『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

２の８の１「敵と強化」

「失せろ」

　ボワイヤはそう言って、ニトロを睨みつけた。

　視線に怒気が乗っていた。

　だが……。

「……っ！？」

　重圧が、ボワイヤを襲った。

　ニトロから、同等以上の怒気が返ってきていた。

　眼前の獲物を食い殺さんとする、猛禽のような気だった。

　ボワイヤとニトロは、初対面のはずだ。　

　赤の他人に向ける類の怒気では無かった。

　想定外の意に、ボワイヤの体が揺れそうになった。

　だが、ボワイヤとて上級の冒険者だ。

　彼は意識を集中し、深く息を吸った。

　そして、吐いた。

「ふぅ」

　呼吸で心身を落ち着かせ、ボワイヤが言った。

「……神殿騎士など、

　お呼びでは無い」

「関係無いね。

　彼女を傷つけると言うのなら、

　君たちを倒させてもらう」

「倒すだと？

　上級冒険者であるこの俺をか？」

「あの、ボワイヤ様」

　兵士の一人が口を開いた。

「どうした？」

「あの方は、

　神殿騎士団の団長です……！」

「何だと……？」

　王都において、神殿騎士団と呼ばれる組織は、ただ一つ。

　大神殿を守る、屈強な神殿騎士たちの群れ。

　団長であるニトロは、大神殿の武力を代表する存在と言えた。

　彼の号令一つで、精兵である神殿騎士たちが動く。

　このような小競り合いで、敵に回して良い存在では無い。

「「「…………！」」」

　その権威に、実績に、兵士たちはおののいた。

　動揺する兵士たちに向かって、ニトロはこう言った。

「案じることは無いよ。

　君たちをどうこうするのに、

　騎士団の力を使うつもりは無い。

　君たちごとき、

　この剣で十分だからね」

　そう言って、ニトロは長剣を抜刀した。

　ニトロの腰には、２本の長剣が有った。

　今ニトロが抜いた方の剣は、団長のものにしては凡庸だった。

　悪くはないが、ありふれている。

　ボワイヤの中に、ニトロを侮る気持ちが生まれた。

　団長とは言っても、ただのまとめ役かもしれない。

　組織の長が最強だとは限らない。

　騎士団の介入は無いと、言質を取った。

　それならば、目の前の男を叩きのめせば済む。

「この人数に勝てるつもりか？」

　ボワイヤの問いに、ニトロはこう返した。

「勝てるさ。

　……君たちは弱い。

　とても弱い。

　だから、弱い者虐めなんか

　しているんだろう？」

「舐めるなよ！　かかれ！」

　ボワイヤが、兵士たちに命じた。

「はっ！」

　兵士たちが剣を構え、ニトロに向かっていった。

　だが……。

「ぐあっ！？」

「ひぎっ！」

「うあっ！？」

　血液と悲鳴が、撒き散らされた。

　それは、戦いと呼ぶには一方的だった。

　彼らはニトロに傷一つ負わせることなく、倒されていった。

「な……！？」

　眼前に生じた光景に、ボワイヤは驚愕の声を上げた。

　あっという間に、ボワイヤの手勢は全滅していた。

　一息の間に、数の優位は役に立たなくなっていた。

「後はキミ一人だ」

　ニトロはボワイヤに剣を向けた。

　その剣先は、血に塗れていた。

　彼の瞳には、まだ怒気が残っていた。

「俺は上級冒険者だぞ！

　貴様など、

　俺一人で十分だ！」

　ボワイヤはそう言って、自分自身を奮い立たせた。

「上級冒険者、か。

　やけに、それに拘るね。

　ひょっとして、

　それくらいしか人に誇れることが無いのかな？

　……貴族といっても、

　４男坊にもなると、哀れなものだね」

「貴様ああああああっ！」

　痛い所を突かれ、ボワイヤは激昂した。

　敵前で我を失うなど、一流の戦士のすることでは無い。

「…………」

　ニトロはすっと前に出た。

「あ……」

　ニトロの剣がボワイヤを突いた。

　その一突きで、ボワイヤは倒れた。

　それきり、もう立ち上がれなかった。

「脆いな。

　金で買ったレベルで

　満足したクチか」

　敗者を見下ろしながら、ニトロはそう呟いた。

　もう敵は居ない。

　ニトロは怒気を散らした。

　そして、エルの方を見た。

「あ……あぁぁ……」

　エルは震えていた。

　その表情からは、怯えの色が読み取れた。

「案じることは無い」

　ニトロはエルに微笑みかけた。

「もう敵は居ない。

　怖がることは何も無いんだよ」

「……はい」

　エルはニトロと見つめ合った。

　エルの震えが収まった。

「……だいじょうぶかい？」

「はい。

　ありがとうございます」

「どういたしまして」

「失礼ですが、もう行かなくてはなりません。

　んっ……」

　背筋を伸ばそうとして、エルはうめいた。

　ボワイヤに斬られた翼からは、未だに血が流れていた。

「風癒」

　ニトロは呪文を唱えた。

　エルは薄緑の風に包まれた。

　翼の傷は、みるみると塞がっていった。

「すみません。何から何まで」

「気にしないで。

　良かったら、

　目的地まで送るよ」

　……。

　王都裁判所。

　地下牢。

　ヨークは、独房の一つに放り込まれていた。

　独房には、ベッドも椅子も無かった。

　ヨークは壁にもたれて座り込んでいた。

　相変わらず、ヨークの手首には、力を封じる手枷が有る。

　今のままでは戦えそうになかった。

「…………」

　ヨークは目を閉じて、自身の状態を確認した。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

ヨーク＝ブラッドロード

クラス　魔術師　レベル１

スキル　敵強化　レベル２

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

（どうやら、スキルは使えるらしいな）

　ヨークはただ、機会をうかがっていた。

　やがて、２組の足音が聞こえてきた。

　独房の扉が開き、２人の兵士が入ってきた。

　両方が、２０代くらいの男だった。

「…………？」

　男たちを見て、ヨークは違和感を覚えた。

　そしてヨークは、その違和感の名前を知っていた。

　殺気だ。

　部屋の中に、殺気の塊が入ってきた。

　兵士の片方が、ヨークの前に立った。

「さて……」

　ヨークの眼前の兵士が、腰の長剣を抜いた。

　数打ちの安物だった。

　それでも、丸腰の人間相手には、十分な驚異になる。

「やるか」

「…………」

　ヨークは無言で男の顔を見上げた。

　男の目が血走っているのが見えた。

「ガネス……。

　ホントにやるのか？」

　剣を抜いた男に対し、もう片方の男は弱気を見せた。

「もう金は受け取ってんだ。

　腹ぁくくれよ。ベイク。

　それに、お偉方に逆らったら、

　こっちがどうなるか分からねえ。

　やるしかねえだろ？」

「そうだけど……チクショウ……！

　ウチはもうすぐ

　子供が産まれるんだぞ……？

　こんな事……嫁になんて説明したら良いんだよ……」

「何も言うな。

　それで良いだろ。

　俺がやる。

　良いから黙って見てろよ」

「あ、あぁ……」

　兵士の片割れ、ガネスが剣を振り上げた。

「俺を始末しに来たってわけか」

　ヨークはガネスを睨みつけた。

　本来であれば、片手で殺せる相手だ。

　だが、手枷をはめられたヨークを、ガネスは恐れなかった。

「悪いな」

「お前……」

「何だ？　命乞いか？」

「俺に、『殺意』を向けたな？」

　ヨークは凶悪な笑みを浮かべた。

　自信と虚勢、敵意と憐れみが混じった、雄の笑みだった。

「なら……俺の『敵』だ……！」

「それがどうした！」

　ガネスは上段から、剣を振り下ろした。

　ヨークは両手を上げた。

　手枷を突き出す。

　剣の軌道へ。

　レアスキルの中には、発動に条件が必要な物が有る。

　今、条件は満たされていた。

（『敵強化』ッ！）

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

ガネス＝マウケル

クラス　戦士　レベル２８０

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

　極限の強化が、ガネスに施された。

　凡庸な一撃が、渾身の一撃へと変わった。

　常人の限界を超えた剣が、ヨークの手枷を打った。

　手枷は粉々に砕け散った。

　衝撃で、ヨークの手首の骨も、粉々に砕けた。

　打った側の長剣すらも砕けていた。

「ぐうううっ……！」

　ヨークは激痛に耐えながら、ガネスに意識を向けた。

　まだ、終わってはいない。

　これからだ。

「『強化……解除』……！」

「な……！？」

　ガネスは自分の体から、暴力的なパワーが抜けていくのを感じた。

「おい……！

　何やって……！？」

　片割れのベイクが、困惑の声を上げた。

「違う……！

　そんなつもりじゃ……！」

「立ち上がるぞ！？」

　ベイクの言葉の通りに、ヨークは立ち上がった。

「ハハッ」

　ヨークは笑った。

　激痛が、ヨークの脳から快楽物質を絞り出していた。

　笑うことしか出来なかった。

「ハハハハハハハッ！」