3の11「リホと2枚目の図面」



 リホがレベル30に達した翌朝。



 ヨークたちの宿。



 寝室で、ヨークがリホに声をかけた。



「んじゃ、


 俺たちは迷宮の探索に行くけど、


 どうする?」



「ウ、ウチも一緒に行きたいっス」



「いや。


 オマエはオマエで、


 やることが有るだろ?」



「帰って来たらやるっス。


 仲間外れは嫌っス」



「ミツキ、良いか?」



「……はい」



 ミツキの許可が得られたので、ヨークはリホを甘やかすことにした。



「自分の身は自分で守れよ?」



「はいっス!」



 3人は、迷宮へ向かった。



 大階段を下り、迷宮へと入った。



 そして、マッピング済みの階層を、一気に駆け下りた。



 それからは、いつも二人がしているように、まったりと地図を埋めていった。 



 リホには少し危ない階層だ。



 だが、二人が居れば危険は無かった。



 たとえ集団で奇襲されたとしても、今のミツキなら、十分に対処できる。



 ゆるく雑談をしながら、迷宮を歩いた。



 そして時間が経つと、探索を終了した。



 3人は、走って地上へ戻った。



 そして宿屋へ帰還した。



「ふぃ~。疲れたっス」



 リホは、ぼてんとベッドに倒れ込んだ。



「忘れんなよ。自分の仕事」



「……疲れたっス」



「甘えたことぬかしてると、


 窓から放り出すぞ」



「や、やるっス!」



 リホはベッドから跳び上がった。



 そして、作業台へ向かった。



 製図用紙に向かい、鉛筆を走らせ始めた。




 ……。




 1時間後。



 ヨークとミツキは、ベッドでカード遊びをしていた。



「リーチ」



 ミツキがリーチをかけた。



「なんの。カウンターリーチ」



「甘い。ギャラクティカ=リーチ=ブレイクです」



「ぐお……」



 ミツキの良手が決まってしまった。



 意識外からのギャラクティカ=リーチ=ブレイク。



 形勢は、ヨークの圧倒的不利だった。



「ふふっ。これで私のセカンドセクシーですね」



「ぐ……」



 まさかこんなにも早く、セカンドセクシーにまで追い込まれるとは。



 盤面を覆せる手は無いのか。



 ヨークは必死に自身の手札を見回した。



「無駄ですよ。ヨーク」



「なんの……!」



「気が散るっス!」



 製図中のリホが、上体をベッドに向けて言った。



「そんなこと言われましても……」



 ミツキは首を傾げた。



「俺の部屋だし?」



 ヨークも首を傾げた。



「私の部屋でもあります」



「じゃあ、ウチの部屋でも……」



「それは違うよ」



 ヨークが学級裁判の発言者のような口調で言った。



「うぐ……」



「……そうだ」



 ミツキはトンと両手を合わせた。



「もう一部屋、借りましょうか?


 リホさんは、


 そちらのお部屋で


 作業をすれば良い」



「嫌っス」



「じゃあ我慢しろ」



「ウチも遊びたいっス……」



「お前はいつ仕事するんだよ」



「後でやるっス」



「……………………」



「……………………」



「おまえ……魔術学校の主席だったんだよな?」



「はいっス」



「その自制心の無さで、


 どうやって勉強したんだよ……」



「どうって、ウチ、


 学校ではアホの人族どもに


 虐められてたっスから。


 高学歴には、


 魔族やハーフよりも


 人族が多いっスからね。


 青白い肌の


 ウチの頭が良いのが、


 目障りだったみたいっス。


 それで、友だちも居なくて、


 暇だったから勉強してたっス」



「……ミツキ」



 ヨークはミツキを見た。



 同情を隠せない顔をしていた。



「駄目です。


 山に帰してきなさい」



「あ、ああ。そうだな。


 リホ。仕事に戻りなさい。


 ゴーホーム。


 ゴーマウンテン」



「うぅ……。厳しいっス」



「そうだ。


 俺は鬼のように厳しい男だ。


 ……ミツキ」



「はい」



「俺たちがうるさいと


 集中出来ないみたいだから、


 静かにするか」



「…………ダダ甘じゃないですか」



 2人はリホの邪魔にならないよう、静かに時間を潰すことにした。



 ヨークにとって、ミツキとゆったり過ごすことは、苦痛にはならなかった。




 ……。




 夕食を経て、さらに2時間ほどが経過した。



 リホは作業用の椅子から、勢い良く立ち上がった。



「出来たっス!」



 リホはそう言って、製図用紙を掲げた。



 リホの小さな上半身が、紙に隠された。



「それは?」



 ヨークが尋ねた。



 相変わらず、ヨークに魔導器の図面は読めない。



 ドヤ顔で見せられても、ちんぷんかんぷんだった。



「ハゲ社長に


 燃やされた図面の一つを、


 再現したっス」



 一応繰り返すが、イジュー=ドミニはハゲでは無い。



 本当にハゲだったとしても、ハゲだと言ってはならない。



 ハゲにハゲと言うと傷つくからだ。



「それで、何が出来るんだ?」



「ふっふっふ。


 それは出来てからのお楽しみっス」



 リホは自身満面にしてみせた。



 だがすぐに一転し、言いづらそうに言葉を続けた。



「それで……その……。


 また材料の調達を……


 お願いしても良いっスか?」



「魔石か?」



「いえ。今回のやつは、


 スライムの魔石で十分っス」



「そんなんで良いのか?」



「はいっス。


 戦闘用じゃ無いんで、


 出力は必要無いんスね」



「ふ~ん?」



「それよりもまた、


 フレームに使う金属を


 仕入れて欲しいっス」



「分かった」



「リホさん」



 ミツキが口を挟んだ。



「はい?」



「その金属の仕入れ、


 いくら払って貰えるのですか?」



「いくらって……別に良いだろ」



「良くはありません。


 私たちから


 タダで材料を仕入れて、


 それで儲けを出して……」



「本当に、


 それで魔導技師として


 自立したと言えるのですか?」



「まあ……うん……」



「……分かったっス。


 次の魔導器が売れたら、


 冒険者ギルドに卸す額の、


 1割増しで


 お支払いするっス」



「良いでしょう。


 その依頼、承りました。


 ……仕入れてくるのは、


 前と同じ


 魔光銀で構いませんか?」



「はいっス」



「本当に?


 本当に構わないのですね?」



 ミツキは念を押すように聞いた。



「……? はいっス」



 リホはミツキの言い様に、少し違和感を覚えた。



 だが、そのまま頷いた。



「分かりました。


 それでは、


 今日はもう休みましょうか」



「えっ?


 まだ寝たくないっス。


 ウチも二人と遊びたいっス」



「……0時までですよ?」



「了解っス」



 3人で遊ぶことになった。



 そして1時頃、部屋の明かりが消えた。



 翌日。



 ヨークとミツキは、魔光銀の仕入れのため、迷宮に向かった。



 金属塊を落とすゴーレムは、深層に居る。



 リホを連れて行くのは、危険という判断になった。



 リホは、宿屋で二人の帰りを待つことになった。



 彼女は寝室で、あれこれして時間を潰した。



 やがて午後になった。



 無事に、二人が寝室に帰ってきた。



「獲ったど~」



「お疲れ様っス」



「どうぞ。注文のお魚です」



 ミツキはスキルで金属塊を取り出した。



 そして、リホに手渡した。



「どうもっス」



「料金は


 後で請求させていただきますね」



「はいっス」



「それと、図面の複製です」



 ミツキはスキルでリホの図面を取り出した。



 次に造る魔導器の図面で、オリジナルと複製の2枚が有った。



「どもっス」



 リホはミツキから図面を受け取った。



「それじゃ、エボンさんの所に行くっス」



「はい。行ってらっしゃい」



「……えっ? ウチ一人っスか?」



「はい」



「無理っスけど?」



「仕事の発注くらい、


 一人で出来なくてどうするんですか」



「ぅ……適材適所という


 名ゼリフが有るっス!


 ウチは開発担当なんス!」



「……はぁ。仕方ないですね。


 行きますか。ヨーク」



「ミツキ。おまえさあ」



「はい? 何でしょう?」



「いや。行くか」



「はい」



「あっ、ちょっと待つっス」



 リホは台の上に有った布で、魔光銀を包んだ。



「準備オッケーっス」



 3人は宿屋を出た。



 通りを歩き、エボンの店へと向かった。




 ……。




 エボンの武器屋。



 その売り場。



 テーブルの周囲に、ヨークたちが集まっていた。



 テーブルの上に、リホの図面のコピーが広げられていた。



「今度は武器じゃねえのか」



 エボンが図面を眺めながら言った。



「前のやつより


 チマチマしてんなあ」



 図面に記されたフレームのサイズは、前の魔弾銃よりも小さい。



 開口部が多く、作り手から見ると、面倒な形をしていた。



「う……。すいませんっス」



「ビビるな。目で殺せ」



 ヨークはリホの後ろからそう囁いた。



「え? 味方だよな? 俺たち」



「それはそちらの返答次第です」



「薄い友情だなオイ」



「……ダメか?」



「武器屋だぜ? ウチは。


 あんまり妙なモン作らされんのも


 複雑っつーか……。


 けどまあ、


 俺とボウズたちの仲だ。


 出すモン出してくれたら、


 引き受けても良いぜ」



「ボロン」



「帰れ」



「ボロンって何スか?」



「聞いてはいけません。


 馬鹿がうつります」



「……………………」



 ヨークは深く傷ついた。




 ……。




「で?


 これを幾つ作るんだ?」



 ボロンマンのことは放置して、エボンがリホに尋ねた。



「えっと……。


 百個くらい……っスかね?」



「そこら辺は、


 ハッキリしてもらわんと。


 後で数が違うって


 難癖つけられても困るぜ」



「百個、お願いするっス」



「百か……こりゃコトだな。


 材料は?


 またそっちで用意するのか?」



「これでお願いするっス」



 リホは、大事に持っていた布包みを解いた。



 ヨークたちが取ってきた魔光銀だった。



 リホは魔光銀の塊を、エボンに差し出した。



「また魔光銀か……。


 さらっと持ってきやがるな。


 相変わらず」



 エボンは、呆れと称賛が入り混じった声音で言った。



「それじゃあ値段だが……。


 小金貨20枚だ。


 どうする?」



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