第一一六話 特典

「それにしても首都圏はどうなっているんだろうな。シンヤが言う通り、情報はないけれどさ」


 情報か。そういえばあれはどうなのだろう。


「前に協力者募集でネットに載せていたのがいましたね。あれはそれなりに人口がいそうな場所っぽかったですけれど」


 俺自身は以降、あのWebページを見ていない。どうにも読んでいてイライラするから。

 ただ継続して内容を更新しているのなら、参考になる情報が書かれている可能性は無いわけではない。


「ああ、あれはおそらく愛知の何処かだ」


 シンヤさんがあっさり返答する。


「どうしてわかったんですか?」


「背景にあった電柱にあの辺にしかないスーパーの名前があった。何処の何店かまでは文字が小さく読み取れなかったが」


「よくそんなの気づいたね。ひょっとして愛知に昔、住んでいたとか?」


「大学時代、ローカルスーパーを巡りながらバイクで旅をするのが趣味だった。だから東北から関東甲信越、中部くらいまでならそこそこの大手ローカルスーパーの名前を覚えている」


 そんな趣味もあるのか。

 バイクで旅をするのはわかる。けれどローカルスーパー巡りというのは俺の知らない趣味だ。


「あのページは内容のある更新をしていない。毎日写真をアップしているが、出てくる魔物の顔ぶれが同じだ。レベルアップをしている様子もない。おそらくは同じ日に撮った写真の使い回しだろう。

 毎日のレポートでも最高レベルがそこまで上がっている様子は見えない。つまり書いてある程には上手く行っていないんだろう。あのページでわかるのはそのくらいだ」


 なるほど。


「レベルが上がっていないという事は、他でも魔物が少なくなっているという事ですか?」


「魔物は35日間均等に出るのでは無く、早い内に出てきて、あとは生き残り戦になるんじゃないかという予測か。少なくとも船台はそんな傾向があるようだ。だから可能性がない訳じゃない。

 ただ断定は危険だ。情報が少なすぎる。それに以前のようなルール変更があるかもしれない。今はそういった推論に期待しないで、安全を見越しつつ動く方が賢明だ」


「シンヤが言う通りだけれどさ。だとしたら関東に向かうのは、あまり正しくないんじゃないかな」


 上野台さん、結構厳しいことを言った。

 そしてその言葉で俺は感じる。上野台さん、シンヤさんの事を結構心配しているという事に。

 シンヤさんは頷いた。


「その通りだ。関東は放っておくのがおそらくは正しい。魔物同士の数の減らし合いで数が減る可能性は高い。僕以外の誰かが向かう可能性も高いだろう。もし全国で魔物が数を減らしているのなら、最大の人口を誇った首都圏近郊が経験値を稼げる最後のエリアになるだろうから」


 上野台さんはため息をついた。

 そして、三呼吸分くらいの間を置いて、西島さん、俺、そしてシンヤさんの順に見た後、口を開く。


「ごめん、シンヤ。悪いのはシンヤじゃなくて私だ。多分シンヤは言わないようにしているんだろう。そこまでわかっているのに、それでも聞きたいと思ってしまうし、わかってしまうんだ。

 だから私はシンヤに聞いてしまう。何を隠しているかをさ」


 隠している。どういう事だ。シンヤさんが何を隠しているのだろうか。

 予想外の言葉が出てきて、俺には頭の整理がつかない。


 上野台さんはまたため息をついて、そして続ける。


「シンヤには私や田谷君、咲良ちゃんが知らない情報が知らされているんだろう。違うという意見は聞かない。私は誰かが何かを隠している、もしくは嘘を言っているというのがわかってしまうんだ。私の性格の悪さに対する罰なんだろうけれどさ、このスキルは」


 嘘や隠し事がわかる能力か。


「隠している事がわかっていて、それでもこの場で聞くのか」


 上野台さんは頷く。


「ああ、そうさ。我ながら嫌な性格だと思うけれどさ。それに田谷君も咲良ちゃんも私よりよっぽどまともだ。隠しておく必要は無いと思うよ。それに知るのならまだ序盤戦のうちがいいだろうと思うしね」


「上野台さんにはもうわかっている訳か。そう言う事は。ひょっとして、そっちにも通知が行ったのか」


 上野台さんは首を横に振る。


「いいや。私には通知は来ていない。おそらくは田谷君や咲良ちゃんにも。

 ただ内容は想像出来る。おそらくは経験値とか戦果によって、世界が戻った後に・・適用される何らかの特典を得る事が出来るんだろう。望みを一つ叶えてやろう、とかいう感じでさ。だからシンヤは経験値を稼ぎにいく訳だ。

 個別の事情は言う必要はない。一般的包括的な表現でいいから、何がシンヤを動かしているのか、教えて欲しい。一部でも教えると条件が無効になるとかの場合は、『教えられない』という返答でいいから」


 シンヤさんは自分のスマホを確認した後、ふうっと息をついた。


「教えてもかまわない。そう表示された。それに確かにここで言わないのもフェアではないのだろう。

 上野台さんの予想通りだ。僕が狙っているのは願いを叶えるという特典。どれくらいの望みまで可能かは経験値次第とされていて、具体的な値はわからない」


「その情報が入ったのは何時くらいだい?」


「ルール変更があった日の夜だから、八月四日か。夕食が終わって自分の部屋に戻った後、スマホに表示された」


 シンヤさんの言葉と同時に、スマホが振動した。

 何となく想像がつくが、画面を見てみる。


『条件が満たされた事により、新たな規則ルールが開示されます。内容は、元の世界に戻る際の特典についてです……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る