4の42の2「巨人と1つの結末」



 そう言うとリーンは、仮面を元に戻した。



 そして仮面を持っていた手を、巨人へと向けた。



「我を舐めるか!」



 巨人の手から、炎弾が放たれた。



 炎弾はリーンへと向かった。



 巨人は間髪入れず、ミツキにも炎弾を放った。



「…………」



 リーンは無言で炎弾を消滅させた。



 一方のミツキには、そんな力は無い。



 当然、避ける必要が有った。



「っ……!」



 連続して放たれる炎弾を前に、ミツキは疾走した。



 地面に着弾した炎弾が、爆風を発生させた。



 爆風が、ミツキのフードをめくり上げた。



「月狼族! 哀れな生き残りかッ!」



「別に哀れじゃありませんが!?」



 ミツキは巨人に駆け寄った。



 そして、飛び上がった。



 巨人の肩を狙い、大剣を振り下ろそうとした。



「くっ!?」



 うめき声を上げたのは、攻撃をしかけたミツキの側だった。



 刃の前に、障壁が発生していた。



 大剣ごとミツキは弾かれた。



 墜落しそうになるミツキを、ヨークが受け止めた。



 腕の感触を楽しんでいる余裕は無い。



 ミツキは素早くヨークの腕から下りた。



「だいじょうぶか?」



「申し訳ありません。


 しかし……いったい何が……」



「見えない壁に、弾かれた感じだな。


 黒蜘蛛が使ってた魔導器に似てる」



「リホさんが作ったというアレですか。


 どうしたら……」



「ニトロさんが、


 俺に託したこの剣……。


 コレに意味が無いとは思えない。


 ……試してみるさ」



 かつて黒蜘蛛の障壁を、裂いたモノが有った。



 リホが作ったナイフだ。



 あれは魔剣と同じ、赤い刃をしていた。



 今ヨークの手中には、赤い剣が有る。



 ニトロから託された物だ。



 この剣は、リホが作ったナイフと、同じ力を持っているのではないか。



 この剣であれば、巨人の障壁を斬り裂ける。



 ヨークは直感で、そう予想していた。



「俺が障壁をなんとかするから、追撃を頼む」



「はい」



「行くぞ。氷狼、3連」



 ヨークは呪文を唱えた。



 氷狼が、3体出現した。



 ヨークはそのうちの1体に飛び乗った。



 氷狼たちは、巨人へと突き進んだ。



 その少し後ろを、ミツキが追いかけた。



 氷狼の1体が、巨人へと飛びかかった。



 だが障壁に阻まれ、為す術無く砕けてしまった。



 氷狼は、残り2体となった。



 次にヨークが乗る氷狼が、巨人に向かって跳躍した。



 ヨークは正面から、巨人へと斬りかかった。



 巨人は大剣で、ヨークの魔剣を受け止めた。



「剣が切り札なのであろう! 聞こえておるわ!」



 ヨークと巨人とでは、パワーに差が有りすぎた。



 巨人の重量に負け、ヨークは氷狼から弾き落とされた。



「ハッ……!」



 地面に落下しながら、ヨークは笑った。



「これで良いんだよ」



 その笑みには、勝利の確信が見えた。



「ぬうっ……!?」



 巨人の足元を、狼が走り抜けた。



 剣を咥えた狼が。



 剣が、障壁を裂いた。



(こいつはただの魔剣だ)



 ヨークの手中に有るのは、フルーレから貰った方の魔剣だった。



 ニトロから貰った本命は、氷狼が持っていた。



 それが巨人の守りを破った。



 ヨークは剣先を、巨人へと向けた。



 そして唱えた。



「轟雷」



 ヨークの魔剣から、雷撃がガイザークへと向かった。



(この程度の呪文……!)



 巨人は剣で雷を、迎え撃とうとした。



 だが……。



(死ね)



 リーンの殺意に満ちた双眸が、巨人を射抜いていた。



(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)



 リーンの力が巨人を弱らせた。



 雷は巨人に直撃した。



「っ……!」



 全身を襲う痺れに、巨人は膝をついた。



「ミツキ!」



「はい!」



 ミツキが跳んだ。



 巨人の首の高さまで。



 ミツキから見て右から、横振りの一撃が、巨人の首を襲った。



 身を守る障壁は、既に無い。



 そして、ヨークの呪文が作り出した隙は、致命的だった。



 ミツキの剣が、巨人の薄皮に触れた。



 剣はそのまま直進した。



 そして走り抜けた。



 ミツキの剛力が、巨人の首を切断した。



 胴から分かたれた首が、重いつぶやきをはなった。



「小僧……この魂の波動……そうか……。


 遅かったな…………だが……。


 見事じゃ……」



 巨人の首が、地上に落ちた。



 首を失った巨体は、地面へと倒れこんだ。



 地響きが起き、やがて静まった。



 それっきり、巨人は動かなくなった。



「勝った……?」



「たった二人で、あの巨体を……」



 リドカインとサッツルが、順番に呟いた。



「…………」



 ニトロは無言でヨークを見ていた。



「あっ……」



 トトノールが声を漏らした。



 巨人の体が、青い光に包まれるのが見えた。



 光が消えたときそこには、小柄な少女が一人倒れていた。



 古風なドレスを着た、青髪青肌の少女が。



「…………!?」



 ヨークは驚き、思わず少女に駆け寄った。



 そして地面に膝をつき、その体を抱え上げた。



「…………………………………………」



 少女は息をしておらず、その鼓動も停止していた。



 絶命していた。



 ヨークとミツキが殺した。



 そういうことなのだろう。



「これは……?」



 ヨークは疑問の声を漏らした。



 それからニトロがヨークに歩み寄り、声をかけた。



「彼女があの邪悪なものの、正体だったようだね。


 離れた方が良い。


 死体とはいえ、あまり良い物では無いだろうから」



「……はい」



 ヨークは少女の体を、元の位置に戻した。



 そして立ち上がった。



「とにかく……私たちは勝った。


 王都は救われたんだ」



「やったな団長!」



 リドカインたちが、ニトロへと駆け寄ってきた。



「まったく。あなたは何もしていないでしょうに」



 嬉しそうなリドカインを見て、サッツルが呆れたように言った。



「良いじゃねえかよ。勝ったんだから!」



 そのとき……。



「良く成し遂げた」



 広大な空間に、男の声が響いた。



「誰だ……?」



 ヨークには、聞き覚えの無い声だった。



 その声は、若い生命力の充溢を感じさせた。



 だが同時に、老成された落ち着きも感じさせた。



 ヨークは周囲を見回したが、声の主は見えなかった。



「リーン」



 その声は、リーンの名前を呼んだ。



「……はい」



 リーンは、ヨークたちに手のひらを向けた。



 次の瞬間、ヨークの視界は一変した。



 上方には空が広がり、地面には木肌が走っていた。



 地面の果てからは枝が伸び、枝は葉をはやしていた。



 空は青かった。



 ヨークたちがダンジョンに潜ってから、時間はそれほど経過していないらしい。



「おお……!」



「素晴らしい……!」



 リドカインとトトノールが、感嘆の声を漏らした。



「転移した……?」



「ここは……?」



 ミツキとヨークは、怪しむように周囲を見た。



(大賢者とやらが居ないが……)



 この空間に転移したのは、六人だけだった。



 リーンだけが、この場にやって来ていない。



 ヨークはそのことに気がついた。



「ごきげんよう。邪神を討ち倒した勇者たちよ」



 さきほども聞こえた男の声が、ヨークの鼓膜を揺らした。



 若々しさが有るのに、なぜか重く響く。



 そんな声だった。



 ヨークは声の方を見た。



(また巨人……? 肌の色が違うが……)



 木の椅子に、巨人が腰かけていた。



 その身長は、さきほど倒した巨人と、ほぼ同じだった。



 同族……。



 そう言い切るには、両者は肌の色が、大きく異なっていた。



 さきほどの巨人の肌色は、青。



 眼前の巨人の肌は、人族と同じ色をしていた。



 ゴールデンパールカラーだ。



「ここは世界樹の頂上。余の棲み処だ。


 余はトルソーラ。


 この世界の神だ」



 ヨークたちは、神と対面していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る