4の1の3「深層とそこで告げたこと」




「あれ以上の強さの武器を作るには、


 素材が足りねえ。


 滅多に市場に出回らないような、


 深層の素材が無いと、


 ハイレベルな武器は作れねえ。


 けど……。


 ボウズたちはどうやってか、


 希少金属を


 手に入れられるルートを持ってる。


 ……そうだろう?」



「はい」



「大剣を作れるだけの、


 材料を持ってきてくれりゃ、


 なんとかしてみせるぜ」



「分かりました。


 すぐに迷宮に行きましょう。ヨーク」



「分かった」



 ミツキは足早に、武器屋を出ていった。



 ローブの下で、尻尾が力強く、揺れていた。



 ヨークも、すぐ後に続いた。



 エボンは二人を見送った。



 去りゆく二人の背中を見て、彼はこう考えた。



(なんかあの二人、距離が近くなったな)




 ……。




 ヨークたちは、迷宮に入った。



 まずは、今朝見つけた魔弾銃らしきモノを、テストしてみることにした。



 ヨークは1層で、大ネズミに対して、銃のトリガーを引いた。



 爆炎が放たれた。



 大ネズミは、爆炎に飲まれて死んだ。



 見た目通り、ただの魔弾銃のようだった。



 変わった機能などは、特に存在しないらしい。



 威力はそれなりだった。



「リホの作品か? これが」



「物足りない感じですね」



 リホは天才だ。



 少なくとも、ヨークとミツキはそう信じている。



 彼女が、こんな平凡な銃を作るとは、思えなかった。



 おそらくコレは、リホの作品では無い。



 普通に店に売っているような、量産品の魔弾銃では無かろうか。



 ヨークもミツキも、そう考えざるをえなかった。



「サプライズプレゼントって感じじゃ……ねえな」



 凡庸すぎて、ヨークたちの戦力にはならない。



 リホだって、ヨークの強さは知っているはずだ。



 リホがこれをヨークに送る理由が、見当たらなかった。



 ならばどうして、このような物が、寝室に落ちていたのか。



(やっぱり、あの赤い女が、置いていったのか?)



 ヨークはそう考えた。



(前も、


 覚えのない杖とポーションが、


 家に落ちてたことがあったな)



 ヨークは、村を出る前のことを、思い出した。



 魔術師になりたいと願ったら、都合よく杖が手に入った。



 ご丁寧に、オマケのポーションまで置いてあった。



 杖を置いていったのは誰なのか。



 結局、未だに分かってはいない。



(まさかアレも?


 アレも、あの赤い女がやったのか?


 けど、だとしたら、誰なんだよアイツは。


 俺に武器を渡して、


 誰に何の得が有るんだ?)



「……まあ良い」



 考えても、結論は出そうに無い。



 ヨークは思考を打ち切った。



 そして、ミツキに銃を渡し、スキルで『収納』させた。



「深層に行くか」



「はい。金属です」



 二人は迷宮の深層へと、潜っていった。



__________________________



ダークゴーレム レベル73 弱点 光


__________________________




 迷宮の、72層。



 ヨークとミツキは、黒いゴーレムと対峙した。



ヨーク

「『アイテムドロップ強化』」



 ヨークはゴーレムに、自身のスキルを使用した。



 直後……。



「はあっ!」



 ミツキの跳び蹴りが、ゴーレムの頭部を蹴り砕いた。



 ゴーレムは倒れ、消滅していった。



 後には魔石と、金属塊が残された。



「ゴリラパワーやばない?」



 ヨークはミツキに歩み寄って、言った。



「オオカミパワーです」



「武器とか要る?」



「要ります。


 ……黒蜘蛛には、


 結局勝てませんでしたし。


 武器が強ければ、


 あんな無様を晒すことは無かった。


 そう思います」



「まあ……そうか」



 ミツキはドロップアイテムを拾い上げた。



 そして金属塊を、ヨークに見せた。



「この、ダークゴーレムが落とす金属は、良いですよ。


 ずっしりと、重量感が有ります。


 きっと、良い剣が出来ますよ」



「重い方が良いのか?」



「そうですね。


 手応えが有った方が、


 落ち着きます。


 あまり軽いと、逆に不安ですね」



「知性派の俺には分かんねえな。その感覚」



「6783かける372は?」



「いきなりリアルを見せてくるのは、やめろ」



「ドンマイヨーク。


 数学的な才能だけが、


 人の知性というわけではありませんよ」



「ドーモ。


 ……それにしてもさ」



「はい」



「俺たちさ、ラビュリントスを、踏破しちまうかもな」



「そうかもしれませんね」



「深層には、


 選ばれし者しか到達出来ない。


 そう言われています。


 私たちは今、その深層を、


 素手で攻略しています」



「素手なのは、おまえだけだが」



「没収」



「あっ」



 ミツキはヨークの魔剣を奪い、スキルで『収納』しようとした。



「あれ?」



 魔剣を持ったまま、ミツキの動きが止まった。



「どうした?」



「『収納』できませんね」



「なら返してくれ」



「嫌です。


 ……私たちは今、


 深層を、素手で攻略しています」



「そっすね」



「歴代冒険者の、


 最高到達階層を、


 更新することになるのも、


 遠くは無いでしょう」



「そっすね。


 ……ちなみに、最高到達階層ってのは?」



「昨年、迷宮伯のパーティが、


 98層に到達したそうです」



「デレーナか」



「具体的なメンバーは、


 手引きには記されていませんでした」



「また手引きっスか」



「はい。手引きっス」



「まあ、書いてなくてもデレーナだろう。


 ……あいつの剣は、綺麗だからな」



「はぁ」



 ミツキは少し、冷めた顔になった。



「ラビュリントスってのは、


 何層まで有ると思う?」



「諸説有りますが」



「たとえば?」



「99層とか、100層とかですね」



「ふ~ん?


 デレーナのやつ、その手前で止めちまったのか」



 力量の問題で、攻略出来なかった可能性も有る。



 だが、デレーナの剣を見たヨークには、とてもそうだとは思えなかった。



 魔獣以外の何かが、彼女に剣を捨てさせた。



 ヨークはそう確信していた。



 本人の言葉を信じるなら、キラキラした王子さまのためだが……。



「そんなに、キラキラしてるのが良いのかね」



 ヨークは釈然としない様子で言った。



「キラキラ?」



「いや……。


 迷宮の1番奥には、何が有ると思う?」



「諸説ありますね。


 宝が有ると言う人が居れば、


 邪竜が封じられているという人も居ます」



「説て。


 おまえ自身は、何が有ると思うんだよ?」



「さあ。


 良い物が有ると良いですね」



「ふっ。そりゃそうだ」



「馬鹿にしましたか?」



「いや?」



「ヨークは何が有ると思うんですか。言いなさい」



「言っちゃって良いか?」



「何をもったいぶっているのですか」



「ミツキ。お手」



 ヨークはミツキに、手を差し出した。



「わう?」



 ミツキは差し出された手に、自分の手を重ねた。



「何なのですか?」



 ミツキがそう尋ねた、その直後。



「……っ!」 



 ヨークはミツキの手を握った。



 そして、ぐいと彼女を抱き寄せた。



 ヨークはぎゅっと、ミツキを抱きしめた。



「……………………」



 ミツキは幸せになり、動けなくなってしまった。



 ヨークの腕の中を堪能すると、ミツキは口を開いた。



「往来では、良くないと思いますが」



「往来て。深層だぞ。ここは」



「そうですけど。


 ……というか、ごまかしていませんか?


 あなたの考えを、聞いていません。


 人の考えを馬鹿にしておいて、


 自分だけチキるのは感心しませんよ」



「繊細なんだ。俺は」



「言わないと、唐揚げにしますよ」



「分かった。言うぞ」



「はい。ちょっとしか馬鹿にしませんから」



「……頼むから止めてくれ」



「往生際が悪いですよ。はやくはやく」



「ミツキ……。俺はな。


 深層に、指輪でも有れば良いと思う」



「魔導器ですか?」



「別に普通の指輪で良い。


 それで……。


 おまえの指にはめて、


 こう言う。


 ミツキ。俺と結婚して欲しい」




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