第一八二話 合流

 高速を霞が関で降りた後、道路に一度車を停めて、お土産と渡すものの整理をする。


「今は田谷さんが大容量の冷凍可能な収納を持っているから、クーラーボックスはそこまで必要ないですよね。だから良ければ一つ、アラヤさんに渡すのに使っていいですか」


「私はかまわないと思う。田谷君は」


「問題ないと思う」


 お土産やキャンプ用品を収納しまくったけれど、それでもまだ俺の収納は余裕がある。


「ならまとめて詰め込んでしまいましょう。とりあえずこのクーラーボックスを空けますから、田谷さん、この中身を冷凍で収納してください」


 外は暑いので、作業は車の中でちまちま行う形になる。

 ただ収納を使えば、それほど難しくはない。

 車も大きいし、前席からでも後ろに移動できるし。

 最後に上野台さんが、クーラーボックス内を魔法でキンキンに冷やせば完了だ。


「それじゃアラヤさんにメールします。返事が来てから、向かえばいいと思います」


 西島さんがメールをうちはじめる中、俺もスマホを操作する。

 掲示板に今、どんな情報が出ているのかが、気になったのだ。

 特に気になるのが四国・九州方面についての情報と、皇居東御苑関係の情報の有無。


 俺には上野台さんのように、生成AIを使って情報をまとめるような能力はない。

 だから掲示板にある標準の検索機能を使って、調べてみる。


 まずは四国。

『四国』、『香川』、『愛媛』、『高知』、『徳島』で検索したが、情報が出てこない。

 書き込まない人ばかりがいるのか、本当に人がいないのかは不明だ。


 次に九州について。

 こちらは結構出てくるが、魔物の情報はない。

 九州温泉巡りをしている人がいるようで、現在は霧島温泉郷の各湯をはしごしている模様。

 

 こうやって漫遊している人がいるという事は、九州の魔物はほぼ狩りつくされたという事だろうか。

 掲示板検索では、それ以上のことはわからない。

 

 ただ、今調べている目的とは異なるけれど、気になる情報があった。


『台風が出来て接近してきている模様。運が悪ければ二七日あたりに直撃か』


 九州温泉巡りの人が、そんなことを書いていた。

 なので天気予報のサイトを見てみる。


 天気予報サイトは自動で動いているようで、この世界でも毎日各地の天気予報や天気図を掲載している。

 そして確かに、台風の情報も出ていた。


 台風の現在位置は硫黄島の南西。

 予報によると、あと三~四日で九州南部に上陸するらしい。

 その後は一日掛けて九州を北上し、二九日ごろ九州から北に抜ける。その後日本海を進み、翌三〇日頃に新潟に上陸して、東北東に進んで船台で太平洋に抜けるという予想だ。


 この予報通りだと、三〇日や三一日は外で活動できない可能性がある。

 それまでに東御苑の魔物を何とかしないといけない訳だ。

 残された日数は案外少ない。


「メール返信が来ました。宿泊OKだそうです。ただ、待ち合わせ場所は変更したいそうです。東京駅側の高級ホテルに先程から人らしい反応があるので、反対側の北桔橋門がいいそうです」


 人らしい反応か。


「近づいて、敵か味方か確認しますか」


「今はまだ、余分な事はしないでおこう。東京駅と反対側から回ればいい。まずはこの道、突き当たりを左だ」


「わかりました」


 俺は車を発進させる。


「それにしても、よくこんな短期間で、会って泊まるところまで話が進んだなあ」


「ずっと魔物と一緒だったので、着替えが欲しいし、お風呂も入りたいそうです。宿泊場所はまだ相談中ですが、皇居からすこし離れていてもいいそうです。途中で着替えを入手できるお店に寄りたいそうなので、銀座のユニクロに寄って、ついでに地下のスーパーで食料を仕入れて、それから適当なホテルに向かおうと思います」


 既に西島さんの思考は、接待ルートに向いているようだ。

 なら取り敢えず、任せてしまったほうがいいだろう。


 アラヤさんがどんな人なのかは、気になるというか正直不安だ。

 ただ敵なら、俺の察知+でわかる。

 だからそうでないなら、極力手出しをしない方向でいこう。


「次の交差点を右折だ。あとはゆっくり行って、歩道橋を過ぎたら右側へ道を渡って」


 言われたとおり走って、皇居の入口っぽい場所を過ぎた先に歩道橋があった。

 その先すぐの場所の中央分離帯が切れた所を、右側へ入る。


 確かに背の低い門扉があって、その先に道が奥の方へ続いているのが見えた。

 ただし人影はないし、察知+の反応もない。


「ここでいいです。迎えに行ってきます」


 西島さんが扉を開けて降りる。

 そのまま門の方へ歩いて行って、門扉に張ってある『開園日カレンダー』とある案内に触れた後。


「西島咲良です。迎えに来ました」


 門の向こう、誰もいない方に向かって、そう話しかけた。

 次の瞬間、門の前にふっと何かが出現する。


 女の子だ。女の子といっても多分俺より少し上くらい。

 Tシャツにパンツ姿で、黒髪肩までの、ごく普通という感じ。


 今まで見えなかったという事は、隠蔽出来る魔法を持っているのだろうか。

 スマホに表示されないし、その辺を聞くほど本人との関係がすすんでいる訳では無い。

 だから今は確認出来ないけれど、頭の中に入れておこう。


 その女の子は西島さんと何か二言三言会話して、そしてこっちにやってくる。

 そして扉を開け、西島さんの後を追って乗り込んだ。


「すみません。アラヤです。よろしくお願いします」


「それじゃ銀座の、マロニエロード2に向かって下さい」

 

 これは西島さん。


「はいよ。ただ最短だと東京駅側にいる連中に気づかれそうだから、少し遠回りする。という事でUターンして、元来た道を戻ってくれ」


「わかりました」


 言われたとおりUターンして、元来た方へ。


「これから大きいユニクロとGU、そしてスーパーマーケットがある建物に行こうと思います。もし他に行きたい場所とかあったら、遠慮無く言って下さい。あとホテルは、お風呂が充実しているということで、こんな感じに候補を考えました。もっと近い方がいい、高級そうな方がいいというのがあったら、教えて下さい」


 これは西島さんの接待モードなのだろうか。

 そう思いつつ、俺は車を走らせる。

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