『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

６の２７「飛翔と墜落」

　イジューが持ってきた義足の、テストをすることになった。

　イジューは義手義足以外にも、工具を持参していた。

　彼はそれを使い、ネフィリムの太ももに義足を取り付けていった。

「……それで歩けるんですか？」

　無言で作業を続けるイジューに、ユリリカが声をかけた。

「あくまで試作品だ。最後にどうなるかは分からん」

　イジューはそれだけ答えると、淡々と作業を続けた。

「まずは膝を動かしてみろ」

　取り付けが終わると、イジューがネフィリムにそう命じた。

「はいです」

　ネフィリムはベッドの上で、太ももを持ち上げた。

　そして機械のヒザや足首を、動かしていった。

「どうだ？」

　反復的に脚を動かすネフィリムに、イジューがそう尋ねた。

「思った以上に動いて……怖い感じがするです」

　ネフィリムは、素直な感想を口にした。

　テスターの意見を耳にすると、イジューはクリスティーナに視線をやった。

「……石を８番に替えてみろ」

「はい」

　クリスティーナは工具を使い、義足を分解した。

　そして中の魔石を交換した。

　地道なテストが続けられていった。

　……。

　予定通り、マリーが病院から戻ってくることになった。

　介護の都合で、彼女はネフィリムと同じ部屋に住むことになった。

　この家でベッドが二つ有るのは、死んだ両親の部屋だけだ。

　二人はそこで暮らすことになった。

　帰宅したマリーは、車椅子で部屋に入っていった。

　そこでベッドのネフィリムと目が合った。

「…………」

「…………」

「その、お邪魔してるます」

「ええと……。

　よろしく？」

「はい。よろしくです」

「よろしく」

　二人は気まずそうに挨拶をした。

　だが、両者とも温厚だったので、すぐに打ち解けることができた。

　……。

　四人での暮らしが始まった。

　クリスティーナは昼は学校に行き、夜は義足の研究をした。

　ユリリカは、普段はマリーたちの介護をした。

　そして空いている時間で勉学に励んだ。

　さらに、クリスティーナが休みの日には大神殿へ行き、聖女教育を受けた。

　忙しくも緩やかな日々が過ぎていった。

　そして……。

「立った！　ネフィリムが立った！」

　ネフィリムたちの部屋で、ユリリカが喜びの声を上げた。

　地道な調整の結果、ネフィリムは立ち上がることに成功していた。

「歩けるかい？　ネフィリム」

　クリスティーナが尋ねた。

「んっ……」

　ネフィリムが、足をゆっくりと持ち上げた。

　足は前方へと向かい、そして着地した。

　彼女は一歩だけ歩いてみせた。

　そして、二歩目を歩こうとして……。

「あっ……」

　体勢を崩してしまった。

　倒れそうになるネフィリムを、ユリリカが受け止めた。

　ユリリカの体幹は、意外にしっかりとしていた。

　ユリリカはふらつくこともなく、ネフィリムを軽々とベッドに戻した。

「どうもであります」

　ユリリカがネフィリムに礼を言った。

　次にクリスティーナが口を開いた。

「力持ちになったね。ユリリカ」

「……聖女候補は、体も鍛えるのよ」

　ユリリカは既に、迷宮でレベル上げを行っている。

　心配性な姉に言えば、大げさな反応が返ってくるだろう。

　そう思ったユリリカは、少しぼかした返答をした。

「そうなんだ。大変だね」

　ユリリカが迷宮に潜っていることに、クリスティーナは気付かなかったようだ。

　それでのんきにそう言った。

「それより、ネフィリムのことでしょ」

　後ろめたさをおぼえたユリリカは、話題を逸らすことにした。

「そうだね。これは大いなる躍進だよ」

「…………っ」

　ネフィリムが、涙をこぼした。

「ネフィリム？　どうしたの？」

「自分がまた立てるようになるなんて……思ってもみなかったのであります」

「良かった」

　マリーは柔らかい笑みを浮かべた。

　その笑みには、虚飾も後ろめたさも無い。

　彼女は真実を知らない。

　そして、ネフィリムという隣人のことを、心から好きになっていた。

「はい……！

　良かったのであります……！」

　マリーとネフィリムは、心からの喜びを分かち合った。

　それを見るとクリスティーナの胸は、ズキリと痛むのだった。

　……。

　それからさらに、試行錯誤の日々は続いた。

　改良を重ね、ネフィリムは歩けるようになった。

　その次はぎこちない歩みを、よりスムーズにする必要が有った。

　クリスティーナとネフィリムは、工房の社長室を訪れた。

　ネフィリムはツノが見えないように、フードを被っていた。

「失礼するのであります」

　義手と義足を巧みに操り、ネフィリムはお辞儀をしてみせた。

「……おまえたちか」

　イジューは書類に向けていた視線を上げた。

「１度も転ばずに、ここまで来られましたよ。凄いでしょう」

　クリスティーナは自慢げに微笑んだ。

　それに対し、イジューは真顔で答えた。

「そうだな」

　イジューのそっけなさに、クリスティーナは慣れていた。

　それで特に傷つきもせず、言葉を続けた。

「次は走れるようになるのが目標です」

「怪我のリスクが増える。気をつけろよ」

「はい。防具を借りていって良いですか？」

「構わん。ところで……。

　妹を、学校に通わせるつもりはあるか？」

「ユリリカですか？　それとも、マリーですか？」

「両方だ」

「ユリリカは２年後に、聖女の試練が有りますし、

　マリーはペンも持つことが出来ません」

「どうせ、本気で聖女になりたいわけでは無いのだろう？」

「それは、はい」

　ユリリカが聖女候補になったのは、大神殿からの援助が目当てだ。

　頼まれても、聖女になどなりたくは無い。

　彼女はそう思っていることだろう。

「それと、下の妹のことだが。

　入学試験までに、ペンを操作出来る魔導器を創れ」

「ネフィリムはまだ文字を書けませんが……」

「人の手という複雑な機構を

　再現しようとするからそうなる。

　もっと単純な形で、ペンの操作だけに特化して考えてみろ」

「はい……。やってみます。

　ですが、二人分の学費を払う余裕は……」

「それくらい、私が出してやる」

「良いんですか？」

「ただし、だ。

　そろそろ、義手義足の『次』を見せてもらうぞ」

「分かりました」

　クリスティーナはネフィリムと共に帰宅した。

　そして、ネフィリムを家に残し、工房へと戻ってきた。

　彼女の手には、図面ケースがさげられていた。

　彼女はケースから図面を取り出すと、イジューの机に広げた。

「これは……」

「これがボクが目指す究極の魔導器……。

　エクストラマキナです」

「……………………。

　なるべく分かりやすく解説してくれ」

「アッハイ」

　……。

　クリスティーナはわかりやすさを意識しながら、図面の内容を説明した。

　それでもまだ、凡人がオーバーヒートするくらいの難解さは有った。

　イジューはそれに振り落とされないように、彼女の話を噛み砕いていった。

「つまり、エクストラマキナとは、意思に従って動く鎧なのです」

「途方も無いな。これは。

　まるで神代の鉄巨人だ。

　本当に、こんな物が実現可能なのか？」

「やるしか無い。ボクはそう思っています。

　義足の力では、マリーを歩かせてあげることは出来ない。

　人は手足だけでは歩けませんから。

　このエクストラマキナだけが、ボクの希望なんです」

「……分かった。投資してやる」

「ありがとうございます！」

　……。

　エクストラマキナの開発が始まった。

　途方もない目標に向けて、工房の資金が投入されていった。

　それに文句を言われないだけの業績を、イジューは十分にあげていた。

　マリーは魔術学校の入学試験を受け、無事に合格した。

　ユリリカも復学した。

　マリーの世話役として、ネフィリムも学校に通うことになった。

　力加減が苦手なネフィリムは、学校で多少の騒動を起こした。

　クリスティーナは、義手義足の調整を続けた。

　少しずつ、前に進んでいった。

　そしてついに……。

「走った！　ネフィリムが走った！」

　公園。

　ネフィリムは姉妹の前で、見事に走ってみせた。

「あっ、こけた」

　マリーは眼前の光景を、端的に言葉にした。

「ネフィリム！？」

　クリスティーナは、慌ててネフィリムに駆け寄った。

「だいじょうぶかい！？」

「はいであります」

　ネフィリムは自力で平然と立ち上がった。

　そしてクリスティーナに向き直った。

「自分は……。

　本当に感謝しているのであります。ティーナさま」

　ネフィリムは微笑んだ

　そして……。

　……。

　ヨーク＝ブラッドロードの魔剣が、ネフィリムの胴を断った。

（イジューさま……。

　ティーナさま……ユリリカさま……マリーさま……。

　もうしわけ……ぁ）

　ネフィリムは地に堕ちた。

　頭蓋、胸郭、脊柱……。

　彼女に残されていた全ての骨が砕けた。

　そして苦しんで死んだ。