第二五章 特典

第一一三話 留まるか、それとも……

 上野台さんが魔力が少なくなったから、攻撃できない。

 だから魔物が出た時は、西島さんか俺が車から降りて対処する事になる。

 そんな状態だから移動速度はそこそこ遅い。


 それでも途中、船台中心部近くの銃砲店に寄って、ライフル用のスコープを3種類入手。

 後で西島さんに実際に使って貰って、どれがいいかあわせてみようと思う。

 三百メートル位なら撃たなくても当たるかどうかわかるようだし。


 更に寄ってみた店もある。


「他にも違うチェーンの冷凍食品の店があるみたいです。いつもと違う商品があるか、帰りに寄ってみてもいいですか」


「どれどれ……問題無いだろう。あの宿に帰る方向だからさ」


 という事で、高速では無く下道で、五百メートル~一キロおきに出る魔物を倒しながら、いつもとは違う冷凍食品の店へ。


「向こうの店よりちょっと大きいな。あと売っている物が若干高級志向だな、ここは」


 上野台さんの言う通り、店が少し広く、売っているものはちょいお高めだった。


「このラインナップだと、松阪牛かにぎり寿司、どっちかを夕食にしたくなるよな」


「いっそ両方ではどうでしょうか。ステーキを一人一枚焼いて、あとはにぎり寿司、この九かんセットを一人二つで用意すれば」


「いいな、それ。でもにぎり寿司の片方をこの海鮮丼セットにした方がいいかな」


「確かにそうです」


 完全に食べ過ぎだと思う。

 でもまあ、食べてしまうのだろうけれど。


「あとこのすき焼きもいいよな」


「スイーツも、この塩シュークリームは持っていきたいです」


 そんな話からはじまって、挙げ句の果てには……


「何ならクーラーボックスを車に積んでもいいかもな。一日二回くらい、魔法でガンガンに冷やしておけばそれなりに持つだろう」


「この車だとぎりぎりですけれど、この前のワゴンのように大きい車なら車内に置いておけますね。ならコンビニに寄らなくてもいつでもアイスが食べられます」


「でも咲良ちゃんの魔法収納アイテムボックスなら、普通にそのくらい出来るだろう」


「冷凍を収納出来るのは二十キロくらいまでです。だから結構抑えています。大きいクーラーボックスがあれば、前に松島で食べた美味しいアイスも全種類、豊富に取りそろえておけます」


「明日にでも寄るか。車とクーラーボックスを調達して」


 そんな事を話している状態だ。

 しかしもし船台を外れるなら、そのくらいの装備をしておいた方がいいのかもしれない。

 ここまで各種の店が多い場所は、地方側へ行くともう無いだろうから。


「パンやピザは、向こうの店と結構違いますね」


「ああ。この辺もたっぷり取って食べ比べてみたいところだ」


 例によって三十分くらい選んで、それからやっと宿へと向かう。

 結果、到着したのは午後五時半を回っていた。


「シンヤは福縞を今出たそうだ。だいたい一時間くらいかかるって言っている。だから今日は風呂三十分で、あと夕食の準備だな」


 さあ、ここからが問題だ。

 建物に入って、二階に行って、ここが運命の分かれ道。


「それじゃ俺は男湯の方に行きますか……」


「話をするには一緒の方がいいだろ」


「そうです。それに私の魔法で身体を洗えますから、その分湯船でゆっくり出来ます」


「もしシンヤが出るつもりなら、これからどうするかについても話し合いたいからさ」


 脱出、失敗だ。

 という事で本日も女湯。

 煩悩を抑えつつ、今日も露天風呂で三人という状態になってしまう。


「それでまた3人となったらさ。船台にとどまるかい? それともまた旅に出るかい?」


「上野台さんは、私達と一緒に行ってくれるんですか?」


 西島さんの言葉に上野台さんは頷く。


「お邪魔じゃなければだけどさ。何せ私、移動手段がないからさ。まあレベルが結構上がったから、此処に留まってもそう問題はないだろうとは思うけれどね」


 上野台さんもレベル三十五は超えていると思う。

 そしてここ数日、船台市内では上限レベルの敵が出現していない。

 大体においてレベル七位までだ。

 なら上野台さんは此処に留まっていても、特に危険ということはないだろう。


 ただ個人的には、いてくれるとありがたい。

 間違いなく俺より視点が広いし、知っている事が多い。

 おまけに見える範囲ならかなり遠くとも攻撃を仕掛けることが可能だ。

 俺や西島さんにはわからない、遠方の敵を発見することも出来るし。


 ただそういった実利的理由より、いてくれると気分的に楽、もしくは安心感が増すという理由の方が大きい気がする。

 だから俺が口に出したのは、こんな言葉だ。


「いてくれた方がありがたいです。知識的にも戦力的にも安心出来ますから」


「私もです」


「ありがとう。それじゃ最初の質問。3人になった場合、船台に留まるか、それとも他の場所へと移動するか。移動するならどっち方面に向かうか」


 移動か。そう言えば最初、船台に来た理由は……


「元々は奥の細道を気取って、松島と象潟を回る予定だったんですけれどね」


「なら石薪に行って、宙尊寺へ行って、鳴古温泉を経由して進上、坂田、象潟って感じかな。象潟は確かもう、陸地化してしまってかつての風景は残っていないと読んだ気がするけれど」


 上野台さん、相変わらず何でも知っているなと思う。


「ええ、それは知っています。それに白川の関に寄らなかった位ですから、そこまで忠実にして回っていた訳でもないです。元々は日本海側で、海に沈む夕日を見たいなんてのが理由です。ただ日本海側へ行くだけなら面白くないから、奥の細道っぽく行ってみようと思ったんです」


 確か大新井のホテルでそんな話になったと記憶している。

 まだこの世界になって一日目のことだ。

 半月経っていないのに、随分と前のことのように感じるけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る