第一一五話 シンヤさん、言い出す
「失礼します」
シンヤさんが入ってきた時には、自分で焼くステーキを除いて、ひととおりの料理がすぐ食べられる状態になっていた。
「お疲れ~。どうだった、山型や福縞は」
「神ノ山で出た集団は結構強かった。ボスのレベルは変わらないが、メイジバガブが二体、アークゴブリンも三体いた。討伐が無かったからレベルが上がっているのだろう。
福縞はそこまでレベルが高くなかった。まだ集団を作るような統率種がいない状態に感じる。既に集団が出て行った後は違い、レベル八前後までがそこここに出るという状態だ。
それにしても今日も豪華だな、夕食が」
確かに、どう見ても豪華なのは間違いない。
「新しい冷凍食品店を開拓したんだ。和牛のステーキと寿司類はそこの商品。野菜類の惣菜は無かったから、ファミレスから持ち出したものだけれど。
ステーキは各自、焼きたいように焼いて。岩塩を振ってもいいし、醤油でもいいし、何もつけず最後にステーキソースでもいい。ホットプレートは高温にしているから、焼き過ぎたくなければ適宜自分の皿で肉を休ませて。肉が足りなければ牛タンの塩味と味噌味があるから、言ってくれれば解凍して出すからさ。
それでは、いただきます」
「いただきます」
夕食を開始。
「そういえばそっちは大丈夫だったか。車が全損したと書いてあったけれど」
シンヤさん、取り敢えず今は、此処から出るという話題を出さないようだ。
「あれでダメージがなかったのは田谷君のおかげだね。火球が飛んでくる前に私と咲良ちゃんを抱えて逃げてくれたからさ。あと魔法で防御もしてくれたし。結構爆発していたから、逃げただけでは怪我くらいしていただろうしさ」
いや、それほどでもない。
「防御の方は範囲防御という魔法で、自動ですから。ただ危険察知の方は、直前でないと気づけません。だから反応が遅れました」
もっと早く気づければ、と思うのだ。
あと、あそこで車を壊してしまったのは結構痛かった。
おかげでその後、1時間ちょっと、余分に時間を使ってしまったのだ。
「いや、それでも危険回避出来るのは助かるし、安心出来る」
「だよね。おかげで怪我一つ無かったしさ。実際火球なんてヤバいのが飛んでくるのは予想外だったしさ」
「でも上野台さんが魔物の集団が迫っている事に気づかなければ、もっと危険な事になっていた筈です。店の中にいて、それでも魔物の集団が近づいてきたのに気づいた。おかげで外に出て、攻撃なりその他の対処なり出来たんですから」
シンヤさんは頷いた。
「三人いると何があっても誰かしら対処出来て安心感がある。僕はレベルを上げまくってみたけれど、それでもそこまでの安定感はない。新たな銃を入手出来たおかげで、三百メートルくらいまでは攻撃範囲になったけれどさ」
そこで一呼吸置いて、和牛ステーキをひっくり返して。
そしてシンヤさんはまた話し始める。
「ただ、そろそろ船台近辺では魔物が少なくなってきた。だから僕は移動しようと思う。もう一度四号線沿いに南下して、関東平野をできる限り東京に近寄ってみたい」
シンヤさんが、出るという話を切り出した。
「危険だと思うよ、あの辺は」
「ああ、わかっている」
シンヤさんは上野台さんに頷いて、そして続ける。
「それでも歪みを消去して元の世界に戻すには、やはり関東をどうにかする必要があると思う。勿論魔物同士の戦いでどうにかなる可能性は否定できない。しかし情報がまるで無い。だからまずは僕自身の目で見て、確かめたい」
「一人で行くつもりなんですか?」
西島さんの問いにシンヤさんは頷く。
「危険なのはわかっている。だからこそ一人の方が身軽だし動きやすい。自動防御の魔法も自分用なら持っている。バイクで動けば、複数の攻撃を受けても自動防御を使いながら逃げられるだろう。だから一人のほうがいい」
理由も理屈も論理的には理解出来る。
俺がわからないのは、そこまでして元の世界に戻そうという気持ちだ。
しかし、そうしたいと思うなら、関東の状況が気になるのは確かだろう。
そして今のシンヤさんは、おそらくレベル的には日本有数クラスの筈だ。
だから俺が止められる理論とか理屈とかは無い。
言えるのはこのくらいだ。
「何ならあのスクーター、乗っていきますか? 大型バイクと比べると速度は出ないですけれど」
「いいのか。あれは田谷君用だろう」
それは問題無い。
「今後は車で動きますから」
上野台さんがいる以上、もうスクーターで回る事はない筈だ。
三人乗りなんて手段も考えられなくはないけれど、個人的に勘弁して欲しいし。
「済まない。なら使わせて貰う。安定感があって乗りやすいし、そこそこ力があるから楽だ。あれなら運転しながらライフルを撃てる」
いや、ちょっとそれはおかしい気がする。
「ライフルを、スクーターを運転しながら撃つんですか?」
「やってみた。あの拳銃型に改造した奴なら問題無い。自動装填を使えば連射も出来る」
それは相当な腕力がなければ無理だろう。敵を狙う事が可能な魔法かスキルも必要だし。
「なら時間があるときでいいからさ。一日一回くらいは連絡を入れてくれないか。私達も入れるけれど。互いに元気でやっているって安心が欲しい」
「わかった。それは約束しよう。僕の方もこっちがどうなっているか知りたい」
そう言ってシンヤさんは溜め息をつく。
「ここは気に入っている。上野台さんも田谷君も西島さんも好きだし、毎日の飯も申し訳ないくらい美味い。ここの宿も温泉がある上、環境的に安心出来る。申し分ないんだが、どうしても関東が気になって仕方ない」
きっと理屈ではないのだろう。
俺には多分、理解出来ないのだろうけれど。
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