7の1の1「気まぐれとセブンカード」



 かつて戦いが有った。



 遠い世界から、二柱の神々が、この世界を訪れた。



 トルソーラとガイザーク。



 難民を引き連れたこれらの神々は、原住民たちへと戦いを挑んだ。



 勝ったのは、侵略者たちの方だった。



 原住民を守護する神は、侵略者の神によって封印された。



 封じられた神、ヨーグラウは、なぜか原住民によって命を断たれた。



 ヨーグラウの死後、トルソーラはガイザークを、自らの世界樹に招いた。



「珍しいのう。おぬしが我を招くとは」



 世界樹の頂上で、小柄な少女の姿をした神が口を開いた。



 魔族の神、ガイザークだ。



 彼女は今日のために用意されたテーブルを挟み、トルソーラと向き合っていた。



「話がしたかった」



「構わんが、飲むか?」



 いつの間にか、ガイザークの手には酒瓶が有った。



「もらおうか」



 どこかから、二つの酒盃が出現した。



 ガイザークは、酒盃に酒を注いでいった。



 酒盃に酒が満ちると、ガイザークはそれをトルソーラに手渡した。



 二人は酒を飲み始めた。



「それで、話というのは?」



 あるていど酒が進むと、ガイザークが口を開いた。



 トルソーラが、軽い理由で自分を招くはずが無い。



 ガイザークはそれを理解している。



 疑問を抱くのも当然だと言えた。



 女神の問いに、男神はこう答えた。



「悩んでいる二択が有る。


 どちらにするか、決めかねている。


 どうしたものかと思ってな。


 おまえの顔を見れば、答えが出るかもしれんと思った」



「答えは出たか?」



「いや」



「面倒なやつじゃな。


 いっそサイコロでも振って決めてしまえばどうじゃ?」



 それなりに本気で、ガイザークはそう言った。



 うじうじと悩むことを、彼女は好まない。



 運を天に任せるのも悪くは無いと思っていた。



「良いかもしれんな」



 そう言うとトルソーラは、空中にカードを出現させた。



 そのカードを手に取ると、彼はガイザークに尋ねた。



「セブンカードは分かるか?」



「ああ」



「一勝負しよう」



 トルソーラはカードを配り始めた。



 ガイザークは黙ってカードを受け取った。



 そして自分の手札を見た。



「チェンジは?」



 トルソーラが尋ねた。



「無しじゃ」



「ならば、余もこのままとしよう。


 ……オープン」



 トルソーラがそう言うと、ガイザークの方が先に、自身の手札を開示した。



「スリークラブ」



 ガイザークの手札を見て、トルソーラの眉がぴくりと動いた。



 彼は一呼吸置いた後、自身の手札を開示した。



「スリーペア」



 トルソーラの七枚の手札には、数字のペアが3つ有った。



 強い手だ。



 トルソーラの勝利だった。



「ほお。中々の手じゃな」



 負けを気にしていない様子で、ガイザークはそう言った。



「そちらはそれほどでも無いな。


 どうしてチェンジしなかった?」



 スリークラブというのは、そう強い手では無い。



 初手でこの手札になった場合、手札を4枚チェンジするのが定石だ。



 神ともあろう者が、それを知らないわけが無い。



 だがガイザークは、なぜか弱い手で勝負してきた。



「戦いの匂いがした」



「……そうか」



 彼女らしい答えだなとトルソーラは思った。



 そしてこう言った。



「ガイザーク。おまえを討つ。


 そういうことになった」



「なるほど。


 すると、ここに居てはまずいのう」



 ガイザークは、ラビュリントスの最下層まで跳んだ。



 世界樹の頂上から、彼女の姿がかき消えた。



 一瞬遅れて、トルソーラが神気を放った。



 ガイザークもそれに応えた。



 お互いの神力が、封じられていった。



「神壁を残したか」



 ガイザークは、逆さ世界樹の最下層から、遥か上空のトルソーラに呼びかけた。



 神々には、神壁、あるいは聖障壁という、絶対的な防御手段が有る。



 力を封じ合った今も、二柱の神々には、その力が残されていた。



 トルソーラが、わざとそのように仕向けたらしい。



「こちらには、聖剣が残っている」



 聖剣は、かつてヨーグラウを討つために、トルソーラが創造した剣だ。



 世界で唯一、神壁を切り裂く力を持っている。



 ガイザークの側には、聖剣のような武器は無い。



 今のままではガイザークには、トルソーラを討つ手段が無いということになる。



「なるほど。こちらが不利じゃな」



「すぐに討手を送る。怯えて待て」



 そう言うと、トルソーラは対話を断ち切った。



 トルソーラの気配が失せると、ガイザークは独り言を口にした。



「用意周到なトルソーラのこと。


 もう戦いは始まっておるのじゃろうな。


 子供たちは、今日死ぬということか。


 じゃが……


 聖剣ということは、カナタが来るということか。


 何故かのう。


 妙に心が躍っておるわ」



 ガイザークは胸を高鳴らせながら、死の訪れを待った。



 結局、カナタの裏切りにより、ガイザークが討たれることは無かった。



 だが戦いは、人族有利の形で終わった。



 世界の覇権は、人族に握られることになった。



 魔族が勢力を取り戻すには、しばらくの時間と努力が必要になった。




 ……。




 それから遥か後。



 トルソーラは、ヨークに7枚の札を配った。



(この男が勝てば、戦いを止めても良い)



 魔族を滅ぼすまで戦う。



 最初、トルソーラはそのつもりだった。



 だから、どうしてそう思ったのかは、トルソーラ自身にも分からなかった。



 ほんの小さなしこりのような物が、トルソーラに気まぐれを起こさせた。



 だが……。



「オープン」



「……スリーコイン」



「フォーソード。余の勝ちだ」



 気まぐれは意味を成さず、トルソーラは魔族を滅ぼすことに決めた。



 ……そうなるはずだった。


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