4の21「もっとパワーレベリング」



 二人は、ヨークおすすめの食堂に入った。



 注文をして少しすると、料理が運ばれてきた。



 ありふれた王国料理だった。



「良いお店ですね」



 クリーンが、店の内装を見て言った。



 高級店では無いが、さっぱりとして、清潔感が有った。



「そうか? まあ俺は気に入ってるけどな」



「……あの」



「ん?」



「私のこと、ちゃんと勝たせるのですよ?」



「まあ、ほどほどに頑張るわ」



 ヨークはやる気なさげにそう言った。



「むぅ……。


 私がイバちゃんに負けても


 良いのですか?」



「あいつか……」



 ヨークは、イーバの顔を思い浮かべた。



 直接的な因縁は無い。



 だが、嫌な奴だとは思っていた。



「汚い奴に負けるのは、嫌だな」



「でしょう?」



「じゃ、あいつだけ限定的に潰すわ。


 たとえおまえが聖女になれなくても


 徹底的に」



「素直に私を勝たせたら良いでしょう!?」



「え~? おまえの試練だろ?」



「それは……そうですけど」



「他力本願はいかんな?」



「その通りですけど、


 あなたに言われると、


 なんか腹立つのです。


 ……危なくなったら助けてくださいね?」



「そだな。


 ……ところで、バッタ頼む?」



「頼みませんけど!?」



 そのとき、ヨークのポケットから音が聞こえてきた。



「お」



「えっ? どうしたのです?」



「ちょっと黙ってろ」



「むぅ」



 ヨークはポケットに手を入れ、遠話箱を取り出した。



 そして、それを耳に当てた。



「ミツキか?」



 ヨークが箱に話しかけると、聞き慣れた声が返ってきた。



「はい。野暮用が終わったところです」



「別にトラブルとかじゃ無いんだな?」



「はい。それでヨーク。


 そろそろお昼ごはんの時間ですけど……」



「今食ってる。クリーンと」



「あっ、そうですか。それでは」



 ミツキとの遠話が途切れた。



「……切れた」



 ヨークはそう言って、クリーンの方を見た。



「なに一人でブツブツ話してるのですか? ついに脳が?」



 クリーンは、胡散臭そうにヨークを見た。



 リホ特製の遠話箱は、世間には出回っていない。



 世間知らずのクリーンが、その存在を知っているわけも無かった。



「魔導器だよ。ミツキから連絡」



「モフミちゃん? どうかしたのですか?」



「いや。別に。だいじょうぶだって」



「そうですか?」



 食事が終わった。



 二人は店を出て、宿に帰還した。



「ただいま~」



「ただいまなのです」



 二人が寝室に入ると、ミツキの姿が有った。



「んく。


 お帰りなさい」



 ミツキは作業台の椅子に座り、串焼きを食べていた。



 作業台の上に、紙袋が置かれていた。



 その中に、たくさんの串焼きが入っているのが見えた。



「量多くね?」



「別に多くないです。


 ……欲しいならあげますけど?」



「1本貰うわ」



 三人で、串焼きを食すことになった。




 ……。




 ヨークたちがクリーンの守護騎士になってから、2ヵ月が経過した。



 大神殿の教室。



 クリーンに対する、レディスの授業が終了した。



「よく頑張りましたね」



 レディスがクリーンに向かって言った。



「これで大神殿が定めた


 聖女候補教育課程は


 終了となります」



「本当ですか?」



「ええ。


 たった2ヶ月でやり遂げてしまうとは、


 大したものですね」



「ありがとうございます」



「もっとも。


 この程度で、


 淑女の道を極めたと思ってもらっては、


 困ります。


 あなたが望むなら、


 さらに高度な淑女としての教育を……」



「結構です」



 クリーンは即答した。



「そうですか。残念です。


 学んだことを


 錆び付かせないように、


 精進するのですよ?」



「はい。お世話になりました」



 一礼を済ませ、クリーンは教室を出た。



「終わったのです」



 クリーンは廊下に出ると、護衛のヨークたちに声をかけた。



「ああ」



 ヨークはクリーンに、短く答えた。



 彼女は次に、ニトロの部屋へと向かった。



「レディスさんの授業が終わったのですけど、


 これからどうすれば良いのでしょうか?」



 クリーンは、ニトロと向かい合い、聖女教育が終わったことを報告した。



 ヨークとミツキは、クリーンの後ろで、黙って話を聞いていた。



「好きなようにすれば良いよ」



「良いのですか?」



「あの教育は、


 私が推薦する聖女候補として、


 最低限恥ずかしくない教養を


 得るためのものだ。


 それをクリアした以上、キミは自由だ。


 さらに自分を磨くも良し、


 王都で思い出作りをするも良し、


 好きにすれば良いさ」



「思い出作りって……。


 落ちるって言われてるみたいで、


 良い気はしないのです」



「大勢居る聖女候補のうち、


 本当の聖女になれるのは、


 たった一人だ。


 キミは絶対に受かるだなんて、


 気休めは言ってあげられないな」



「……そうですか。


 どうしたら勝てるのでしょうか?」



「さあね。ただ……。


 力を持たない者が、


 聖女の試練を勝ち抜くことは無い。


 これは絶対の真理だ」



「力……。


 ありがとうございます。


 大神官様。


 私、がんばるのです」



「うん。がんばって」



 クリーンたちは、ニトロの部屋を出た。



 そしてそのまま、大神殿の外へと出た。



「あのあの」



 大神殿の正面口の近くで、クリーンはヨークに話しかけた。



「うん?」



「ラビュリントスに行きましょう」



「何しに?」



「決まっているでしょう?


 レベル上げです。レベル上げ。


 聖女になるには力が必要。


 力というのはレベルのことでしょう?」



「……そうなのでしょうか?」



 クリーンの言葉に対し、ミツキは疑問を呈した。



「ミツキ?」



「その……。


 聖女の役目は、


 迷宮をスキルで鎮めること。


 それと直接的な強さが、


 あまり関係が無いような気がして……」



 そんなミツキの疑問に対し、ヨークはこう言った。



「いや。クラスのレベルが上がると、


 スキルの効果も上がるけどな」



「そうなのですか?」



「ああ。ミツキのスキルは戦闘系じゃ無いからな。


 実感が無いんだろうが」



「なるほど……。


 私の考えすぎだったようですね。


 ごめんなさい」



「謝らんでも」



 次にクリーンが口を開いた。



「とにかく、レベルを上げるのが正解ということですよね?


 早く行きましょう」



「ん……。


 ミツキもそれで良いか?」



「構いません」



 三人は、迷宮の1層へと移動した。



 そこでヨークが口を開いた。



「それじゃ、64層まで行くか。


 ……氷狼」



 ヨークは魔剣を地面に向け、呪文を唱えた。



 ヨークの眼前に、氷狼が1頭出現した。



「乗ってけ」



 ヨークはクリーンに背中を向けた。



「……仕方ないのです」



 クリーンは、ヨークの方へ2歩あるいた。



「と見せかけて」



 クリーンは、突如向かう先を変えた。



 そして、ミツキの背に飛び乗った。



「あっ」



 急に飛びつかれて、ミツキが驚きの声を上げた。



「ふふん」



 ドヤァ……といった感じで、クリーンは笑った。



 そしてこう言った。



「馬鹿ですね。


 モフミちゃんが居るのに、


 あなたに乗るわけが無いでしょう?」



「まあ、ミツキが良いなら良いが」



「だいじょうぶです」



「そうか?」



 ヨークは氷狼に跳び乗った。



「んじゃ、出発」



 ヨークがそう言うと、クリーンは、それに合わせてこう言った。



「しんこ~う!」



 氷狼が、走り始めた。



 ミツキも疾走し、その後を追った。



 ほぼ全速だった。



 氷狼の足は、ミツキよりも少し速い。



 その分の加減はしてあった。



「うひゃああああああああぁぁぁぁっ!」



 クリーンは悲鳴を上げた。



 だが、これまでと比べると、楽しそうだった。



 三人はあっという間に、64層に到着した。



 そこは61層と同様に、雲の階層だった。



「降りてください」



 足を止めると、ミツキは背中のクリーンにそう言った。



「もうちょっとこのままで……」



「えい」



「ふぎゃっ!」



 ミツキにふり落とされ、クリーンは悲鳴を上げた。



「さて……」



 ヨークは指輪を操作し、EXPの結界を張った。



 そして呪文を唱えた。



「氷狼、10連」



 氷狼の群れが出現した。



「ほ~れ、狩ってこい」



 ヨークが命ずると、狼たちは、雲の通路を駆け去っていった。




 ……。




 10分後。



「ロイヤルハゲアタマフラッシュ。


 ワンパンチキルだ」



 ミツキが用意したシートの上で、ヨークたちはカードゲームに興じていた。



「トラップカード発動。育毛の誘いです。


 これで無毛族のロールは、全て無効となります」



「ぐお……」



 ヨークの攻撃が、完封された。



 カードゲームは、ミツキの勝利だった。



「ふっ。甘いですね。ヨーク」



「凄いのです。ヨークに勝つなんて」



 クリーンは、ヨークに全く勝てていない。



 彼女はミツキに、尊敬の眼差しを向けた。



「パーティの頭脳担当ですからね。一応」



「それじゃあ、ヨークがパワー担当でしょうか?」



「えっ?」



「えっ?」



「…………。


 どうも。イケメン担当です」



 ヨークがイケメンフェイスでそう言った。



「お尻に敷かれているのですね」



「それほどでもない」



 次にクリーンは、ミツキにこう言った。



「あの、私もヨークに勝てるようになりたいのです」



「後で、こっそり弱点をお教えしましょう」



「えっ? 止めて」



「あっ。レベルが63になってるのです」



「それじゃ、65層に行くか」



 ヨークはそう言って、カードを束ねた。



「はい」




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