3の5「ゴーレムとアイテムドロップ」





「随分と……リホさんのことを


 気に入ってるみたいですね」



 ミツキは無表情で言った。



「気に入ってるって言うか……。


 ああいう奴とつるんだ方が、


 ぜったい面白くなると思うんだよな」



「そういうのを、


 気に入ってると言うのではないですか?」



「いや……。


 俺たち二人の為にも、


 なると思うんだけどな」



「私たち?」



 ミツキの無表情が崩れた。



 素の若さが出てきた様子だった。



「前にさ、


 デレーナに言われたんだよな」



「…………?」



「迷宮に飽きないのかって、


 言われたんだ。


 その時は、飽きないって答えた。


 だけど……。


 迷宮には、ゴールが有るなって思ったんだ」



「…………」



「誰が迷宮を造ったのか、


 いつ造られたのか、


 俺たちは何も知らない。


 けど、建造物である以上、絶対に果てが有る。


 その果てに辿り着いた時、


 俺はどうするんだろうなって。


 けどさ、リホみたいな奴には、


 ゴールが無いだろ?


 良い物を作るって行為には、


 果てが無いんだ。


 だから、リホを仲間にすることでさ……。


 俺たち冒険者にも、


 果てが無くなるんじゃないかって、


 そう思った」



「……そこまで考えていたのですね」



「ああ。ミツキは考えたことないか?」



「無いですね」



 ミツキは、首を小さく左右に振った。



「そうか」



「もともと、


 私は冒険者になりたかったわけでも


 無いですからね。


 今この瞬間、


 ラビュリントスが無くなっても、


 私は困らないのだと思います」



「……そっか」



 迷宮に飽きたら、どうするのか。



 デレーナにそう問われた時、ヨークの口から出たのは、ミツキのことだった。



 別に、自分も困らないのかもしれない。



 たとえ、ラビュリントスが無くなっても。



 ヨークはそう考えた。



「ミツキは……。


 欲しいモンとかは、無いのか?」



「有りますよ。人並みには」



「ふ~ん……?」



(まあそうか)



「それじゃ、何が欲しい?」



「そうですね……。


 今はカメラが欲しいです」



「なんだよ。


 おまえもカメラ好きなんじゃねえか」



「ふふっ」



「二つ作ってもらうか。リホに」



「いえ。それは贅沢というものです。


 ヨークのカメラ、


 私にも使わせて下さいね?」



「おう。


 ところで……ここどこ?」



「71層です」



「マジかー」



「マジですー」



「道理で、尻が冷たいと思った」



 氷狼に長く座りすぎた。


 ヨークのお尻はひんやりとしていた。



「ズルをするからです」



「正攻法ですが、なにか?」



「フフ。


 ねえ、簡単でしょう?」



「うん?」



 ヨークは首を傾げた。


 何を問われたのか、分からなかった。



「ヨークなら、


 70層くらい簡単なんです」



「いや。迷子にビビって


 全力疾走してただけなんだが」



「ヨークはいい年して、


 迷子が怖いんですねぇ」



「地図持ってる奴ァ


 言うことが違ェや」



「フフフフ。


 さあ、ヨーク。


 メタルゴーレム系の魔獣を


 探しましょう」



「『系』ってことは、色々居るんだよな?


 どれを狩るんだ?」



「狙った相手に


 出会えるとも限りません。


 出会った端からミンチにしていけば、


 良いと思います」



「フレッシュだな」



「ハックアンドフレッシュです。


 迷宮における


 最も知性的な攻略法です」



「知性を最大限、発揮させるか」



「そうしましょう。


 インテリゲンチャですからね。


 我々は」



「うむ。テクノクラートでもある」



「然り」



 ……71層。



 鉱石の地層。



 2人はメタルゴーレムを探して散策した。



 歩きながら、ヨークは壁を見た。



 岩壁に、それらしい石が生えているのが見える。



「その辺に生えてるやつ、


 魔導器に使えないのか?」



「使えるかもしれませんけど……。


 それらの鉱石が、


 どの程度の物なのか、


 素人には判別がつきませんからね。


 ドロップアイテムであれば、


 落とした魔獣から判断が出来ますから」



「素直にゴーレム探すか」



「はい。素直が1番です」



 2人は散策を続けた。



 やがて、それらしい魔獣を発見した。



「居たな……」



__________________________



ブルーゴーレム レベル69 弱点 雷


__________________________




 ヨークたちの前方に、青色のゴーレムが立っていた。



 身長は3メートルを超える。



 体表は金属質。



 人のように四肢が有り、直立している。



 だが、がっしりとした幅広の体格は、人とは似ても似つかなかった。



 顔も目も有るが、人の容貌とはかけ離れていた。



「…………」



 ゴーレムも、ヨークたちの存在に気付いたようだ。



 ゆっくりと、ヨークたちへ向き直った。



 ヨークはゴーレムに、手のひらを向けた。



「『アイテムドロップ強化』」



 ヨークはスキル名を唱えた。



「さて……どうやって……」



 ヨークは頭の中で、対ゴーレムの戦術を組み立てようとした。



 未知の敵だ。



 慎重に立ち回るべきだろうか。



 そんなことを考えていた。



 だが……。



「…………」



 ミツキは真っ直ぐに、ゴーレムへと疾走した。



 大剣と共に、ゴーレムの正面に。



 そして、跳躍した。



 大上段からの一閃。



 ゴーレムは真っ二つに裂かれ、崩れ落ちた。



 倒されたゴーレムは光を放ち、消滅した。



「えっ……」



 ヨークが何かをする間も無く、戦いは終わってしまった。



 ヨークはミツキに歩み寄った。



「どうやら、


 ゴーレムは物理攻撃に弱いらしいな?」



「驚きの発見ですね」



「ドロップは?」



「見当たりませんね」



 ゴーレムが消えた場所に、ドロップアイテムは無かった。



 ただいつものように、魔石がぽつんと残されていた。



「やっぱり……そんなに良いスキルでも無いのかもな」



 そう言って、ヨークは自分の手のひらを見た。



「落ち込まないで下さい。


 ほら、魔石ですよ。


 ツヤツヤしてる」



 ミツキは魔石を拾い上げ、ヨークに見せた。



「深層の魔石なら、高く売れるよな?」



「はい。色も良いですし」



 魔石の価格は、それを落とした魔獣の強さに、ほぼ比例する。



 深層で得られた魔石が、安いわけが無かった。



「最悪の場合、


 ゴーレムの魔石を売りまくって、


 金属に替えるか」



「まだ、諦めるには早いですよ」



「そだな」



 二人は探索を再開した。



 すぐにゴーレムを発見した。



 先程とは別の、白銀のゴーレムだった。




__________________________



ライトゴーレム レベル71 弱点 闇


__________________________





「『アイテムドロップ強化』」



「…………」



 ヨークがスキル名を唱えると、ミツキは前に出ようとした。



「ミツキ。ステイ。ミツキ」



 ヨークはミツキを呼び止めた。



 ミツキはヨークの方へ振り向いた。



「ヨーク?」



「俺も戦ってみたい」



 ヨークはそう言った。



 そして、魔剣の柄に手をかけた。



「ついに、ヨークの中に眠る、


 農耕民族の血が……!」



「クックック……耕しまくってやるぜ……!


 まあ、俺は畑とか、


 あんまりやったこと無いんだけどな」



「村民の面汚しが」



「えっ?


 村民は全員農民……とか思ってません?」



「そんなことはありますん」



「とにかく、俺は自警団だったんだよ」



「はぁ」



「そういうわけで、


 狩猟民族の魂を見せてやる」



「どうぞどうぞ」



 ミツキはヨークの後ろに下がった。



 ヨークは魔剣を抜刀した。



 そのまま前方に駆け、ゴーレムに斬りかかった。



 だが、魔剣はゴーレムの体に弾かれてしまった。



「硬っ!?」



 ヨークはミツキへと振り返った。



 ゴーレムを真っ二つにした女へ。



「超硬い」



「見て分かりません?」



「分かるけど? 分かるけどさあ」



 ヨークの表情は、なにやら納得がいっていない様子だった。



「何か?」



「お前どんだけ馬鹿力なん……」



「ステイ。ヨーク。ステイ。


 ……私をこんな体にしたのは、


 アナタなんですからね?」



「そうだけど人聞き悪いな?


 その通りだけど」



「…………」



 2人の漫才を待つゴーレムでは無かった。



 ゴーレムはヨークに殴りかかった。



 予告無く、真っ直ぐに。



「のわっ!?」



 攻撃に気付いたヨークは、慌てて横に跳んだ。



 重い拳が、ヨークの傍をかすめていった。



 風のうねりが、ヨークの鼓膜を揺らした。



 速かった。



 鈍重そうな外見には似合わない。



 なんとか無傷で済んだが、危ないところだった。



 攻撃を回避したヨークは、ゴーレムから距離を取った。



「私が始末しましょうか?」



「やるよ。おんぶだっこじゃ気色悪いし」



 ヨークは魔剣をゴーレムに向けた。



 そして呪文を唱えた。



「呪壊」



 ゴーレムは、黒い靄に包まれた。



 それで終いだった。



 ゴーレムは動きを止め、砂状になって崩壊していった。



 余波すら無い、完璧な滅びがそこには有った。



「すご……」



「え?」



「いえ。


 ヨークもやれば出来るじゃないですか」



「俺の方がレベル上だからな? ちょっとだけ」



「腕相撲します?」



「止めとく……」



「そうですか? あっ……」



 ミツキは、何かに気付いた様子を見せた。



 そして、ゴーレムが居た所へ、歩いた。



「これ……」



 ミツキは何かを拾いあげ、ヨークに見せた。



 ヨークの目に、金属製の、複雑な形をした物体が映った。



「まさか……ドロップアイテムか?」



「はい」



 ヨークの問いに、ミツキは大きく頷いた。



「それか、誰かの落し物かもしれませんが」



「こういうコトワザが有る」



「はぁ」



「迷宮で、拾った物は、俺の物」



「良いコトワザですね」



「うむ」



「まあ、これはドロップアイテムだと思いますけど」



「リホに見てもらうか」



「そうですね」



 ミツキはスキルで金属を『収納』した。



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