第二七話 状況レポート

『一日経過時点における本世界のレポート』

 

 内容は数字が多く考察が必要そうな感じだ。


「下のロビーで確認しよう」


「ええ」


 エレベーターで一階へ。そのままロビーにあるソファーに座ってスマホ画面を確認。


『多重化措置後一/三五日経過。

 魔物出現数累計:二二九万八五七一体

 うち二十四時間以内の出現数:二二九万八五七一体

 魔物消去数累計:四一万三七四五体

 うち二十四時間以内の消去数:四一万三七四五体』


 出現した魔物の八割以上が倒されずに残っているという事か。 そう思いつつ先を読み進める。


『当世界開始時人口:八〇四五人

 直近二十四時間以内の死者数:四〇三人

  うち魔物によるもの:八四人

 累計死者数:四〇三人

  うち魔物によるもの:八四人』


「魔物以外による死者の方が圧倒的に多いんですね」


「みたいだな」


 死んだ理由についてはそれ以上出てこない。

 

『現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:四・一

 人間の最高レベル:レベル一三

 人間の最低レベル:二

 魔物の平均レベル:一・〇三

 魔物の最高レベル:六

 魔物の最低レベル:一

 なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大二となります。ご注意下さい』


「レベル一三だとゴブリンなら一二〇体くらい倒したのか」


「人口が多い大都市で、魔物を探しながら移動して倒さないと無理です。その数は」


 俺は水都駅前でゴブリンが三体同時に探知された時の事を思い出す。あの時やもっと凄い状況が続くのは洒落にならない。


「やっぱり大都市に近づくのは避けた方がいいか」


「そうですね。一度に多数の敵と戦うのは怖いです」


 西島さんも同じ事を考えていたようだ。


『本世界における魔物出現率:二・八六パーセント

 歪み消失率 〇・五パーセント』

 最終目標歪み消失率(規定値)達成まで大幅なペース不足』


 つまりこのままだとこの世界は全部消去されるという事か。俺達を含めて。

 ただしまだ一日経過しただけだ。気にすることはない。


「消失率は低いけれど、今は気にすることはないだろう。魔物がそれなりに多くなってからが本番だ、きっと。そうなれば遭遇しやすくなる分、戦いも多くなるから」


「そうですね」


 俺自身は消去されたくないという思いは薄い。こうなる前の世界はあまり面白くは無かったから。ただ西島さんが消えるのは何か嫌だけれど。個人的な気分で。


 しかし西島さんが元の世界に戻りたがっているかは不明だ。むしろ元の世界に絶望していたなんて気配を感じたりもする。だから彼女が戻るべきだと俺は言えない。


 いずれにせよ最後の審判はまだ三十四日先。今考えて結論を出すのにはまだ早過ぎる。多分、きっと。


「それじゃまずはレベル六までは予定通り水都市近辺でレベル稼ぎをしよう」


「そうですね。ところでバイクのガソリンは大丈夫ですか」


 確かにそうだなと思う。


「念の為スタンドがあったら入れていこう」


「わかりました」


 ソファーから立ち上がって、バイクを停めてある正面入口へ向かう。スマホからの警報は今のところない。


 ◇◇◇


「セルフのスタンドって、何か安全装置があるのでしょうか」


「そんな感じだよな」


 セルフのスタンドで給油しようとしたのだが、ホースに付いているレバーを引いてもガソリンが出なかったのだ。それも一カ所では無い。立ち寄った三カ所全部で。


 四カ所目のガソリンスタンドはセルフではなかった。此処ではノズルのレバーを引くだけでガソリンが出てきた。だから結果的には無事スクーターのガソリンタンクは満タンになったのだけれども。


「あと、バイクのガソリンってあんまり入らないんですね」


「確かにそうだな。タンクが小さいのかもしれないけれど」


 今回給油できたのは4リットルだけだった。家の車に給油するときの量を考えるとかなり少なく感じる。


「車より燃費がいいからタンクも小さくて済むのかもしれないです」


 スマホをちらっと見てみる。


『本バイクのカタログ燃費はWMTCモードで四四・九キロメートル/リットル。ただし一名乗車時』

 

 どうやら車の二倍近く走るようだ。


「確かにそうらしい。ただ長距離移動する前は一応ガソリンスタンドを探しておこう」


「セルフではないところがいいですね」


「ああ」


 大新井から水都はゆっくり走っても三十分程度。道は広めの二車線で、ど真ん中を通れば所々に停車している車を気にせずに走れる。


 周囲が畑や田んぼから住宅地になってきたところで、ようやくスマホが警報音を発した。


『魔物確認! 百メートル以内!』


 一体なら問題ないだろう。道のど真ん中、周囲を見回せる場所へとスクーターを停め、二人で降りる。西島さんは拳銃、俺は包丁改造の槍を手に周囲を確認。


「いました。あ、でも少し速いです」


 西島さんの視線の先、左側にある二階建て事務所の影からゴブリンが飛び出してきた。確かにいつもより少し足が速い気がする。見た目はほぼ同じように見えるけれど。


 西島さんは拳銃を前に構える。歩道上から車道へ出て、更にこっちへまっすぐ進んでくるゴブリンを狙う。


 十メートル位まで近づいたところで銃声が響いた。ゴブリンはよろよろ数歩歩いて倒れる。胴体に穴が空いていて動く様子は無い。


 西島さんは左腕を上げてスマホを確認。


「今のゴブリンはレベル二だったようです。だから足が速かったんですね」


 どれどれ西島さんのスマホをのぞき込もうとして顔を近づける。ふっと甘い香りがしたように感じてどきりとした。いや、風呂にだって一緒に入ったのだし問題はない筈なのだけれど。


 いつもと変わらないよう動きと表情を意識しつつ西島さんのスマホを見る。


『ゴブリン(レベル二)を倒しました。経験値六を獲得』


 二日目だから出現する魔物のレベル上限が上がる。先程の通知にあったけれど、いきなり遭うとは思わなかった。レベル二は足が少し速くなって、身体組織が少し頑丈になっているのだったな、確か。


 ただし足が速くなったといってもまだ人間の早足程度まで。そして少し頑丈なくらいでは拳銃には対抗できないようだ。

 とりあえずそこまで強さ的な心配はしなくていいようだと感じる。今日の所は、だけれども。

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