『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

７の８「ミツキとコーゼン」

「ヨークどの～」

　ヨークたちに、ニンジャクロスを着た少年が話しかけてきた。

　緑色の狐耳としっぽの持ち主。

　サンゾウだった。

「サンゾウ。おまえも居たのか」

　ヨークは意外そうな顔を見せた。

　サンゾウと聖女の試練に接点が有るとは、まったく思っていなかったからだ。

「まったく奇遇でござるな」

　サンゾウも、ヨークがここに居ることを意外に思っているようだ。

　だがそれよりも、ヨークに出会えた嬉しさの方が勝つらしい。

　彼はふさふさの尻尾を左右に揺らしていた。

「守護騎士なのか？　誰の……」

　ヨークがサンゾウに質問しようとした時……。

「あなた。

　私のサンゾウに何か御用かしら？」

　イーバ＝マーガリートが、ヨークに声をかけてきた。

　第三種族のサンゾウに、悪さでもすると思っているのか。

　彼女はヨークに対し、厳しい視線を向けていた。

「…………」

　イーバの後ろには、神殿騎士のリドカインが控えていた。

　彼は職務を忠実にこなすべく、沈黙を保っていた。

　かつてミツキと戦った相手だが、ヨークの方にはそういう認識は無い。

　ヨークがリドカインに意識を向けることは無かった。

「イバちゃん」

　ヨークはクリーン流のやり方で、イーバの名前を口にした。

「誰がイバちゃんか」

　イーバはムッとした顔を作り、クリスティーナへと視線を移した。

「……その不審者は何なの？」

「不審者？　どこに居るんだい？」

　完全武装のクリスティーナは、ふしぎそうに周囲をきょろきょろと見回した。

「…………」

「…………」

　ヨークとイーバの間に、微妙な沈黙がただよった。

　それからクリスティーナを無視して、ヨークはサンゾウの方を見た。

「おまえ……」

「はい」

　ヨークの視線が、サンゾウの顔から首周りへと移った。

（首輪は無い……。奴隷にされたって感じでも無さそうだが）

「どうしてイーバの守護騎士なんてしてるんだ？」

「なんてって何よ？」

「こまけえな。

　……サンゾウ？」

　イーバからのクレームを聞き流し、ヨークはサンゾウの言葉を待った。

　すぐにサンゾウは口を開いた。

「実は拙者、イーバどのの食客となったのでござる」

「食客……。つまり、ヒモか」

「用心棒でござるよ！？

　まぁ……若干モフらせ屋としての業務が無いことも無いのでござるが……」

「どうしてそいつのヒモになったんだ？」

「飢えてふらついていた所を、彼女に保護されたでござる」

「飢えって……。

　飯くらいおごってやるのに」

「いつまでも、ヨークどのの世話になるわけにもいかんでござるからな」

「おまえの腕なら、稼ぐ方法なんていくらでも有ると思うんだがな」

「追い剥ぎでござるか？

　いくら人族どもが相手でも、それはちょっと……」

「いや、冒険者ギルドに行くとか色々有るだろ」

「冒険者……？　ナンデござるか？　それは」

「……そういや昔の人だったな」

　どうやらサンゾウたちが居た時代には、冒険者は存在しなかったらしい。

　ヨークたちからすれば、冒険者というのは、昔から有る職業に思える。

　だが実際は、それほど歴史が有るものでは無いのかもしれない。

「魔獣を倒して、冒険者ギルドって所に魔石を持っていくと、

　買い取って貰えるんだよ。

　それとギルドに入会すると、仕事を回してもらえたりもする」

「なんと。それは知らなかったのでござる」

「……一つ勉強になったな」

「かたじけない」

「それじゃ、試練がんばれよ」

「ヨークどのが相手では、少し厳しいでござるが……。

　誠心誠意、がんばらせていただくでござる」

「おう」

　話が終わると、サンゾウたちは去っていった。

　去り行くイーバを見ながら、ユリリカが口を開いた。

「あの人……マーガリートのお嬢様ですよね？」

「らしいな」

「ヨークさんって、公爵家にもお友だちが居るんですね」

「アレは敵だ」

「えっ？」

　ヨークたちは広間で、しばらくのあいだ待機した。

　やがて広間に、神官長が姿を見せた。

　神官長は、開会の挨拶を始めた。

　長い挨拶の後、第一の試練の内容が告げられた。

　前の運命と同様、第一の試練は筆記試験だった。

　聖女候補たちは、筆記試験の会場に移動した。

　ヨークたち守護騎士は、控え室に移動することになった。

　暇を持て余したヨークは、ミツキに近付いていった。

　ミツキはゆったりと、用意された椅子に座っていた。

　ヨークはミツキに声をかけた。

「なあ」

「はい」

「試験終了まで抜け出して、レベル上げでもしねえ？」

「いけませんよ。

　……券でも使いますか？」

「券？　何だそれ？」

「あ……」

　今回のミツキとヨークは、男女の関係では無い。

　そのために起きなかった出来事が、いくつも有った。

　日記に感情移入したミツキは、しばしばその事を忘れてしまう。

　ミツキはスキルで紙とペンを取り出し、そこに文字を書き込んだ。

「肩たたき券です。１００回使えます。どうぞ」

「太っ腹だな。どうした？」

「私はいつも太っ腹ですよ。

　いえ。太くは無いですけど」

「細っ腹か」

「並っ腹でお願いします。

　さて、ティキトを使いますか？」

「逆に俺が揉んでやろうか？」

「えっ？」

「遠慮すんな」

　ヨークはそう言うと、椅子の後ろへと回り込んだ。

「あっ……」

　ヨークの両手がミツキの肩に触れた。

　特に了解を取ることも無く、ヨークはミツキの肩を揉み始めた。

「んっ……あっ……」

　意外とうまいヨークのマッサージに、ミツキが声を漏らした。

「ブラッドロードさん！　破廉恥だよ！　破廉恥！」

　真っ白な全身鎧の変質者が、ヨークに人差し指を向けた。

「えぇ……？」

　ただ肩もみをしただけなのに。

　ヨークは釈然としない様子の声を漏らした。

　ひょんなこんなしている内に、第一の試練は終了した。

　聖女候補たちが、控え室へと移動してきた。

　ヨークとクリスティーナは、ユリリカと合流した。

　一行は、試験の手応えなどについて話しつつ、採点が終わるのを待った。

　やがて第一の試練の、結果発表の時がやってきた。

　ヨークたちは控え室から、最初の広間に移動した。

　そして……。

「ユリリカ＝サザーランドさん」

　無事にユリリカの名前が読み上げられた。

　前回の運命と同様に、ユリリカは第一の試練を突破したのだった。

「やった！　凄いぞユリリカ！」

　クリスティーナはユリリカの背中に手を回し、彼女を抱き上げた。

　そしてその場でぐるぐると回転した。

「ごほん」

　神官長のサニタが咳払いをすると、クリスティーナはユリリカを下ろした。

「うぅ……」

　自由になったユリリカは、恥ずかしそうに俯いた。

　やがて合格者の発表が終わった。

　合格者のメンツは、前の運命と変わりないようだった。

　大神官のバークスの案内で、ヨークたちは移動を始めた。

　それから転移陣を使い、第二試験の会場に転移した。

「この転移術……。それに、ここは……」

　次の試験会場に移動すると、サンゾウは何かに気付いた様子を見せた。

「どうした？」

　いったい何事だろうか。

　そう思ったヨークが、小声でサンゾウに話しかけた。

「ここは……トルソーラの世界樹の中でござるな」

「そうなのか？」

「間違い無いのでござる」

「そうか」

　ヨークは迷宮の天井を見上げた。

（この上に、神ってのが居るのか……）

　それから大神官が、試練の説明を開始した。

　説明が終わると、試練のための腕輪が配られる段階になった。

　ヨークたちは、用意されたテーブルの前に列を作った。

　参加者たちは順番に、神官に腕輪をはめられていった。

「あの、次の方」

「はい」

　コーゼン神官が、ミツキに腕輪をはめた。

　そして……。

「この腕輪、なんだか変な感じがしますね」

　ミツキは皆に聞こえる声で、ハッキリとそう言った。

「不良品かもしれません。他の腕輪に交換してもらえますか？」

「あのですねえ」

　ミツキの言葉を受けて、コーゼンは呆れ顔を見せた。

　明らかに、ミツキの方に非が有る。

　そんな表情をしていた。

「試練で用いる腕輪は、

　厳重に品質管理が為されています。

　不良品など有るはずもございません」

「そうですか？

　では、万一この腕輪が不良品だった場合、

　どなたに責任を取っていただけるのでしょうか？」

「責任と言われましても……。

　起きるはずのない事には、責任が生じるはずも有りません」

「そうですか。

　……クリスティーナさん」

「何かな？」

　声をかけられたクリスティーナが、ミツキに近付いてきた。

「この腕輪の魔石に問題が無いか、見ていただけませんか？」

　そんなミツキの頼みに、クリスティーナは難色を示した。

「ここでかい？　顕微鏡が無いと難しいよ？」

「有りますよ」

　ミツキはスキルを使い、顕微鏡を取り出した。

「顕微鏡ならここに有ります」

「そう。分かったよ」

「あ、あの……そちらの方は？」

　動揺の色が混じった声音で、コーゼンがそう尋ねた。

　それに対し、ミツキは平坦に答えた。

「彼女はクリスティーナ＝サザーランド。

　かのドミニ工房で、設計技師を任されている天才ですよ」