『敵強化』スキルを笑われて幼馴染に置いていかれた俺のレベルが有頂天でおさまる所を知らないので、助けたケモミミ美少女奴隷とイチャイチャしながら迷宮の最深層目指すことにした＿神魂のニルヴァーナカクヨム版

４の１３「聖女候補と川流れ」

「えっ？

　今……なんと言いましたか？」

「ごめんなさい。

　声が小さかったでしょうか？」

　尋ね返されたのは、喋り方に問題が有ったのかもしれない。

　そう考えたクリーンは、再びクラスレベルを口にした。

「私はレベル４です。

　迷宮に入った時と変わらないのです」

「そんな……馬鹿な……」

　ケーンは顔をしかめた。

「ここは４０層だぞ……！？」

　普通なら、レベルを４から５にするのは、難しくない。

　レベル１０の魔獣を、１体倒せば良い。

　３人パーティであっても、十分にＥＸＰは足りる。

　ケーンたちは、それよりもさらに強い魔獣を、散々に倒してきた。

　戦いを避けず、４１層にまで来た。

　クリーンのレベルは、最低でも２桁は無いとおかしい。

　だがクリーンは、自身のレベルが上がっていないという。

（こいつ、嘘をついているのか？）

　ケーンは一瞬、そう考えた。

　だが、その動機までは思い浮かばなかった。

　それに今日は、妙に敵が弱く感じた。

　楽に４１層まで来られた。

　そのことを考えると、クリーンが嘘を言っているだけとも思えなかった。

「…………？」

　世間知らずのクリーンには、事態の異常さが分かっていない。

　のんびりとした顔で、護衛騎士たちの様子をうかがっていた。

　ケーンにはそれが、愚鈍さの表れに見えた。

　ケーンは軽く苛立った。

　そこへ、リナリが声をかけてきた。

「ねえ、やっぱり変よ。

　今日は何か、嫌な感じがする」

「……それがどうした。

　もう目的地は近いんだ。

　とっとと用事を済ませて、

　帰ればそれで良いだろ？」

「……分かった」

「あの、どうしたのですか？」

　小声で密談する二人を見て、クリーンがそう尋ねた。

「いえ。別に。

　聖女候補サマは心配なされずに」

「はい。頼りにしているのです」

「はい」

　三人は、先へと進んだ。

　やがて、４３層までたどり着いた。

　クリーンたちは、川沿いの道を歩いていた。

　三人の右側に、大きな川が流れていた。

　川の水は、三人の進行方向へと流れていた。

　道を歩いていると、三人の前に魔獣が現れた。

　青うおカエル。

　青い魚の体に、蛙の足を生やしたような魔獣だった。

「お下がりください」

　そう言って、リナリがクリーンの前に出た。

　そのとき……。

「はっ！」

　ケーンがクリーンに、背後から斬りかかった。

「えっ……！？」

　クリーンはレベル４だ。

　実に弱い。

　斬撃を防ぐ手段は無かった。

「ぁ……」

　クリーンの背中を、刃が通った。

　彼女は、うつ伏せに倒れた。

　ケーンはクリーンのそばでしゃがみ込んだ。

　そして彼女の首を掴み、持ち上げた。

　ケーンはクリーンを、川へと放り投げた。

　クリーンの体は宙へ浮き、川の中央へと着水した。

　重傷を負ったクリーンは、泳ぐことも出来ない。

　ただただ急流に流されていった。

　一方、リナリの剣が、眼前の魔獣をしとめることに成功した。

　青うおカエルは絶命し、魔石が地面へと落ちた。

　戦闘を終えたリナリは、流されていくクリーンに視線を向けた。

　川の流れのままに、クリーンは二人から遠ざかっていった。

　やがてケーンたちの視界から、クリーンの姿が消えた。

　川の流れゆく所には、滝が有るはずだった。

　ケーンはクリーンの死を確信した。

「楽な仕事だったな」

「そうね。

　……これで良かったのかしら？」

「いい子ぶるなよ。

　おまえも俺と同罪なんだ。

　共犯なんだからな」

「分かってるわよ。

　ただお金が欲しかっただけじゃあ無い。

　……気に食わなかったわ。

　ずっと神殿のために尽くして来たのに……。

　ただスキルを持ってないってだけで、

　新参の小娘に、

　頭を下げないといけないなんて。

　……けど、ああして流されていくのを見たら、

　やっぱり哀れに見えて」

「そう。哀れな女さ。

　教義がどうあれ、

　赤い肌の女が、

　聖女にふさわしいわけが無い。

　聖女の肌色は、

　ゴールデンパールであるべきだ。

　マーガリートのお嬢様の、言うとおりさ。

　……それを勘違いして、図々しく。

　哀れな奴は死ぬんだ」

「……そうね」

「大神官には、俺から話しておく。

　……裏切るなよ」

「……ええ」

　……。

「が……れ……。

　がん……ばれ……わ……たし……」

　……。

　ヨークたちは、迷宮の９２層に居た。

　９１層から先は、溶岩地帯になっていた。

　肌を焼くような熱気が、階層全体を満たしていた。

　常人では、立っていることすら辛い。

　過酷な環境だ。

　だが、ヨークたちは超人だ。

　耐えられない環境では無かった。

　一応、暑さ対策として、氷狼を周囲に配置していた。

「……出来ました」

　溶岩流に囲まれながら、ミツキは９２層のマッピングを終えた。

「これで

　この階層のマッピングも

　完成ですね」

「戻るか」

「はい」

　ヨークはミツキを抱きかかえた。

　氷狼に乗り、上を目指した。

　そして……。

「ヨーク！」

　４６層の移動中、ミツキが声を上げた。

　ミツキの声を受け、ヨークは氷狼を停止させた。

「あそこ……！」

　ミツキは川の方を指差した。

　川岸に、人が倒れているように見えた。

　ヨークは人影に駆け寄った。

　そして呼びかけた。

「おい……！　だいじょうぶか！？　しっかりしろ！」

「…………」

　人影の正体は、クリーン＝ノンシルドだった。

　多少の因縁も有る相手だが、今はそれどころでは無い。

　彼女はうつ伏せで倒れていた。

　クリーンの背中に、大きな切り傷が見えた。

　クリーンの体は、半分川につかっていた。

　ヨークは彼女を抱き寄せた。

　クリーンは、通路に引っ張り上げられた。

「ポーションだ！　飲め！」

　ヨークは、ポケットから出した高級ポーションを、クリーンの口に流し込んだ。

「ミツキ！　治癒術だ！　早く！」

「……はい！

　風癒！」

　ミツキは呪文を唱えた。

　癒しの風が、クリーンを包みこんだ。

　ミツキはさらに、クリーンの背中に触れた。

　痛々しい傷が、みるみると塞がっていった。

「助かるか？」

　治療が終わると、ヨークがミツキに尋ねた。

「わかりません。

　呪文も万能ではありませんから」

「どうしてこんなことに……」

「魔獣に襲われたにしては、

　傷が細すぎましたね。

　つまり……」

「う……」

　クリーンが、うめき声を上げた。

　そして目を開いた。

「目が覚めたか」

　無事で良かった。

　ヨークはそう思い、クリーンに声をかけた。

　だが……。

「あ……。

　あああああぁぁああぁあぁぁぁぁぁっ！」

　クリーンは絶叫した。

　恐慌状態だ。

　眼の前の相手が誰なのかも、分かっていない様子だった。

　クリーンは正気を失った目で、ヨークに掴みかかってきた。

「ヨーク……！」

　クリーンを、ヨークから引き剥がすべきか。

　ミツキはそう考えたが、ヨークがそれを止めた。

「だいじょうぶ。心配するな」

　ヨークはクリーンを抱きしめた。

「落ち着け。だいじょうぶだから」

「う……ふぐぅぅぅぅう！」

　狂乱したクリーンは、ヨークの首に噛み付いた。

　眼の前の敵を、殺すつもりだった。

　ヨークの首から、赤い血が流れた。

　ヨークはぐっと、皮を割かれる痛みに耐えた。

「だいじょうぶ。敵は居ない。何も怖く無いんだ」

「う……」

　クリーンの歯が、ヨークの首から離れた。

「うぅ……」

　クリーンの両目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

「うあああぁぁぁぁぁっ」

　クリーンは、ヨークの腕の中で大泣きした。

「よしよし。つらかったな」

　ヨークはクリーンの背中をさすった。

　クリーンは、しばらくの間泣き続けた。

　そして泣き疲れると、目を閉じて眠ってしまった。

「…………」

　ヨークはクリーンの体を、地面に横たえた。

「眠ったみたいだが……」

「峠は越えたように思えますが、どうしますか？」

「少し寝かせてやろうか」

「はい。

　……浄風」

　ミツキは呪文を唱え、クリーンの衣服を乾かした。

　そして、スキルで毛布を取り出し、クリーンにかけた。

　２人は３０分ほど、クリーンの様子を見守った。

　やがて、クリーンは目を覚ました。

「…………」

　目を開けたクリーンに、ヨークが声をかけた。

「落ち着いたか？」

「はい。ありがとうなのです……」

　クリーンは立ち上がり、ヨークの方を見た。

「あっ……！　あなたは……！」

　クリーンはそのとき初めて、そこに居るのがヨークたちだと気付いたらしい。

「よっ。久しぶりだな」

　ヨークは軽い笑みを浮かべてそう言った。

「あなたが私を助けてくれたのですか……？」

「いいや」

「えっ！？」

「俺は、こんなヤツ捨てていけって言ったんだがな。

　ミツキがどうしても助けるって言うから、

　仕方なく付き合ってやったんだ」

　ヨークは嘘をついた。

　かつて、敵意を向けられた相手だ。

　いまさら仲良く出来るとも思わなかった。

　ミツキに全部を押し付けるのが、楽だと思った。

「こいつに感謝するんだな」

「モフモフちゃん？」

「はい」

　ミツキは頷いた。

「…………」

　クリーンは、ミツキの前に歩いた。

　そして彼女を抱きしめた。

「…………」

　ミツキは黙ってされるがままになった。

「ありがとうなのです。あなたは命の恩人です」

　クリーンはミツキに触れたまま、ヨークを睨みつけた。

「それに引き換え、あなたは……」

「そう睨むなよ」

　ヨークはへらへらと笑った。

　こいつとは、敵のままで良い。

　そう思っていた。

「おまえなんか助けたって、

　こっちは一銭にもならねえんだぜ？

　見捨てたからって、

　文句言われる筋合いはねえよ」

「ッ……！　サイテーなのです……！」

「そうかよ」

　クリーンは、ヨークから視線を外し、再びミツキを見た。

「本当にありがとうございます。

　モフモフちゃん。

　このお礼は、いつか必ずするのです」

「お気になさらずに」

「それではさようならなのです。

　最低男さんも」

　そう言うと、クリーンはミツキから離れた。

　二人の前から去ろうとしたクリーンを、ヨークが呼び止めた。

「待て。一つ良いか？」

「何ですか？」

「何があったんだ？」

「……殺されかけたようです。

　それだけなのです」

「それだけって……」

（穏やかじゃねえな……）

「一緒に居た連中か？」

「知っているのですか？」

「上層で、１度おまえたちを見た。

　絡まれるのが嫌で、

　とっとと逃げさせてもらったがな」

「…………。

　あなたの言うとおりです。

　私を襲ったのは、

　一緒に居た神殿騎士です」

「どうして神殿騎士が

　おまえを襲う？

　おまえ、聖女って言ってた気がするが、

　仲間じゃなかったのか？」

「……聖女じゃないのです。

　聖女候補なのです」

「ふ～ん？　で？　理由は？」

「そうですね……。

　もしかしたら、

　私が化け物だからかもしれません」

「化け物？」

「人族に見えますか？　私は」

「他の何に見えるってんだよ」

「きちんと答えてください。

　私は……人族に見えますか？」

「見えるけど？」

「……そうですか。

　だけど……この王都には……

　私が人に見えない人たちが、

　大勢居るみたいなのです」