第一一四話 風呂での会話
風呂の中で、ルートの検討が続いている。
「とりあえず宙尊寺を見に行くかどうかだな。魔物対策的には粟原市と壱ノ関市で戦うかどうかだけれどさ」
「見に行かなければ多崎から直接、成子温泉ですね。うーん、悩みます」
一応俺からの注文も付けておこう。
「急カーブが多い難しそうな道は無しでお願いします。運転に自信が無いですから。出来れば高速か、太めの国道で」
ついでにスマホで地図を見て確認。
「高速だと山型道か、飽田道か。国道は三百番台以降は出来れば無しで」
「確かにこの辺の三百番台以降の国道だと、道が曲がりくねっているし、集落が少ないから魔物もいなそうだよな」
「そうですね。ある程度魔物を倒して経験値を稼ぐ必要があります。あと高速道路のサービスエリアは楽しいですよね。お土産は日持ちがするものが多いですから、まだ大丈夫なものが結構あると思います」
そう言えばサービスエリアも、船台に来てから行っていないと思う。
食生活はかなり充実しているけれど。
ただし今進んでいる話には、前提条件がある。
だからその辺を一応、ここで確認しておこう。
「でもシンヤさんが、此処を出ると言い出すとは限らないですよね。確かに最近は、経験値稼ぎの場所が遠くなっていますけれど」
「実はさ、昨日からSNSのメッセージで、そんな話をしているんだ。私から聞いてみたんだけれどさ。魔物が少なくなってきたけれど、大丈夫かどうかって。このままのんびり四人で船台でやっていってもいいし、何処かもっと魔物が多い所へ行ってもいい。どうするかってさ」
うわっ。いつの間にと言いたい。
「でも、確かにシンヤさん、考えている感じでした。船台の中心街に魔物の集団が出なくなってから」
西島さんも結構見ているなと感じる。
まあ確かに俺も、何となくそんな感じは受けていたけれど。
「ああ。ただ私は口下手だからさ。なんでメッセージで聞いてみた訳だ」
うーむ。ちょっとここは、突っ込ませて貰おう。
「上野台さんが口下手というのは、ちょっと疑問ですけれどね」
「今でも喋るのは苦手だぞ。小学校時代はほとんど喋らなかったからな。回りとまったく話題があわなくてさ。何で芸能人どうこうだとか、誰が好きだなんだという話が楽しいのかとか、そもそもその論点に意味や論理はあるのかとか。私には理解出来ない世界過ぎた。幸い身体が大きめで腕力もあったからいじめにはならなかったけれどさ。妙な事をしてきた奴は鉄拳制裁したから」
前にも言っていたなと思い出す。
『小学校は地元公立だったからいろんなのがいて大変だった』
鉄拳制裁部分は何というか、アレだけれども。
ただ馬鹿には日本語が通じないので、通じる言語としての暴力なんてのが必要なのも事実だ。
「これではいかんと中高一貫の中学に行って、回りの会話が理解不能という世界からは脱する事が出来たんだけどさ。今までが今までだったんで、中学以降も会話が苦手で。なんで会話に使える定型句なんて覚えまくって、パターンで会話するなんて事をしていた。いつも同じパターンだと問題だから、幾つかパターンを記憶してそのたびに使い分けるとか」
思い当たる事が幾つかある。
剣とパンのいずれを選ぶか、とか、火葬場ですとか、あめんぼ赤いなとか。
あれはきっとパターンのひとつなのだろう。
「まあそれでも、小学校に比べると大分ましな中高生活を得て、自由気ままな大学生活に突入したんだけれどさ。大学時代は高校までと比べて更に最高だ。自由度がまるで違って。だから中高で今ひとつでも大学は楽しいから、その辺は期待していいと思うぞ」
中高で今ひとつでも、大学は期待していいか。
確かに公立だった小中に比べると、高校は大分ましだった。
だから三年間真面目にやって、それなりの大学へ行けば大分楽しいなんてのはあるかもしれない。
「とまあ、大分関係ない話をしてしまったけれどさ。そんな訳でシンヤは今日、話を切り出す筈だ。このことについて話しておいたと今、メッセージを入れたからさ。夕食の時にでも言ってくると思う」
何というか容赦ないなと感じるけれど、口には出さないでおく。
「わかりました」
「それじゃそろそろ時間だし、夕食の支度をするか」
「そうですね」
もう俺も慣れたので、丸見えになる前に違う方向を向く事が出来る。
ただそのままだと風呂から出る事が不可能だ。
なので後ろ姿が見えてしまうのだけは避けられない。
これくらいは勘弁してもらってもいいだろう。
誰に勘弁して貰うのかは俺自身よくわからないけれど。
◇◇◇
本日の夕食は、永町の冷凍食品専門店で買った、
冷凍にぎり寿司9カン
海鮮丼セット(細切れの刺身とごはんが冷凍で入ったもの)
冷凍松阪牛ステーキ
と、ファミレスから持ってきた、
青マメのサラダ
ほうれん草のソテー
アスパラガスの温サラダ
というメニュー。
例によって上野台さんの温度調節魔法でほぼ瞬時に解凍され、適温となっている。
海鮮丼セットはファミレスから持ってきた深めのボール皿に入れた。
ステーキはいつでも焼けるよう、ホットプレートと油を準備済み。
ひととおり座卓の上をレイアウトし終えたところで。
「あのスクーターの音が聞こえます。シンヤさんが帰ってきたようです」
窓は閉め切って冷房をかけている。
だから西島さん以外には聞こえていない。
でも西島さんがそう言うのなら確かだろう。
「足りなそうなら追加で牛タンも用意しようか」
いや、充分過ぎるだろう。
ただあくまでそれは俺の感想なので、こう告げるにとどめておく。
「実際に足りなくなってからでいいと思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます