第二八話 覚えた魔法

 水都の街中に入る。やはり魔物が多く出てくるようになった。

 ただし昨日よりは若干少ないように感じる。出てくる魔物がレベル二とレベル一半々だからだろうか。


 複数の敵に同時に攻撃されるなんて事がないよう、ある程度敵の動きが制御できるよう位置取りを考えるようにしている。ガードレールや停まった車などを使うなどして。これはもちろん昨日の駅前での戦いの反省からだ。


 あと気をつけているのはレベル二が出たら優先的に対処する事くらいだろう。レベル一より足が速いから。


 何回か戦いを繰り返して、そして。


「レベル六になりました。新しい魔法が三つ使えるみたいです」


 西島さんが出してくれたスマホを見てみる。


『使用可能魔法(使用回数):風撃初歩(三)。必中初歩(六)。貫通初歩(六)。簡易回復(二〇)。灯火(二〇)』


 魔法の説明は自分のスマホで見る。


『風撃は風を起こして敵を攻撃する技。初歩では二〇メートル先にいるレベル一の魔物がひっくり返る程度』

 

 足止めには便利そうだ。


『必中は遠距離攻撃武器(弓矢、銃等)の命中率を上げる魔法。初歩では命中率が六割向上する』


 必ず当たるという魔法ではないようだ。六割向上は結構大きいが、それでも元々当たらないような距離では意味はなさそう。


 どうしても当てたいとか一〇メートル位先から当てたいという時には有効だろう。今はその程度に考えた方が良さそうだ。 


『貫通は使用武器の貫通力を上げる魔法。初歩では武器接触時点から一〇センチメートルまで確実に貫通する』


 これは敵が強い、硬い時には有効な魔法だ。頑丈な鎧を着装していても一〇センチメートルまでは貫通するという意味だろうから。今のゴブリン相手なら必要はないけれど。


 この貫通は銃だけでなく槍でも有効らしい。西島さんは槍を使わないけれど。

 

 ついでに俺はあとどれくらいでレベル六になるだろうか。


『次のレベルまで、経験値は一必要です』


 なんでもいいから敵を倒せばレベルアップするようだ。


「ありがとう。銃で攻撃するのに役に立ちそうな魔法ばかりだな」


「ええ。でも田谷さんはレベル、大丈夫ですか? 一応均等に倒すようにはしていたと思うんですけれど」


 レベル差が出来た理由はわかっている。


「レベル二の魔物がいたからだろう。それでもレベル六まで経験値は残り一。心配はいらない」


「良かったです。あと魔法、個人的にはいかにもファンタジーな魔法がもう少し欲しかったです。ファイアーとか」


 なんとなく気持ちはわかる。ただ実際に使用することを考えるとファイアーはまずい。


「ファイアーは使いどころが難しいだろう、現実的には。火事が起きると大変だし」


「そうなんですよね。あ、でも氷系の魔法はあったら欲しいです。こうやって立ち止まっていると暑いですから」


「確かにそうだな」


 何せ真夏。まだ朝という時間帯でも街中だと結構暑い。スクーターに乗って走れば風がくるから少しだけましになる。それでも暑いことには変わりないけれど。


「あと一回魔物を倒したら休憩しようか。そこら辺の冷房が効いている店で」


「そうですね。飲み物のほかにおやつが欲しいのでコンビニがいいです」


「わかった」


 スクーターに乗って一〇〇メートル行かないうちにスマホから警告。スクーターを止めて周囲を確認。ゴブリン、速度から見てレベル一だ。


「それじゃ今度は俺がやる」


 槍を短めに持ってゴブリンに近づく。レベル一だから向こうの足は遅い。一〇メートルくらいまで近づいて槍を構え、敵が近づいたところで一気に突き出す。確かな手ごたえ。


 倒れたゴブリンを残してスクーターと西島さんの方へ。


「どんな魔法が手に入ったでしょうか?」


「見てみる」


「一緒に確認していいですか」


「もちろん」


 バイクに固定していたスマホの画面を二人で確認。


『ゴブリンを倒しました。経験値三を獲得。田谷誠司はレベルアップしました。現在のレベルは六です』


 それはわかっている。重要なのは使えるようになった魔法だ。


『使用可能魔法(使用回数):風撃初歩(一)。炎纏初歩(一)。簡易回復(一〇)。灯火(一〇)。収納初歩(常時)』


 いわゆるMPが西島さんより一〇低い。というかレベル五の時より下がっている。何故だろうと思いつつ魔法の説明を確認。


『風撃は風を起こして敵を攻撃する技。初歩では二〇メートル先にいるレベル一の魔物がひっくり返る程度』

 

 これは西島さんの魔法と同じだ。


『炎纏は武器に炎を纏わせて敵を攻撃する技。初歩では攻撃が命中してから一秒間、武器の敵接触面に二〇〇〇度の高熱が発生する。なおこの熱によって武器が損傷することはない』


 いかにもという攻撃魔法だ。ただ現在は一回しか使用出来ない。だから使用は当分後になりそうだ。


『収納初歩は物を異空間に収納、取り出す魔法。収納可能容量は重量依存で現在は使用者の体重の半分ほどの重量の物資を収納可能。常時使用可能な代わり本来の魔力最大値が一〇低下する』


 このせいで魔力が下がったのか。なるほどと理解する。


 しかし魔力が低下してもこの魔法、便利だし魅力的だ。三〇キロ近く収納可能なら相当な量を持ち歩ける。鞄やバイクの収納ボックスがいらなくなるレベルだ。

 ただこの収納、もう少し詳しい性能を確認しておきたい。


『収納可能な物は生物以外。例外として収納対象物に付着した細菌、微生物等体長最大一センチメートル以下のものは無視して収納が可能。この場合、それら生物は収納した時点で消滅する。


 収納した物は収納した時点で同種のものに分類され、混濁や汚染等の心配はない。水等の液体も容器に入れずに収納可能。なお使用者が死亡した場合、その場に収納品が出現する。

 なお収納中も時間は現実と同一に経過する。なお収納時の温度は摂氏二度、湿度五〇パーセント』


 ラノベ的な時間停止機能が無いのは残念だ。しかし冷蔵庫としては使えそうだ。そしてそれ以外は完璧。


「何かずるいです。田谷さんの方が魔法っぽい魔法です」


 確かに炎を纏わせて攻撃する魔法とか、アイテムボックス魔法というのはファンタジー系でよくある魔法かもしれない。なおかつ火災の心配も比較的少なそうだ。強い敵が出た時にはかなり有効な気がする。

 ただ俺の方にも言い分はある。


「その代わり魔力はかなり低くなったし、攻撃に使える魔法は二つだけ。そういう意味では五分五分だろう」


「うーん、確かにそうかもしれないですけれど……」


 あと魔法に関係はないけれど、西島さんがこうやって自分の意見というか感情を言ってくれるのは個人的に嬉しいと感じる。


 弁当とかホテル選びで意見や好みは聞いているけれど、『何かずるい』というような感情的な言葉は今まであまり無かったような気がするから。

 

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