6の15「魔弾と大穴」
「思い切ったことをしましたね。ソロで魔術師だなんて」
ミツキが口を開いた。
ネフィリムは、ニンジャから魔術師へとクラスチェンジを遂げていた。
ネフィリムの希望ではなく、ヨークの采配だ。
クラスチェンジのための費用も、全てヨークが出した。
かさむ出費にネフィリムは怯えを見せていたが、必要経費だと言い聞かせた。
「魔術師の一番の欠点って、
敵の攻撃に無防備なことなんだよな。
けど、ネフィリムは脚力は有るみたいだから、行けるかなと思って。
武器で戦わない方が、手足に負担がかからないしな」
「理に適っていると思います。
ですが、途中で脚が取れたりしないか、心配になりますね」
「う~ん……。
滅多に外れるもんじゃ無いらしいんだが、
1回外れるのを見ちまうとなあ」
魔術師は脆い。
もし脚が外れれば、簡単に致命の一撃を受けてしまうだろう。
そんな彼女を独り立ちさせることができるのか。
ヨークにはそれが不安だった。
「ティーナに相談してみるか」
「……ティーナ?」
「うん?」
「いえ。
次の獲物を探しましょうか」
……。
エボンに発注したフレームの、完成予定日になった。
ヨークはリホを連れて、武器屋を訪ねることに決めた。
朝の寝室で、ヨークは身支度を終えた。
そしてリホに声をかけた。
「魔石は持ったな?」
「ういういっス」
「良し。行くか」
ヨークは部屋の出口に足を向けた。
そのとき……。
「待って下さい」
ミツキがヨークを呼び止めた。
「どうした?」
「ちょっとお化粧のノリが悪くて……」
「えっ? ふだん化粧とかしてないだろ?」
「実はしてるんです」
「えぇ……」
「はぁ。ヨークはよっぽど早く行きたいようですねぇ」
ミツキはニヤリとした笑顔を、ヨークへと向けた。
「そんなに魔導器が楽しみなんですね?
ワクワクが止まらないと」
「……悪いかよ」
子供扱いされた気がして、ヨークはミツキから顔を逸らした。
「いえいえ。
ふふっ。お可愛いこと」
「リホ。こいつ置いてくぞ」
「えっ?」
ヨークは足早に部屋を出た。
すると廊下に、バジルの姿が有った。
「よう」
「よう」
バジルの挨拶に対し、ヨークは同じ言葉で返した。
「…………」
バジルはそのまま黙った。
何か言いたげなバジルを見て、ヨークは少し待った。
だが、なかなか口を開かないので、焦れてこう尋ねた。
「用が有るんじゃねえのかよ」
「……魔弾銃が出来たらしいな?」
「そのはずだけど」
「後で……俺にも貸せよ」
バジルはそれだけ言うと、自分の部屋に戻っていった。
「ワクワクが止まらないのかよ……」
ヨークたちは宿を出た。
すると外に、クリスティーナの姿が有った。
「やあ」
クリスティーナが挨拶してきた。
「やあ」
「やあ」
ミツキとヨークが挨拶を返した。
「何スか? 暇なんスか?」
リホが眉をひそめて尋ねた。
「ボクは優秀だから、一日中働かなくても良いんだよ」
「つまり暇なんスね」
「…………。
ボクの記憶が正しければ、
今日は魔弾銃が完成する日だったね?
どれほどの物か、拝見させてもらおうじゃないか」
「図面、見たっスよね?」
「図面と実物は、また別物なんだよ」
「つまり、ワクワクが止まらないということか」
ヨークが納得した様子を見せた。
「うん?」
ヨークたちはクリスティーナを加えて、武器屋への道を歩いていった。
クリスティーナは楽しげに、ヨークに話しかけてきた。
「それでね、マリーがだいぶ歩けるようになってきたんだ」
「良かったな」
「うん。良かったんだ」
ニコニコとしたクリスティーナを伴い、ヨークたちは武器屋に到着した。
店に入ると、エボンが腕を組んで立っているのが見えた。
「お邪魔します」
ミツキはぺこりと頭を下げた。
「……来たか。
待ってたぜ。ボウズ。嬢ちゃん」
話をすると、フレームの部品は、既にできあがっていることが分かった。
それでヨークたちが見ている前で、フレームを組み立ててもらうことになった。
「ギュイーン。
ゴゴゴゴゴ。
ガチャッ」
「……気が散るんだが」
謎の奇声を上げるヨークをエボンが睨んだ。
「ワクワクが止まらないんだ」
ヨークの妨害を乗り越え、エボンはフレームを組み上げた。
最後に魔石を組み込み、魔弾銃は無事に完成した。
武器を手にしたリホは、ヨークたちと共に、迷宮へと向かった。
「へぇ……。迷宮っていうのはこうなってるんだね」
迷宮の第1層。
クリスティーナが、壁や天井を見回しながら言った。
そんな彼女を、リホは鬱陶しそうに見た。
「どういう風の吹き回しっスか? おまえが迷宮に来るなんて」
「キミの魔弾銃の挙動も見ておきたいし……。
それにここは、ネフィリムの職場でもあるからね」
「きたねー職場っスね」
「失敬な。ネフィリムの職場は汚くなんてない」
「そうっスか」
そのときヨークが口を開いた。
「それで、どう使うんだ? 魔弾銃ってのは」
「簡単だよ。銃口を敵に向けて、トリガーを引くだけさ」
「するとどうなるんだ?」
「どうって……。
ブラッドロードさんは凄い冒険者なのに、
そんなことも知らないの?」
「田舎モノなんでな」
「これが有れば、誰でも攻撃呪文を放つことが出来るっス」
「凄いな。っていうか、アレ?
それが有れば、魔術師とかこの世に必要無くない?」
「いいや。
魔弾銃は、素材にした魔石の出力以上の火力は出せないからね。
さすがに高レベルの魔術師には敵わないよ」
「ふ~ん。
それじゃあ使ってみてくれよ。魔弾銃」
「了解っス。それじゃ、スライム相手に試し撃ちするっス」
「スライムは……」
ミツキは日記にのっていた悲劇を思い出し、声を漏らした。
「なんスか?」
「いえ。なんでもありませんでした」
自分たちは既に、スライムによるレベル上げを卒業している。
いまさらスライムが絶滅しても、特に問題は無いだろう。
そう気付いたミツキは、話をごまかすことにした。
一行はスライム部屋を目指し、迷宮を進んだ。
その途中で、大鼠と遭遇した。
「あっ! 敵! 敵だよ! ブラッドロードさん!」
クリスティーナは興奮した様子で、大鼠を指さした。
「慌てんな。俺たちが守ってやる」
ヨークはそう言うと、クリスティーナの前に立った。
「っ……うん……」
「リホ。撃て」
「了解っス!」
リホは大鼠に、魔弾銃の照準を合わせた。
そして引き金を引いた。
そのとき……。
魔弾銃から、巨大な炎の渦が放たれた。
「えっ?」
ミツキが呆けたような声を漏らした。
炎は一瞬で、大鼠を蒸発させた。
そしてさらに、周囲の壁や天井を爆砕しながら、迷宮を突き進んでいった。
渦は迷宮の壁に突き刺さり、そして……。
「ええっ!?」
クリスティーナが、大声で驚いて見せた。
「ふぇ?」
リホは何が起きたのかわかっていない様子だった。
「は……?」
ヨークは顔をしかめてみせた。
やがて炎は消えた。
迷宮の壁に、深い深い横穴が出現していた。
炎は、奥が見通せないほどに深く、迷宮の壁を抉っていた。
迷宮は頑丈だ。
並の魔弾銃では、100万発撃ち込んでも、こうはならないだろう。
見るも無惨なありさまだが、迷宮には、自己再生機能が有る。
大穴は少しずつ、修復されていった。
「……………………????????」
ミツキの頭の上で、特大の疑問符がグルグルと回った。
「……どういうことだ?」
ヨークも疑問を浮かべた。
「そんなのボクが聞きたいよ!」
クリスティーナが怒ったような声で言った。
「こんなの……神話に出てくる神の兵器じゃないか……!」
「ひょっとして……」
リホが口を開いた。
それでミツキがリホにこう尋ねた。
「何か心当たりが?」
「ウチが天才すぎるせいで、無意識のうちに
とんでもない物を発明してしまったっスか?」
「ソウデスネ」
ヨークは棒読みでリホに同意した。
そしてこう続けた。
「魔弾銃は、高レベルの魔術師には、かなわないっていう話だったよな?
けど、今のは俺が全力で放った呪文と、同じくらいの威力が有った」
「えっ? アレ撃てるんスか?」
「撃てるけど、問題はそこじゃなくて……」
ヨークは話の筋を引き戻そうとした。
だがクリスティーナが口を開き、さらに話が遮られた。
「いやいや。それも問題だと思うけど。
ブラッドロードさんは人間だよね?」
「……?
ご主人様はかみさまですよ?」
ミツキは目をグルグルさせながら言った。
「いきなり何言ってんの?」
妙な様子のミツキを見て、ヨークは顔をしかめた。
「さっきのショックで頭おかしくなってるっス」
「それより、結局何がどうなってんだよ」
「あっ、分かりました」
そう言ったミツキの表情は、おそらくは正気に戻っていた。
「ミツキ。頭だいじょうぶっスか?」
「失礼ですね。私は正常です」
「それで? 正常に考えると、何がどうなるんだよ?」
「おそらくは、ヨークのレベルが原因なのだと思われます」
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