークは呟いた。



 リホの成長を見守るだけの1週間だった。



 だが、苦痛では無かった。



 馬が合ったのだろう。



 ヨークは名残惜しさを感じていた。



「…………」



 黙って立っているリホに向かい、ヨークが声をかけた。



「これからどうする?」



「ウチは……。


 ウチ……楽しかったっス」



「ああ。


 ……やりたいことが有るんだろ?」



「はいっス」



「それじゃあ、それをやらないとな」



「……はいっス」



「一人でだいじょうぶか?」



「…………はいっス」



「そうか。だいじょうぶか」



 ヨークは空を見上げた。



「まだ……日が高いな」



 時刻はお昼時のようだった。



 ヨークはミツキを見た。



「迷宮探索の続きをやるか」



「……はい」



「…………行くか」



「……はい」



 ヨークはリホを見ないまま、彼女に声をかけた。



「区切りがついたら、


 宿屋まで遊びに来てくれ。


 それで、何か作ってくれよ。


 カメラとかさ」



「…………」



 ヨークの言葉に、リホは答えなかった。



「元気でな。リホ」



「……………………」



 ヨークとミツキは、大階段を下っていった。



 そしていつものように、迷宮のマッピングを進めた。



 やがて夕刻になった。



 ……。



 ヨークとミツキが、大階段を上ってくるのが見えた。



 リホの瞳に、二人の姿が映っていた。



「…………」



 大階段の上端に、リホは座り込んでいた。



 ショルダーバッグは空になっていた。



 リホの左手に、革袋が握られていた。



「どうした?」



 リホの足場から4段下で、ヨークは立ち止まった。



「ウチ……。


 ウチはやっぱり……。


 一人だと……何したら良いか……


 分からないっス……」



 リホは革袋を持ち上げ、ヨークへと突き出した。



 そして言った。



「お金……」



「これは?」



「魔石を……お金に換えて来たっス……」



「魔導器の元手にするんだろうが。そいつは」



「けど……けど……。


 お金……。


 お金っス……」



「甘えんな。バカ」



「う……」



「人に頼ってばっかいたら、


 強くなれねえ。


 分かってんのか?」



「うぁ……。


 ぁ……あぁ……」



 リホ何も言えず、金の入った袋を突き出してきた。



「……弱っちいな。お前は」



「……………………」



「…………。


 次に何をするかは、


 お前が決めるんだ。


 俺は何も決めない。


 アドバイスもしてやらない。


 ただ……隣に居てやる。


 それで良いか?」



「…………」



 リホは無言で頷いた。



「腹……減ったな」



「…………」



 リホはまた頷いた。



「帰るぞ。


 それで、腹が膨れたら、


 これからのことを考えろ。


 ……立てるか?」



「…………」



 リホは首を横に振った。



「そうか」



 ヨークは階段を登り切った。



「ほら、おぶされ」



 それからしゃがみ、リホに背中を見せた。



「…………」



 リホは這い寄るように、ヨークにおぶさった。



「ミツキ、行くぞ」



「はい」



 ヨークは歩き出した。



 リホを背中に乗せて。



「う……。


 うぁ……うあああぁぁぁぁ……」



 リホは泣き出した。



「今泣くのかよ。


 鼻水つけんなよ。


 泣き虫のおチビちゃん」



 ヨークは嘲るような口調で言った。



「うぅ……最低っス……」



「悔しいか?


 悔しかったらやり返してみろ。


 気合だ」



「……鼻水つけてやるっス」



「それはやめろ。


 ……もっとこう、拳で来い。拳で」



「えいっス」



 リホはヨークの肩をポカポカと叩いた。



「よし。その意気だ」



「……どうもっス」



「まあ、1ミリも効かんがな。


 ヘナチョコパンチめ」



「あむ」



 リホはヨークの耳を甘噛みした。



「うおっ!? 耳は止めろ! 耳は!」



 じゃれ合う二人を見て、ミツキは苦笑した。



「まったく……。


 本当にお人好しなんですから」



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