その1の2




 ヨークが去った後。



 花満開の木のそばには、4人の幼馴染が残された。



「バジル……」



 今まで黙っていた、ドスという少年が口を開いた。



 ヨークは背が高い方だが、ドスはそんな彼よりも、さらに長身だ。



 すらりとした体型だが、貧弱では無い。



 長い手足はしっかりと鍛えられていて、手も大きい。



 短髪の黒髪で、紫色の瞳をしていた。



 ドスは普段、あまり喋らない。



 黙ってヨークたちの後を、ついてくるような少年だった。



 ドスは人族だ。



 バジルもキュレーも、バニも同様だった。



 この村には魔族は居ない。



 ハーフなのも、ヨーク1人だった。



「何だよ?」



 バジルはドスを睨んだ。



 そして言った。



「お前らだって、


 こうするべきだって、納得してただろうが」



「そうだがな……。


 辛いぞ。あれは」



 ドスは、ヨークが去った方角を見て言った。



「ヌルいやり方して、


 無理やり着いてくるって言ってきたら、


 どうすンだよ。


 そうなったら、アイツの為にもなンねえ。


 あれくらい突き放してやった方が、


 向こうもハッキリ分かるってモンだ」



「…………」



 ドスは黙って、バジルの瞳を見た。



 バジルは瞳を逸らし、バニが立っていた場所を見た。



「それに、あいつのフォローならバニがやるだろ」



 いつの間にか、バニの姿は無くなっていた。



 ヨークを追ったのだろう。



 この場に残った3人は、同様にそう考えた。



「……あいつはヨークに甘い」



 バジルは言葉を続けた。



「血迷って、


 ヨークを連れて行くだとか、


 言い出さなきゃ良いが」



 それに対し、ドスはこう言った。



「俺たちにとって、


 王都の迷宮は、未知だ。


 これが友との、


 最後の別れになるかもしれんぞ」



「友って……何をむず痒いこと言ってンだよ」



「……そうか。


 …………。


 むず痒いか」




 ……。




「…………」



 ヨークは村外れで、孤独を味わっていた。



 彼は孤独が好きでは無い。



 だが今は、仲間たちのそばに居た方が、ずっと孤独を感じるだろう。



 そう考えれば、今の彼にとっては、これが最適なのかもしれなかった。



「ヨーク」



 ただぼんやりとしている所に、バニが声をかけてきた。



 ヨークが後をつけられたわけでは無い。



 狭い村とはいえ、それほど分かりやすい場所に居たわけでも無い。



 バニにはなんとなく、ヨークの居場所が分かる。



 何年も前から、そうなっていた。



「……何か用か?」



「別に……。


 らしくないじゃない。


 あれだけ言われて、何も言い返さないなんて」



「うるせえな」



 ヨークは露骨に、不機嫌な様子を見せた。



「何よ」



 敵意をぶつけられれば、バニも穏やかではいられない。



 彼女の表情が、少し固くなった。



 そんな彼女の様子を見て、ヨークの敵意が薄らいだ。



「……悪い。


 言い返せなかったんだよ。


 俺のスキルが何の役に立つか……俺でも分からなかった」



「それは、いきなり変なスキル貰ったら、誰だってそうでしょ」



「変なスキルか。


 そうだよな」



 自分のスキルは、バニですら庇うことはできないのだ。



 それほどに妙なスキルを、授かってしまった。



 ヨークはそれを再確認した。



「スキルがその人の、全てじゃないでしょ?」



「……そうかもな。


 けど結局は、


 お前も賛成なんだろ?


 俺を置いてくことに」



「…………」



 バニはヨークの言葉を、否定はしなかった。



「責めてるの?」



「責める権利が有るか?


 ただ俺が見限られた。


 それだけだ」



「権利とか……」



「良いから一人にしてくれ」



「拗ねてる」



「拗ねて悪いかよ。


 お前が俺の立場だったら、


 拗ねずにいられるのか?」



「そんなの……。


 ヨークは……どうするの?」



「村に残る。決まってるだろ?」



「目指さないんだ? 冒険者」



「嫌味か?」



「今日はどうしてそう……」



「そんなに変か?」



 笑われて、拗ねた。



 人間として普通のことをしている。



 ……違うのか?



「おかしいことをしてるか? 俺は」



「あなたは……普通のことを言ってると思う。


 それって、変よ」



「意味分かんねえ」



「……今日はもう行くわ。


 またね。ヨーク」



「…………」



 バニは去っていった。



 ヨークはバニを、呼び止めなかった。



 呼び止めたからといって、現状の何が変わるわけでも無い。



 だが……。



 もう少し、一緒に居てくれるのでは無いのか。



 内心では、そんな期待をしていたのかもしれない。



 ヨークは感情を隠すことが、出来なくなった。



「変にもなるだろうがよ」



 誰も聞いていない中で、ヨークは言った。



「皆が俺を笑ったんだぞ?


 俺を囲んで! 笑った!


 変になるだろうが! クソが!」



 ヨークは思い切り、地面を蹴った。



 それで何が起きるわけでもない。



 ただ土埃が舞った。



 土埃の寿命も、長くはない。



 すぐに散って、消えた。



 虚しい代償行為だった。



 ヨークのスキルが告げられたあのとき……。



 同年齢の幼馴染に、ヨークを嘲笑った者は居なかった。



 ある者は戸惑い、ある者は驚き、ある者は安堵していた。



 それに気付く余裕は、彼には無かった。




 ……。




 一週間後。



 バジルたちが、村を出る日が来た。



 平和な村にとって、若者たちの旅立ちは、ちょっとした事件だった。



 村人たちは総出で、バジルたちを見送った。



 バジルたちが赴くのは、戦いの地だ。



 王都では、何が起きるか分からない。



 保護者たちの中には、泣いている者も居た。



「ンじゃ、行ってくンぜ」



 お使いに行くような調子で、バジルが言った。



「皆、元気でね」



 バニは皆に手を振った。



「いってきます」



 キュレーは礼儀正しく、頭を下げた。



「ん」



 ドスはあまり動かなかった。



「行ってらっしゃい!」



「怪我には気をつけてね!」



「応援してます!」



「お前らには期待してるからな!」



「みやげ頼んだぞ!」



 皆の温かい声援を受け、若者たちは旅立っていった。



 美貌の少年が、丘の上からその様子を眺めていた。



 長い艷やかな銀髪に、魔族の血を半分継いだ者が持つ、薄青い肌。



 その全てが美しかった。



 身にまとう衣服だけが、容貌とは不釣り合いにみすぼらしい。



「…………。


 じゃあな」



 ヨーク=ブラッドロードは、少年期を共にした親友たちに、別れを告げた。



 満開だった丘の上の花は、その全てが散ろうとしていた。



______________________________




ヨーク=ブラッドロード



クラス 戦士 レベル1



スキル 敵強化 レベル1


 効果 敵のレベルを上昇させる



サブスキル 戦力評価 レベル1


 効果 対象の名称、レベルを判別する



ユニークスキル ニューゲームプラス


 効果 全てをやり直す



SP ???+1086



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