第二六話 本日の作戦

 テーブルの上に地図を置いてページをめくる。


 まずは出来るだけ早くレベル六になっておきたい。勿論新たな魔法を入手する為だ。


 その為にはレベル一のゴブリンを一人八体倒す必要がある。俺と西島さんをあわせて十六体。

 これくらいなら水都の中心街で倒せるだろう。あそこで昨日二十体以上を倒した。今日もその位は発生している筈だ。


 入手出来た魔法によっては戦法や装備を考え直す必要がある。そういった事をするなら出来るだけ早い方がいい。

 特に装備を考え直すならこの近くにいるうちがいい。あのホームセンターなら他の店より物が揃っているだろうから。


 魔法を入手して、装備を調えて、戦法を確認。そこまで出来たらいよいよ次の目的地へ向けての移動となる。


 レベル九までアップするには、レベル六になってから経験値が九六ほど必要。レベル一のゴブリン換算で一人三十二体倒す必要がある。これがレベル一〇だと一人四十六体倒さなければならない。


 一〇分に一体倒すとして、三十二体なら五時間二〇分、四十六体なら七時間四〇分。となると今日中の目標はレベル九くらいが目安でいいだろう。


 勿論それだけの発生するような人口がある場所を通る必要がある。なら今日通るべきルートは、やっぱり……


 そこまで考えたところでコーヒーの香りが漂ってきた。どうやらコーヒーがはいったようだ。

 ガラガラ、風呂場の扉が開く。視界の端に白いバスローブ姿が見えた。どうやらちゃんとバスローブは着ているようだ。


 もう何か着てさえいればいいや、裸で無ければ。なんて思ったりするのは堕落だろうか慣れだろうか。


「いい香りです。いかにも朝と感じます」


「飲むか。砂糖とクリームはあるけれど」


「いただきます。まずはブラックで」


 カップ二つに均等に注ぐ。漂う香りが一段と強くなった。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 両手でカップを抱える姿が木の実を頬張るリスっぽい気がする。ただ彼女は一口飲んだ後、顔をしかめた。


「やっぱりブラックは苦いです」


 そう言ってカップ入りクリーム二つと砂糖一袋を入れてかき混ぜる。

 何というか、ラノベや漫画によくある展開だな。そう思いつつ俺は自分のコーヒーを口に。俺はコーヒーは苦い方が好きだ。その方が頭がシャキッとする気がするから。


「今日行く場所を調べていたんですか?」


「ああ」


 俺は開いた地図を彼女の前へやりながら説明。


「レベル六になると魔法を覚える可能性が高いらしい。だからそれまでは昨日と同じ水都の街中で魔物を倒して、それから何処か目指そうと思う。

 ルートとして考えている案は二つ。

 ① 北上して日太刀経由で岩鬼いわき市を目指すか

 ② 高速道に乗って一気に卯途宮うつのみや近郊へ行って、そこから北上するか 

 それ以外、例えば水郡線に沿って氷山こおりやまのルートもありで、何処を目指せばいいと思う?」


「北上が自然な感じがします。高速道路で移動しないで人口がそこそこ多めの場所を通れるように見えますから。

 岩鬼市からは北は人が多い場所が少なくなるので、一度氷山の方へ抜けるか、一気に船台せんだい手前まで行ってしまう必要がありそうですけれど」


 確かに地図の町部分を繋げていくとそれが最適解という気がする。ただそのルートはひとつ気になる事がある。


「俺も岩鬼から郡山へ抜けて、その先福縞や船台へ向かうのがいいと思う。ただこのルートだと白川の関を見たかったら少し戻る形になるけれど」


 奥の細道的に辿るなら白川の関はそれなりのチェックポイントだと思うのだ。他にこれでパスするのは大多原で滞在したとか、那須の殺生石なんてのもあるけれど。


「ネットで見たら白川の関は見る物があまり無さそうでしたから。松島と象潟が目的地というだけでいいと思います。

 そもそも奥の細道というのだって単なる目安みたいなもののつもりですから」


「わかった」


 なら問題無い。


「それでは今日泊まるのは岩鬼市の近くでいいですか」


 そうだ、ホテル選びを忘れていた。


「ああ。岩鬼なら人口があるから、そこそこ経験値を稼げると思う。疲れたら移動という形になるから、岩鬼の近くで、周辺に人家が少なめな宿がいい」


「わかりました。では調べてみましょう」


 スマホとタブレットでネット検索。どうやら西島さんの条件は海と温泉のようだ。


 ◇◇◇


 今日泊まる宿の見当をつけて、ご飯を食べ、部屋を片付けてるともう七時半過ぎ。

 部屋を出て廊下を歩き、エレベーターへ。

 

「いいホテルでした。部屋が広くて使いやすいし、お風呂も広いし、部屋のお風呂も気持ちいいし」


「ああ」


 やたらお風呂にこだわっている気がする。なのでつい聞いてしまった。


「お風呂が好きなのか?」


「お風呂で喘息の発作が引き起こされる事があるんです。温度差だけではなくて、湯気を吸い込んだりするだけでも。だから今まではぬるめのシャワーをさっと浴びて身体を洗うくらいで。

 発作が起きなくなったら是非大きなお風呂でゆっくりしたいと思っていたんです」


 思ったより深刻な話だった。聞いてよかったのだろうかと後悔する。

 西島さんの話は続いている。


「それで泊まるホテルを決める時、お風呂が広くて快適そうなところを選んだんです。

 何というか、控えめにいって最高というか、優勝というか。大きなお風呂も良かったですし、部屋のお風呂も気持ちよかったです。あそこでのんびりして、少し暑くなったら浴槽に腰掛けてなんてしながら朝日を待つのは最高でした。

 ちょっと最高すぎてこんないい事一人で楽しめないと思って、つい田谷さんを起こしてしまいました。眠かったらごめんなさい」


 なるほど、そういう流れだった訳だ。ならまあ仕方ないだろう。それに実際……


「確かに朝日は綺麗だった。起こしてくれてありがとう」


 ただこの調子だと当分は混浴というか目の毒は続きそうだ。しかしそんな事情なら仕方ない。頑張って我慢しよう。

 そう思った時だった。


 ピンポンパンポン。今までと違う音でスマホが鳴った。


「何でしょうか」


「わからない」


 俺達はスマホを確認する。 

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