2の1の3「王都とデート」



 宿屋の寝室で、ヨークは不満を募らせていた。



(結局、あいつら1回も遊びに来やがらねえ)



 バジルたちと没交渉になっている。



 和解したはずだ。



 それなのに、和解前と交流に大差が無いのが、不満だった。



 ヨークはベッドに座った状態で、隣のベッドのミツキに声をかけた。



「ミツキ。


 今日は迷宮は休みな」



「どうしてですか?」



「バジルたちの所に遊びに行く」



「……私もご一緒して良いですか?」



「行くか」



「はい」



 2人、宿を出た。



 時刻はまだ、午前中だった。



 時間帯に関わらず、王都の通りには人が多い。



「居場所は分かっているのですか?」



 宿の前の通りで、ミツキがヨークに尋ねた。



「いや。これから探す」



「念話の指輪は?」



 ミツキはそう言って、ヨークの左手を見た。



 ヨークの指に、指輪がはめられていた。



 ドスから貰った物だ。



 ヨークは指輪をはめた手を、ひらひらと振ってみせた。



「通じない。


 壊れたんかな」



「ひょっとして、ハブられているのでは?」



「……文句言ってやる」



「どうやって探すのですか?」



「ん~……。


 冒険者ギルドに行ってみるかな」



 バジルたちは冒険者だ。



 魔石の換金のため、ギルドを訪れるはずだった。



 それにギルドには、バジルたちの知り合いが居るかもしれない。



「良い考えですね」



 ミツキは賛同した。



 2人は冒険者ギルドに足を向けた。



 そのとき……。



「やあ。少年」



 聞き覚えの有る声が、ヨークの耳に届いた。



 ニトロ=バウツマー。



 神殿騎士。



 かつて重症のヨークを救った、恩人だった。



 彼が居なければ、ヨークは命を落としていただろう。



 あの日から、ヨークは彼への感謝を忘れたことは無かった。



 以前とあまり変わらない姿で、ニトロが通りに立っていた。



「ニトロさん!」



 ヨークは嬉しそうに、ニトロの名を呼んだ。



「……どちらさまでしょうか?」



 只者では無いニトロの物腰に、ミツキは警戒した様子を見せた。



 敵であれば、除かねばならない。



 ヨークのために。



「はっはっは。


 そう案じることは無いよ」



 警戒した様子のミツキを見て、ニトロは体幹を崩してみせた。



 そして、笑顔でミツキに話しかけた。



「私はニトロ=バウツマー。


 少年の友人かな。うん」



「恩人ですよ。ニトロさんは」



 ヨークの顔に、ニトロへの敬いが見えた。



 不意の再会を、心から喜んでいる様子だった。



「そうでしたか。失礼いたしました」



 ミツキは警戒心を霧散させ、ぺこりと頭を下げた。



「ミツキと申します」



「うん。よろしく。


 ミツキくん。


 ……ところで、


 2人は今日はデートか何かかな?」



「いえ。ちょっと知り合いを


 探しに行くところですね。


 住所が分からないんで、


 今日中に会えるかどうかは


 分かりませんが」



「そうか。


 なぁに。案じることは無い。


 私はこう見えて


 顔が広いからね。


 君たちの友人も、


 きっと見つけられると思うよ」



「忙しいんじゃ?」



「ここで会ったも何かの縁さ。


 さあ、行こう」




 ……。




 30分後、ヨークはバジルたちの姿を見ることが出来た。



 古い家屋の、井戸が有る庭。



 そこで4人が、楽しそうにしているのが見えた。



 何を話しているのかは、距離が有って、ヨークには分からなかった。



 ドスの指に、念話の指輪は見えなかった。



「…………」



 ヨークは遠くから、黙って彼らの様子を見ていた。



「声をかけないのかい?」



 ニトロが言った。



(……楽しそうだな。


 俺が居なくても)



 ヨークはなぜか、4人に近付くことが出来なかった。



 バジルたちも、ヨークに気付いた様子は無かった。



 ヨークは4人の姿に背を向けてしまった。



「まあ、良いです」



「……そう」



 ヨークは歩き出した。



 そして、バジルたちの姿が見えない位置まで来ると、立ち止まった。



「……ありがとうございました」



 ヨークはニトロに頭を下げた。



「困った時はお互い様さ。


 それじゃ、またね」



「はい。また」



 ニトロは去っていった。



 やることが無くなったヨークは、ぶらぶらと街を歩いた。



「…………」



 ミツキはその後ろを、黙ってついていった。



「なあ、ミツキ」



 ふと、ヨークが口を開いた。



「何ですか?」



「青春しようぜ」



「それはいやらしい意味で?」



「ちげーよ。


 ナウなヤングメンらしく、


 シティの暮らしを


 インジョイしようぜってことだよ」



「さすがはヨーク。


 村民的スラングがすらすらと」



「良いから、どっか遊びに行こうぜ」



「構いませんが、


 どこに行くのですか?」



「それはこれから考える」



 ヨークたちは、宿へ一時帰宅した。



「お帰りなさいませ。


 お客様」



 宿に戻ったヨークは、サトーズに出くわした。



 それでヨークは、彼に質問をしてみることにした。



「あ。サトーズさんって王都のことに詳しいよな?」



「はい。人並み程度には」



「なんかオススメの青春スポット教えて」



 ヨークがそう言うと、サトーズは遠い目をした。



「青春でございますか。


 そうですね……。


 娯楽を求めるのであれば、


 中央劇場に行くのが良いでしょう。


 刺激を求めるのであれば、


 カジノなども有りますが、


 恋人を連れて行くのは


 お勧めしません。


 お2人の時間を過ごしたいのであれば、


 展望台や


 鉄巨人公園などが良いかもしれませんね。


 個人的には、


 猫牧場も捨てがたいところですけどね」



「猫か。猫は良いな」



 サトーズの言葉を受けて、ヨークがそう言った。



「お好きなんですか?」



 ミツキが尋ねた。



「ああ。なんて言うか、


 癒やされるよな」



「はあ。まあ」



 ミツキは気のない様子で答えた。



 本当は好きなくせに、格好つけてやがるなコイツ。



 ヨークは内心でそう判断した。



「サトーズさん。他には?」



「そうですね……。


 知的な経験をしたいのであれば、


 美術館や博物館なども良いでしょう」



「ありがとう。行ってみるよ」



 まだ日は高い。



 遊びに出るには十分な時間が残っていた。



 ヨークたちは再び外に出た。



 通りに立つと、ヨークは張り切って言った。



「よし。王都を満喫するぞ」



「はい。


 まずは、どこに向かいましょうか?」



「劇場に行ってみるか。


 王都観光の目玉らしいし」



「はい」




 ……。




 2人は劇場で、演劇を見ることにした。



 観劇代は、少し高かった。



 だが、今の2人に払えない額でも無い。



 1番安い席に座り、2人は劇を楽しんだ。



 劇の内容は、恋物語だった。



 悲恋要素を含んでいた。



 恋が叶う者も居れば、敗れる者も居る。



 そういうお話だった。



 劇が終わると、2人は劇場を出た。



「……………………」



 日光の下で、ヨークはしんみりとした様子を見せた。



「ヨーク?」



「あんな健気な幼馴染が、


 どうして泣かないといけないんだ……」



 ヨークは少し涙ぐんでいた。



 劇に感情移入してしまったようだ。



 涙をこぼすことはしなかった。



 男の子だからだ。



「気持ちは分かりますけど、


 お芝居ですから」



「そうだけどさ。


 身も蓋も無いなお前」



「すいません。


 ……今日はもう帰りますか?」



「だいじょうぶ」



「次はどこに向かいましょうか?」



「猫牧場。猫に乗りたい」



「分かりました」



 次の目的地が決まった。



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