『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

２の３「知らん野郎と真実の愛」

　白けた様子のヨークとは違い、フルーレは大マジメだった。

　フルーレは、ユーリに真意を問うた。

「婚約解消だと？

　何を言っている？

　私たちの婚約は、

　家同士が話し合って

　決められたものだ。

　個人の判断で、

　無くしたり出来るものでは無い」

「個人の判断などでは無い」

　ユーリはそう言い返した。

「……？

　それなら誰の判断だと……」

「私の父上、

　ギャブル＝マレル公爵も、

　婚約解消に

　同意して下さっている」

「マレル公爵が……！？

　どうしてだ？

　どうしていきなりこんな……」

「どうしてだと？」

　ユーリはせせら笑った。

「私がお前の『不貞』に

　気付いていないとでも思ったか？」

「不貞？」

　心当たりが無いらしく、フルーレは困惑の表情を浮かべた。

「おまえは、

　伯爵家の跡継ぎでありながら、

　婚約者以外の男と、

　淫らな行為に及んだ。

　貴族の淑女として、

　有るまじきことだ」

「私は不貞な行いなどしていない！」

「白を切るか。

　これを見ても、

　まだそんな事を言っていられるかな？」

　ユーリは、ポケットから紙束を取り出した。

　そして、それを無造作にばらまいた。

　紙束は『写真』だった。

　写真には、フルーレの淫らな様子が写されていた。

　さすがに陰部までは写されていなかったが、裸のフルーレが、男と絡み合っていた。

「……！？」

　傍観していたヨークが、ぎょっと目を見開いた。

「何だこれは……！？」

　写真を見たフルーレは、呆然と震えていた。

　彼女には、そのような行いは、まったく覚えが無かった。

　だが、写真で裸体を晒している女は、フルーレとそっくりだった。

　震えるフルーレを睨みながら、ユーリが言った。

「我が家の密偵が撮影した、

　不義の証だ」

「そんな馬鹿な……！」

　そのとき、デレーナがぼそりと呟いた。

「スキル……？」

　直後。

「止めろよ！」

　部外者のヨークが、ばらまかれた写真に駆け寄った。

　写真を拾い、束ねると、裏返して人に見えないようにした。

「何のつもりだ？」

　ユーリはヨークを見下して聞いた。

「こっちの台詞だ！」

　ヨークは怒鳴った。

　相手が偉い立場だろうが、知ったことでは無かった。

「女の子の裸の絵を、

　描いてばらまくとか、

　何考えてんだ！」

　ヨークは叱りつけるように言った。

「絵っ？」

　ユーリがぽかんとした様子で言った。

「絵っ？」

　少し遅れて、フルーレも同じ言葉を口にした。

「何だよ……？」

　場の空気が崩れたのを見て、ヨークが問うた。

「…………」

　ユーリは、頭痛に苦しむような顔をして言った。

「それは……私が描いた絵などでは無い」

「画家に描かせたのか？

　どっちにせよ変態だな！」

「違う！

　それは写真だ！

　見て分からないのか！？」

「写真……。

　って何だ？」

　ヨークは写真を知らなかった。

　この世界の写真は、最近になって出来たものだ。

　田舎にまでは普及していなかった。

　古書を読んでも、その存在は記されていない。

「…………」

「…………」

　ヨークの非常識っぷりを見て、ユーリとフルーレは固まってしまった。

　見ていても仕方がないと思い、デレーナが口を開いた。

「あなた、

　写真も知らないんですの？」

「悪いか？」

「ええ。とても」

　デレーナはざっくりと言った。

　それを見て、ヨークは一瞬固まってしまった。

「…………」

　それからヨークは、渋い顔をして尋ねた。

「何なんだよ。

　写真ってのは」

「ちょうどあそこに、

　記念撮影用のカメラが有りますわ。

　無知なあなたのために、

　実演してさしあげましょう」

「なんか分からんが、頼む」

　デレーナは、三脚上のカメラを取り外し、ヨークの前まで持ってきた。

「箱なんだな。

　カメラってのは」

「ええ。こちらを向いてくださる？」

「ああ」

　ヨークはデレーナが持つカメラを見た。

　デレーナは、カメラのボタンを押した。

　少し時間を置いて、カメラから上質の紙が出てきた。

「どうぞ」

「ん……」

　デレーナは、ヨークに写真を手渡した。

　写真には、ヨークの姿が写っていた。

「俺だ……！」

　ヨークは、初めて鏡を見た獣のような反応を見せた。

「納得して頂けましたかしら？」

「ああ。この写真ってやつ、

　貰って良いか？」

「どうぞ」

「ありがとう」

　ヨークは宝物をしまうかのように、写真をポケットに入れた。

「けど……」

　写真をしまい終えたヨークは、再び口を開いた。

「フルーレの奴、

　人に見られながら、

　あんなことしてたんだな……」

　ヨークの言葉に引っかかるところが有ったらしく、デレーナが疑問を口にした。

「人に見られながら……？」

　それを見て、フルーレが慌てた様子を見せた。

「な……！　何を言っている！？」

「そのカメラっていうのは、

　目の前の物を『写真』にすんだろ？

　さっきみたいな写真を作るなら、

　よっぽど近くに居ないと

　無理なんじゃねーの？」

　ヨークはカメラの全てを知っているわけでは無い。

　カメラに他の機能でも有れば、ヨークの言い分は、見当外れに終わっただろう。

　だが、この世界のカメラに、眼前の被写体を写真にする以上の機能は無かった。

「それは……」

　デレーナが、写真の束を拾い上げた。

　そして、束をめくって、写真の内容を注視していった。

「…………」

　そんなデレーナを見て、ユーリは体を強張らせた。

「…………」

　フルーレは真っ赤になって、顔を逸らしていた。

　やがてデレーナは、写真から顔を上げた。

　そしてユーリを睨みつけた。

「……ユーリ。

　これはどういうことですの？」

「……何がだ？」

　デレーナの問いに、ユーリは無表情で返した。

「この写真は、

　公爵家の密偵が撮影したもの。

　そうですわね？」

「……ああ」

「彼の言うとおり、

　撮影者と被写体の距離が、

　近すぎるように感じますわ」

「……それがどうした。

　我が公爵家の密偵は、優秀だ

　その写真を撮った者は……

　姿を隠すのに有利な、

　レアスキルでも持っていたのだろう」

「それでは、これは？」

　デレーナは、写真の１枚をユーリに突きつけた。

　当然だがその写真にも、あられもない女体が写し出されていた。

「お姉様！　あまり写真を見せびらかさないで下さい！」

　真っ赤になったままのフルーレが、強い口調でそう言った。

「胸を張っていなさいな。

　身に覚えが無いのでしょう？」

「ですが……」

　恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう。

　フルーレは、口をもごもごさせた。

　次にユーリが口を開いた。

「……その写真がどうした？」

「気付きませんの？

　それとも、気付いていて、

　わざと黙っているのかしら？

　たとえ、公爵家の密偵が、

　完全に気配を消せるような

　スキルを持っていたとして……

　このようなアングルには、

　お相手の殿方が、

　カメラを持たなくてはならない。

　そうでしょう？」

「それは……」

　密偵が、このような写真を撮影するのは不可能だ。

　ユーリの発言と写真の内容には、明らかなムジュンが生じていた。

　発言のムジュンを突かれ、ユーリは言葉に詰まった。

「ユーリ」

　デレーナの視線が、ユーリの瞳を貫いた。

　真実を白状しろ。

　彼女の目は、そう語っていた。

「ッ……！」

　ユーリは怯んだ様子を見せた。

　そして、それをごまかすかのように、早口で言った。

「……写真の全てを密偵が撮影したと、

　誰が言った！

　幾つかは『間男が撮影した物』が

　混じっている。

　密偵は、

　既に撮影された写真を、

　盗み出したに過ぎない！」

「そのような暴論が、

　通用すると思いまして？」

「現に写真には、

　裏切りの様子が

　写し出されているのだ。

　お前の口先如きで、

　無かったことに出来ると思うな！」

「続きは法廷で……。

　そういうことですのね？」

　デレーナはそう問うたが、ユーリの思惑は、それとは違っているらしかった。

「……裁判となると、

　時間がかかる。

　ここまで証拠が揃っているのに、

　先延ばしにされてたまるか。

　私は一刻も早く、

　彼女と添い遂げたいのだから……」

　ユーリは上体を回し、自身の後ろに視線を向けた。

　そこには、薄紫色の髪の少女が立っていた。

　少女は淡い色の、上品なドレスに身を包んでいた。

「ユーリ様……」

　その少女が、儚げに呟いた。

　守ってあげたくなるような女性。

　そんな雰囲気を体にまとわせていた。

　一方、ヨークの関心は、彼女には無かった。

（ん……？）

　少女、アヤの後ろで、猫耳メイドの奴隷が、悲しそうな顔で控えていた。

「…………」

（あの子も第３種族か……）

　どうして悲しそうな顔をしているのか。

　ヨークは問いかけたい気分になった。

　だが、ヨークが勝手に動けるような雰囲気では無かった。

「どういうことだ。ユーリ」

　フルーレが口を開いた。

　猫耳を眺めているヨークを置いて、彼女たちは話を進行させていた。

「私のことを

　糾弾しておきながら、

　自分には恋人が居たのか？」

「誤解してもらっては困る。

　アヤと私は、

　清い関係だ。

　彼女は心身共に美しく、

　婚約者の淫蕩に苦しむ私を、

　励ましてくれた。

　……体では無く、心で。

　そして、

　婚約解消が成った暁には、

　結婚しようと誓ったのだ。

　アヤは私の……運命の相手だ」

「…………」

　デレーナの視線が、アヤへと向けられた。

「アヤ＝クレイン。

　クレイン伯爵家の次女ですわね」

　パーティの主催者というだけあって、デレーナは、彼女の素性も把握しているらしい。

　デレーナの視線に刺されたアヤは、怯えたような仕草を見せた。

　アヤの代わりに、ユーリが口を開いた。

「そうだが……。

　それがどうした？」

「彼女は、

　クレインの跡継ぎでは無い。

　彼女と結婚しても、

　家を継ぐことは出来ない。

　プライドの高いあなたが、

　それで満足出来るんですの？」

「構わない。

　大切なモノの為なら」

「……そう。

　あなたのお姉様も、

　この事はご存知ですのね？」

「……ああ。知っている」

「それなら、

　これ以上言うことは

　ありませんわね。

　裁判を、

　楽しみにしておくと良いですわ」

「……言っているだろう。

　裁判などという、

　悠長なことはしない。

　私は一刻も早く、

　真実の愛を

　成就させなくてはならない。

　無駄に引き伸ばされて、

　たまるものか」

　ユーリは手袋を投げた。

　それは、フルーレの足元へと叩きつけられた。

「っ……！」

　目を見開いたフルーレに向かい、ユーリが言った。

「私と決闘しろ。

　フルーレ＝メイルブーケ」